16、変人
あぁ、コイツもおかしいわ。
可愛がられたいとか言って襲って来るなんてイかれてる。
私はザブド殿下の剣を受けながらゲンナリした。
しかもザブド殿下の剣は一撃一撃に熱波が加わり、受ける度いちいち熱い。
思わずシャツの胸元をブチブチッと開けると、ザブド殿下は赤くなった顔で剣撃を中断した。
「なっ、お前!嫁入り前の令嬢がはしたないぞ!」
こういう所は常識人なんだな。
「仕方ないではありませんか。殿下の身体から出る熱波が熱すぎるのです。それに、今ので殿下がお強いのは分かりましたので、私が殿下を指導する事はございません。」
私がきっぱり断ると、ザブド殿下は悔しそうに剣を仕舞う。
しかしすぐに私に詰め寄ると、ギュッと手を握って来た。
「アルマ、本当にリーヴスと結婚する気か?俺はお前を愛してるんだ。」
真剣な表情で私を見つめるザブド殿下だったが、こちらは熱くてそれどころではない。
魔法を使って冷やしたい所だが、こんな近距離で冷気を発生させザブド殿下の身体に万が一影響があると困るので、魔法を使うことも出来なかった。
はぁ…マズイ。
熱くて意識が…。
「アルマ?」
朦朧としてグラッと傾く身体がザブド殿下の胸元で受け止められる。
ところが触れたザブド殿下の身体が熱すぎて、私はそれがとどめとばかりにフッと意識を失った。
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「…あれ…ここどこ…」
ガタガタと揺れる振動で目を覚ました私は、ぼーっとした頭で辺りを確認する。
が、何故だか身体の自由が利かず、何かにがっしりと抱き抱えられていた。
「アルマ、気が付いたか?」
すぐ側で聞こえた声にバッと顔を上げると、そこは馬車の中で、顔を上げてすぐザブド殿下と目が合ってぎょっとする。
「ちょ、離して下さい!ここはどこですか!?」
何とかザブド殿下から逃れ向かいの席に移動すると、カーテンを開けて馬車の外を確認した。
そこは見た事の無い森の中で、私は唖然としながらも何とか冷静になって考える。
知らない場所だ。
でも転生前から時間が経っていれば景色も変わるだろうし…。
私が黙って居るのを見て、ザブド殿下はほぅっとため息を吐いた。
「普通の令嬢なら喚き散らすか泣くかだろうに、流石アルマは肝が据わっているな。それでこそ国母になる女だ!」
いや、なるわけ無いでしょうが。
「ザブド殿下、私が国母などといい加減になさって下さい。こんな事をして、只で済むとお思いですか?ニルリル様はどうされたのです?まさか置いて来たのでは?」
この馬車には私とザブド殿下しか乗っていない。
ニルリル様を置いてきたのだとしたら、今頃大変な目に遭っている筈だ。
私が睨むと、何故かザブド殿下は嬉しそうに微笑む。
「安心しろ。ニルリルには部下を通して話をして、私達より先に城を出る様言ってある。全く、本来なら同じ夫を持つ恋敵として敵対視するであろう相手を気遣うなど、アルマは本当に懐が深いな。ますます好ましい。」
あぁ~駄目だ。
今の話で何でそうなる!?
「…とにかく、もう私を解放して下さい。城に帰らなければリーヴス殿下が…」
「帰さない。アルマはこのままナガリア国に連れ帰る。それにこの先で獣人を捕まえたナガリア国軍と合流する事になっているんだ。アルマも気になるだろう?今やその数を減らし幻の種族とまで言われているのだぞ。見つかっただけでも奇跡だ、見たいと思わないか。」
獣人…獣人を捕獲したの!?
私はザブド殿下の言葉に驚愕で目を見開いた。