14、ニルリル様
夜になって私の部屋にやって来たニルリル様は、ネグリジェ姿で私に抱き付いた。
「アルマ様、私今日はアルマ様と朝まで一緒に居たいと思って参りましたの!眠くなったらこのまま泊まっても宜しくて?」
甘える様にねだってくるニルリル様に、私は困った様に微笑む。
「それはたぶん無理かと…隣は殿下のお部屋ですし、一時間経ったら乗り込んで来ると思いますわ。」
私の言葉にニルリル様はチッと隣の部屋を睨むと、私を上目遣いで見た。
「それなら私、アルマ様のあの魔法が見たいですわ!あのお部屋の天井をお空に変えてしまう魔法…。二人の忘れられない思い出になると思いますの。」
思い出はいいが、あの魔法は夜寝る前に使ってただけなのに、そこまで見てるのか。
ニルリル様もとんでもない覗き魔だな。
私は仕方無くさっと天井に向かい手をかざすと、部屋中が星空でいっぱいになる。
面倒臭くて床も星空に変えてしまった為、私達は宙に浮いている様な錯覚を起こした。
「きゃっ、アルマ様!」
「申し訳ございません、怖かったですか?今雲で椅子を作りますね。」
雲に似た大きめのクッションを宙に浮かせると、そこにニルリル様と腰掛ける。
ニルリル様はうっとりとしながら私に寄り添い、感嘆の溜め息を吐いた。
「あぁ…何て素晴らしいの。アルマ様、アルマ様は本当に素敵ですわ!お慕いしております…」
スリスリと頬を寄せるニルリル様をスルーして、今度は私からお願いする。
「次はニルリル様の番ですわ。何をお見せ下さるのですか?」
私がそう尋ねると、ニルリル様はうーんと悩んでいくつか提案して来た。
「私の能力はアルマ様の様に人を楽しませるものが少ないのです。遠くの様子を窺ったり、相手を操ったり、闇の中に閉じ込めたり…後は、状態異常を引き起こしたりですわね。」
いや、それどれも今やられたらマズいやつでしょう。
それに、国際問題になる。
私が黙っていると、ニルリル様は
「そうだわ!」
と呟き、紫の煙を出すと蛇の形に変形させた。
「まぁ、可愛いらしいですわね!」
私が蛇を褒めると、蛇はスルスルと私の腕に絡みつく。
「ふふ、この蛇は私と感覚が繋がっているのです。なので、こうすると…」
ニルリル様はうっとり笑むと、蛇を私の服の中に侵入させた。
「きゃっ、二、ニルリル様…ッ!?」
「はあぁ…ッなんて滑らかな肌なの!?温かくて柔らかい…!!」
ニルリル様の瞳孔は蛇と同じ様に縦長になり、どこを見ているのか頬を染めぼんやりとしている。
私はその様子に慌てて蛇を取ろうとするも、蛇はスルスルと服の中を移動してしまいなかなか捕まらなかった。
これはヤバい…!
ニルリル様が思った以上に変態だわ!
あぁ、どうしよう、女性に手は出せないし…!
私が焦っていると、そこにバンッとリーヴス殿下が乱入して来る。
「アルマ!!何でそんなに悩ましい声を上げているんだ!?何をされた!?」
私は急いで魔法を解除すると、ニルリル様も蛇を消し、慌てて二人で何事も無かった様に微笑んだ。
「まぁ、殿下。突然入ってくるなんてニルリル様に失礼ですわ。」
正直言って今回ばかりは助かったが、ニルリル様の手前一応注意するフリをする。
リーヴス殿下は早足で私に近付くと、私の腰を抱いてニルリル様を睨んだ。
「私の婚約者に不埒な真似はしないで頂きたい。今夜はこれで終わりです。護衛を付けるので、部屋にお戻り下さい。」
そう言うと、リーヴス殿下はニルリル様を追い出し、自分の部屋に私を連れて移動する。
そこではぁ…と息を吐くと、心配そうに私の頬を撫でた。
「アルマ、何て顔をしているの…。そんな火照った顔で瞳を潤ませて…私でなければ襲われてしまうよ?隣の部屋で様子を窺っていて良かった…」
そう言って抱き締めて来るリーヴス殿下に、私は何とも言えない気持ちになる。
取り敢えず、今の所私の周りにまともな人物が居ない事は分かった。