表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

とりあえず、落ち着こうか

作者: 京本葉一

 薄明かりが支配する体育倉庫のなか、女生徒がマットに横たわっている。


 意識はあるものの、口はふさがれ、両手首は背中で縛られていた。両足首も拘束されており、もがくことしかできずにいる。制服を着たまま、無造作に転がされたせいか、少々、太ももが見えすぎていた。


 私の視線を察して、女生徒がもぞもぞと身体を動かす。


 彼女の努力は、下着をちらつかせる結果に終わった。ふさがれた口から唸り声がこぼれ、涙目になって、こちらをにらみつける。おそらく、顔はまっ赤になっていただろう。はっきり見えるほど明るくはないと、彼女に伝えたくなった。安堵するとは思えないが。


「どーおー、先生? ちゃんと見てくれてる? よっちゃんの、この姿態!

 かーなーりー、エロいっしょ? 興奮するっしょ?」


 私のとなりに立っている、もうひとりの女生徒が私に問いかける。私の返答など、はじめから期待していないだろう。そのはずだ。なぜなら、私も口を塞がれているのだから。厳重に身動きを封じられ、コンクリートの床に座らされているのだから。いくらスタンガンでつつかれようとも、返事などできようはずがない。


 体育倉庫にいた三人のうち、私のとなりに立つアホの女生徒だけが、自由を手にしていた。

 自身の自由と、拘束された私たちの自由を。


 アホは喜々として、犯行のすべてを私たちに語って聞かせた。どうやって睡眠薬を入手したのか、どうやってスタンガンを入手したのか、どうやって友人に薬を飲ませ、体育倉庫に誘導したのか、どうやって私を誘い出し、油断させ、一撃を喰らわせたのか。


 アホは語るほどに饒舌となり、「拘束具と緊縛スキルは計画以前から持ちあわせていたけどね」と勝手に性癖を暴露したあと、私の頭をスタンガンでつつきまくった。成績優秀な生徒だと思っていたが、これほどの行動力を秘めたアホだとは知らず、泣きたくなった。


 三人のうち、ただひとりエロスに興奮していた、アホが叫ぶ。


「ふたりで仲良く楽しんじゃえよ!!」


 体育倉庫の外へ、とび出した。

 拘束を脱する術を教えないまま、私たちを残して、扉を閉めて、鍵をかけて去っていった。


 きつくきつく縛られた私たちは、それぞれにもがき、無駄を悟り、消耗を抑えるために動かずにいた。互いの安否を気づかい、視線だけであるていど、相手を理解することができるようになった。そこまでは、まだよかった。彼女と尿意との闘いがはじまらなければ、まだよかったのだ。


 アホが興奮を隠しきれないアホのまま様子を見にくるまでの、約一時間。


 彼女は耐えつづけた。

 私はあらんかぎりの力をふりしぼり、拘束を脱しようともがきつづけた。

 懸命に抗いつづけた私たちは、体力的に、精神的に、消耗していた。アホが救いの神にみえるほど、アホが正気に返るほど、疲労困憊していた。

「相談する相手を間違えた」

 尿意との闘いに勝利した女生徒は、トイレから戻ってきたあと、それだけを言葉にした。


 二人の女生徒とは、それからも色々とあった。


 反省を知らないアホは、似たようなことをつづけた。なぜか尿意と闘うはめになる女生徒は、緒戦こそ制したものの、その後は負けが続いた。私が知るかぎり、三勝七敗と大きく負け越して、笑顔で卒業していった。


 本当に色々なことがあり、なぜか、アホが私の嫁になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ