とりあえず、落ち着こうか
薄明かりが支配する体育倉庫のなか、女生徒がマットに横たわっている。
意識はあるものの、口はふさがれ、両手首は背中で縛られていた。両足首も拘束されており、もがくことしかできずにいる。制服を着たまま、無造作に転がされたせいか、少々、太ももが見えすぎていた。
私の視線を察して、女生徒がもぞもぞと身体を動かす。
彼女の努力は、下着をちらつかせる結果に終わった。ふさがれた口から唸り声がこぼれ、涙目になって、こちらをにらみつける。おそらく、顔はまっ赤になっていただろう。はっきり見えるほど明るくはないと、彼女に伝えたくなった。安堵するとは思えないが。
「どーおー、先生? ちゃんと見てくれてる? よっちゃんの、この姿態!
かーなーりー、エロいっしょ? 興奮するっしょ?」
私のとなりに立っている、もうひとりの女生徒が私に問いかける。私の返答など、はじめから期待していないだろう。そのはずだ。なぜなら、私も口を塞がれているのだから。厳重に身動きを封じられ、コンクリートの床に座らされているのだから。いくらスタンガンでつつかれようとも、返事などできようはずがない。
体育倉庫にいた三人のうち、私のとなりに立つアホの女生徒だけが、自由を手にしていた。
自身の自由と、拘束された私たちの自由を。
アホは喜々として、犯行のすべてを私たちに語って聞かせた。どうやって睡眠薬を入手したのか、どうやってスタンガンを入手したのか、どうやって友人に薬を飲ませ、体育倉庫に誘導したのか、どうやって私を誘い出し、油断させ、一撃を喰らわせたのか。
アホは語るほどに饒舌となり、「拘束具と緊縛スキルは計画以前から持ちあわせていたけどね」と勝手に性癖を暴露したあと、私の頭をスタンガンでつつきまくった。成績優秀な生徒だと思っていたが、これほどの行動力を秘めたアホだとは知らず、泣きたくなった。
三人のうち、ただひとりエロスに興奮していた、アホが叫ぶ。
「ふたりで仲良く楽しんじゃえよ!!」
体育倉庫の外へ、とび出した。
拘束を脱する術を教えないまま、私たちを残して、扉を閉めて、鍵をかけて去っていった。
きつくきつく縛られた私たちは、それぞれにもがき、無駄を悟り、消耗を抑えるために動かずにいた。互いの安否を気づかい、視線だけであるていど、相手を理解することができるようになった。そこまでは、まだよかった。彼女と尿意との闘いがはじまらなければ、まだよかったのだ。
アホが興奮を隠しきれないアホのまま様子を見にくるまでの、約一時間。
彼女は耐えつづけた。
私はあらんかぎりの力をふりしぼり、拘束を脱しようともがきつづけた。
懸命に抗いつづけた私たちは、体力的に、精神的に、消耗していた。アホが救いの神にみえるほど、アホが正気に返るほど、疲労困憊していた。
「相談する相手を間違えた」
尿意との闘いに勝利した女生徒は、トイレから戻ってきたあと、それだけを言葉にした。
二人の女生徒とは、それからも色々とあった。
反省を知らないアホは、似たようなことをつづけた。なぜか尿意と闘うはめになる女生徒は、緒戦こそ制したものの、その後は負けが続いた。私が知るかぎり、三勝七敗と大きく負け越して、笑顔で卒業していった。
本当に色々なことがあり、なぜか、アホが私の嫁になった。