12、友好
応接室に入ると、ザブド殿下は私の二の腕を掴み自分の腕の中に囲う。
それを更に守るようにニルリル様が前へ出ると、リーヴス殿下は殺気を放った。
「…私のアルマに触れるな。殺されたいのか?」
「誰がお前のだ!アルマはナガリア国に連れ帰る。」
いやいや、何でそうなる。
嫌ですよ、私この国から出たくないし。
「…ザブド殿下、大変申し訳無いのですが私はこの国から出るつもりは御座いません。それに、ザブド殿下にはニルリル様がいらっしゃるではありませんか。どうぞ私になど構わず、婚約者様と仲をお深め下さい。」
そう言ってザブド殿下を見上げると、ザブド殿下はポーッと私を見つめながら頬を撫でる。
「アルマ、俺がニルリルと婚約して拗ねてるな?安心しろ、ニルリルは女しか愛せない。政略結婚で身分上ニルリルは妻になるが、俺とニルリルは生涯お前だけに愛を誓う。ナガリア国は一夫多妻制だが、俺もアルマとニルリル以外妻にする気は無い。安心して嫁いで来い。」
どこが安心できるのだ。
そもそも希望していない。
私が呆れていると、ニルリル様も前から声を張り上げた。
「そうですわ!私も、アルマ様を深く愛しております!殿下が側室をお召しになるのは勝手ですが、私はアルマ様を裏切りません!それはもう、毎日甘く愛を囁き、大事に大事にさせて頂きます!」
「は!?ニルリル!俺は側室など取らんと言っているだろう!?」
二人が言い合いを始めそうだった為、私はその隙にザブド殿下の腕をすり抜けリーヴス殿下に駆け寄る。
リーヴス殿下は私を両腕で迎え入れると、強く抱き締め頬にキスした。
「アルマ、ごめんね、もう離さないよ!今そいつを斬ってしまおうとしていたのに、私が遅いから待ちきれなかったんだね?そんなにも私が恋しかったの?なんて可愛いんだ…!愛してる!ほら、もっと甘えていいんだよ?」
戻って来たら戻って来たでリーヴス殿下はこの調子。
私はうんざりしながら、リーヴス殿下を見上げた。
「リーヴス殿下、今はそんな事をしている場合では御座いません。ナガリア国の皆様と友好を深めるのでしょう?もういい加減になさいませ!」
思わず唇を尖らせて文句を言うと、何を思ったのか、リーヴス殿下がその唇をパクッと食む。
そのままチュッと音を立てて顔を離すと、うっとりと笑んだ。
「あぁ、アルマが唇を私に差し出して来たのかと思ったからつい食べてしまった。ふふ。アルマの唇は柔らかいね。もう一度いいかな?」
な、な、な…!!
私が真っ赤になって固まっていると、後ろから紫の煙と炎が一斉に吹き出し、私は咄嗟に障壁を張りリーヴス殿下を庇う。
「リーヴス!!お前何勝手にキスしてんだ!!」
「そうですわ!今のキス、先日に引き続き二回目ですよね!?…許しません…ッ!!」
いや、ニルリル様のその正確な情報は何!?怖ッ!
しかし、このままだと城が丸焦げの瘴気だらけになってしまう…!
私は焦って、目の前に居たリーヴス殿下の唇に自らぶちゅうっとキスした。
「「「!!!???」」」
十分な時間を掛けくっつけてから、赤くなってしまった顔を離すと、リーヴス殿下も真っ赤な顔で固まっている。
「もう!皆様いい加減になさって下さい!!ザブド殿下もニルリル様も、勘違いなさってますわ!さっきのは私から殿下におねだりしたのです!あ、愛してるって仰る癖に、殿下がすぐに助けてくれないんですもの…」
私が一人必死に演技していると言うのに誰も反応が無いので、私は仕方無くリーヴス殿下の手を引きじっと見つめた。
「リーヴス殿下、きちんとナガリア国の方達をおもてなし致しましょう?私はナガリア国と仲良くなりたいのです。」
するとリーヴス殿下は感極まった顔でぎゅうっと私を抱き締めると、そのまま私の耳元に唇を這わせる。
「…アルマ、アルマ、アルマ。さっきはごめんね。早く終わらせて、二人きりになりたい。部屋に戻ったら沢山可愛がるからね。」
私はリーヴス殿下の呟きにゾッとしながらも、今はグッと堪えた。
そして、リーヴス殿下はザブド殿下とニルリル様に向き直ると、何事も無かったように微笑む。
「お見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした。さぁ、両国の友好を深めましょう。」