くろちゃんありがとう!
ご主人様は、私の事をくろちゃんと呼んでくれています。
14年前、私は、ちょっぴり可愛くてハンサムなご主人様に、新車で購入されました。
ちっちゃな私のボディは、その可愛さに似合わず、とってもスマートで、カッコイイ
走りを見せました。その時、ご主人様は私に言いました。
ご主人様「小さくて可愛い奴だけど、意外といい走りするじゃん。気に入ったぜ!一目惚れだ!」
私とご主人様は、通勤時も、そして休日の午後も、恋人同士の様に毎日一緒です。
だから私はとっても幸せです。
ご主人様と出会って、2年の月日が経ちました。
ある日ご主人様に、素敵な彼女が出来ました。何だかちょっぴり妬けます。
だけれど、週末は3人でドライブ、私はいつしか二人と仲睦まじく
家族の様に解けあっていました。本当に幸せです。
3年の月日が流れました。ご主人様と彼女がご結婚されました。
私も素直に嬉しかったです。いつまでも二人を祝福しようと思います。
4年の月日が流れました。ご主人様の奥様になった彼女が私に兄弟を運んで
来てくれました。今日から私はお姉ちゃんです。でもちょっとだけ
寂しい気持ちになりました・・・・・・・。何故なのかな〜・・・・・。
その時は不思議でした。人からは自動車に心があるなんて絶対に
悟られないはずなのに〜、でもね〜その時、ご主人様も奥様も二人で
私を気に掛けてくれました。
ある雨の日の夫婦の会話・・・・・・・。
奥様「新しい車が来て、気分は嬉しいはずだけどなんだろう、ちょっぴり
寂しい気持ちがしてしまうんだ。」
ご主人様「うん、俺も同じ事を感じていたんだけど・・・・・・。」
奥様「この感覚ってなんだろうね・・・・・・。」
そしてしばらくして二人が、同じ会話を始めたの・・・・・・・。
奥様「あっ、くろちゃんが・・・・・何だかちょっぴり寂しそうに見えるよ。
気のせいかな〜・・・・・。」
ご主人様「案外そうじゃないかも、と俺も思ったんだけど?」
その後、二人が私の傍に来てお話してくれたの・・・・・。
ご主人様と奥様「くろちゃんは、今日からお姉ちゃんになりました。
おめでとう。これからもずっと大切に乗るから、私達を安全で快適に運んでね。
そしてこれからもよろしく頼んだよ。」
5年の月日が流れました。私と妹は仲良く隣同士に並べられました。
妹なのに、ちょっぴり私よりもボディが大きいの・・・笑
6年の月日が流れました。交差点で突然、他の車が飛び出してきました。
その車は、ご主人様を乗せた私に激しくぶつかりました。
私は、必死でご主人様を守りました。後数ミリずれていたら、道路脇の溝に
落ちるところだったよ・・・・・・。もしも落ちていたら、きっとご主人様が
大怪我をしていたと思う・・・・・。ご主人様が無傷で良かった・・・・・・。
私のボディの左側は、メチャメチャに壊れてとっても痛かったけれど・・・・・。
ご主人様が無事で本当に良かった。その後ご主人様が、私に新しいドアを
取り付けてくれました。だからもう全然痛くないよっ、ありがとう。
7年の月日が流れました。ご主人様のお友達の話を聞いていると
少し不安になりました。
友達「もうこの車古いし、買い替えた方が絶対いいよ。」
ご主人様「でも・・・・・今はまだいいよ。」
友達「まぁ〜そう言わずに、車のカタログだけでも見に行こうよ。
一緒に付き合うしさ・・・・・・。」
ご主人様「う〜ん、そうだね〜じゃ〜見に行ってみるかな〜。」
そう言ってご主人様はお友達と、出掛けちゃいました・・・・・。
私・・・・・売られちゃうのかな・・・・・・。ドキドキ。
しばらくしてご主人様が帰ってきました。ご主人様が奥様とお家の中で
お話をしています。
奥様「くろちゃんは私達が、恋人同士の頃からずっと一緒だったし
愛着感じるね・・・・・。あなたは尚更だよね。私と付き合う前から
乗っていたんだもの。」
ご主人様「そうなんだ。俺も・・・・・。」
奥様「以前、言い様のない寂しさを感じた時、くろちゃんに話しかけた後に
不思議だけど、すーっとその寂しさが消えてった事があったよね。
私はあれ以来、物にだって心はあるんじゃないかって思う様になったんだよね。
最近では物を大事にする習慣なんて、昔に比べると薄れちゃったけれど
今でもそう言う気持ちもあっても、全然いいんじゃないかな〜。」
ご主人「うん、長年共に暮らしてきた愛着は大切にしたいよね。
やっぱ俺もそう思うよ。くろちゃんを手放したくないよ。
そんな話声が家の中から聞こえてきて、私は本当に泣きたいくらいに
幸せだったよ。二人の元で走れて良かった。本当に良かった。
それから・・・・・・・・14年目・・・・・・。
二人をずっと見届けてきた私はこの度、旅立ちの時期を迎えました。
14年目の私は、錆だらけのボディと重くなったハンドルやギアを
抱えていた・・・。これじゃまるでお荷物・・・・・。
でもそんな私を精一杯に二人は、最期まで愛し支えてくれました。
この度、世代交代です。近々、新しい家族が二人の元へとやってきます。
ご主人様も奥様も、私を名残惜しそうに見つめていました。
そんな期待に応えたくて、私は二人へ、今日、動きづらくなっちゃった
ボディを必死で動かし渾身の力を込めて、絶好調の走りを贈りました。
ご主人様は最後まで、新しい車の納車を遅らせて、私との僅かな一時を大事に
してくれるそうです。私もいつか又生まれ変わって、もう一度二人を運びたいよ〜泣。
だけど、本当に本当に幸せでした。二人に出会えて、大切にされて良かった。
だから私がいなくなっても、絶対泣いたりしないで元気でいてね・・・・・。
そして何時までもお幸せに!
私、後少しだけど・・・・・頑張るからね。残り僅かな時間を最高の時間
にするから、ご主人様、そして奥様、一緒に楽しく過ごそうね。