5.5話 閑話1 「出会い、別れ、出会い。」
時系列的には1話よりもかなり昔、この世界に生まれた時の話になります。
私があの世界で殺されてから何日、いや何年が経過しただろう。
それ以前にここは本当にあの世界なのだろうか。
もう長い間彷徨ったせいか記憶があいまいだ。
私も科学者とはいえアニメ大国で生まれたのだ。
小説やライトノベルと呼ばれるものはいくつか読んでいる。
しかしあれは空想のもので、死後の世界や転生などを信じているかと問われたら答えは否になる。
有馬忠彦として生を受け、有馬忠彦として育ったのだ。それ以外の現象が認められるわけもなかった。
悠久とも呼べる時を過ごしたのち、突然に光が舞い込んできた。
そこには「セントレル」という単語を繰り返し叫ぶ女性と「頑張ったな」と女性を褒めたたえる男性がいた。
ここはどこだと聞きたかった。しかし私は「あー」や「ぎゃー」という声にも満たぬ音しか発することができなかった。
そして魔法で暖炉に火をつけた父と、自分が「セントレル」であるということを認識した段階でここは異世界なのだと初めて確認した。
これが父と母、そしてこの世界との出会いである。
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時は流れて2~3年後、私は父に連れられて森の中にいた。
ようやく喋ることが出来るようになったので、父にこの世界のことを教えてもらいながら散策をしていた。
そんな折、一匹の動物が森の奥からやってきた。
牛のような形をした斧を持った動物だった。
父は顔面蒼白になったかと思うと「魔物だ!逃げるぞ!」と叫び、私を抱えて走った。
しかしただの農民が不安定な森の中を10キロを優に超える荷物を抱えて長く走れるわけもない。
次第に足をもつれさせ、やがて転んでしまった。
父は言う「お前は逃げろ!俺は食い止める!」と。
私は答える「嫌だ!父さんも逃げて!」と。
現実は非常である。ミノタウロスが私たちに追い付いてしまった。
「セントレル」
「父さん!嫌だ!一緒に行こう!」
私は本当に彼の子供だと、そう感じていたのかもしれない。駄々をこねる子供のように、父を呼び止める。
「母さんと強く生きるんだぞ。大好きだ」
そう言い残し、落ちていた木の棒を片手に呪文を唱え始めた。
父を死なせたくないのは山々だった。しかし今自分がどうこう出来るわけでもなく、ただ「この人が命を懸けて守ってくれたんだ。この人の分も生きなくては」という思考に至った。
私は逃げた。後ろを振り返ることもなく、ただまっすぐに。
父と別れてから数分後、災難はまだ続くと言わんばかりに魔物に遭遇した。狼だった。
数分間全力で走っていたせいもあり、私は満身創痍の状態だった。
「これは逃げられないな...」
そんなつぶやきが虚空にこだまする。
狼が私のところへ駆けてくる。
その時だった。
「諦めたら終わりよ!シャキッとしなさい!」
そんな声と同時に目の前の狼が火に包まれる。
振り返るとそこには自分と同じくらいの少女が立っていた。
こうして父と別れ、エリカ=エルブライトと出会ったのであった。
閑話第一回、幼少期編です。
閑話となっていますが本編にかなり深く関わってくる内容となります。
一人称は科学者有馬忠彦としては「私」、セントラル=ランバーとしては「俺」「僕」「私」になってきます。今回の話は有馬視点なので「私」です。一人称の話などもどこかの閑話の中に盛り込んでいきたいと考えていますのでお待ちください。
前回までに評価、ブックマークなどをしてくださった皆さん、ありがとうございます!
単なる憧れで軽い気持ちで書き始めましたが、評価していただいたことで「書かねば。」という気持ちになりました(笑)これからも拙い文章ながら頑張っていきますので応援よろしくお願いします!