5話 「トムへの派遣隊」
side:村の自警団員、トム
「くっそ、こんなに魔物が出る森じゃないはずだろここ!」
セントレルと狼との戦いから間もなく、村の自警団は集会所に集まっていた。
この村を囲む森は魔物が少ない森であり、狼の出現は異例の事態なのだ。
隣にいる団員が騒ぎ立てるのも無理はない。
「4年前のミノタウロスとかどうなっていいるんだこの森は!」
「わからん、だが警戒はせねばならんだろう。これからは見張りの人員を増やしたうえで森を調査しようと思う。トム、お前はあのクソ領主にも調査隊を派遣させろ。無理なら報告だけでいい。頼んだぞ」
団長にそういわれたらうなずくしかない。俺はこの村で2頭しかいない馬の片割れに乗り込み、領主がいる隣町、アインレイクに向けて走らせた。
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「隣のウド村の自警団のトムだ!領主様に急ぎの話がある!」
「アインレイク様は多忙だ!帰れ!」
「緊急事態なんだよ!通してくれ!」
俺は今、隣町の門の前で止められていた。この町のクソ領主は税を取り立てるだけで何もせず、いつも惰眠をむさぼっているのだから多忙なわけがない。そうして言い合っていると、偉そうな鎧を着た男が近寄ってきた。
「おい、何を騒いでいる!」
「は、こちらの男が領主様への謁見を申しておりまして」
「ウド村の自警団のトムだ。この町との間にある森に魔物が異常発生している。報告に来た」
「なんだと!お前はアインレイク様を起こしてこい!私は応接間を用意しておく!」
「はっ!」
さっきまでの俺への態度が嘘みたいだ。いや嘘ついてたんだけどな?
「うちの門番がすまなかった。すぐに領主館へ案内しよう」
「了解だあんちゃん。しっかしこの町にあんたみたいなまともな兵がいるとはな」
「それは不敬罪にあたるぞ。聞かなかったことにしておこう。あとあんちゃんはやめてくれ」
「ありゃ、年上だったか?」
「そんなわけがないだろう。そうじゃなくて私は女だ」
「え?」
「私は女だと言っている。そろそろ領主館だ。馬はこの建物に止めてくれ」
「お、おう...すまんかったなあんちゃん」
「だからあんちゃんはやめろと言っているだろう!」
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応接間に入るなり、何やら豪華そうな服を着たデブがやってきた。言うまでもなく領主だ。
今この部屋には俺とデブとあんちゃんの3人だけだ
「わしの安眠を妨げる阿呆はどこのどいつじゃ!」
「こちらは隣のウド村の自警団の方です」
「そんなちんけな奴がわしに何の用じゃ!金になる話でなければ叩き斬るぞ!」
「私どもの村とそちらの村の間にある森で魔物が異常発生しています。つきましては調査隊の派遣をお願いしたく...」
「そんなことでわしを起こしたのか!この阿呆は死刑だ!」
どっちが阿呆だデブ。こみ上げる怒りを抑えているとあんちゃんが反論した。
「アインレイク様、お言葉ですがこれは本当に緊急事態です。早急に対処すべきかと」
「そんなものウドの連中が勝手にやればよいではないか!」
「この村がなくなってもよろしいので?」
「お前らが守ればよいではないか!」
「守るにも事前情報は重要です。ここは調査隊を派遣すべきかと」
「ええいうるさい!お前らが勝手にやっておけ!あとわしを起こしに来たあの門番は死刑にしておけ!」
「お断りさせていただきます。では失礼します。行きましょうトムさん」
「お、おう...」
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「「これだからあのデブは...」」
「「...え?」」
冷静だなと思っていたあんちゃんだが、いろいろたまるものがあったらしい。
「あんちゃんにもたまるものがあったんだな」
「ええ、すごく。あとあんちゃんはやめてください」
「...なんで敬語なってんだ?」
「...あのデブを相手にするときは心がけておかないとぽろっと暴言が出るからな。その流れのままだった」
「お、おう...」
「っとそうだ。恐らくこちらから調査隊を派遣することになると思う。なるべく早く行けるようにはするが...」
「あぁ、気長に待ってるよ。最初からダメ元なんだ、派遣してくれるだけありがたいさ」
「そう言ってくれるとありがたいな。あ、それとさっき忘れていたことなんだがこの町に入るときには個人情報を記録しなきゃいけないんだ」
「そんな大事なこと忘れんなよ...」
「はは、すまない。今から言う質問に正直に答えてくれ」
そこからいくつかの質問があった。家族構成とかの踏み入った質問もあったけどあんちゃんだからか普通に答えてしまった。
「ありがとう。今日はこのまま村に帰るのか?」
「ああ、みんなに報告しなきゃなんねーからな」
「わかった。貴重な情報をありがとう」
「こちらこそ調査隊ありがとな」
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side:ガーネット=アインレイク
私の名前はガーネット=アインレイク。とあるデブ領主の一人娘だ。母を幼い頃に亡くし、あのデブをよりどころにはしたくないという理由で3歳で家から飛び出した。だが、幼いころから家に閉じ込められるような生活をしていたため、この村から出たことはなく、飛び出しても行く当てもなかった。そんな私を拾ってくれたのが当時村の自警団団長だった人だ。名前は知らない。みんな団長と呼んで慕っていた。
団長に鍛えられ、すくすくと成長していった私だったが、約1年後にデブに居場所がばれ、デブからの嫌がらせを受けるようになった。あのデブは新しい妻を迎え入れた。きっとその子供に家業を継がせようとしたときに私が邪魔だったのだろう。
その嫌がらせはだんだんとエスカレートしていった。私だけでなく、自警団にまで被害は及び、ついには人命までもが失われた。団長が毒殺されたのだ。
犯人はデブが処刑したという知らせが町に出されたが、誰一人として信じる者はいなかった。
次期団長は団員内選挙で決められることになり、当時12歳の私が団長になった。それから私は団長の変わりが務まるように、髪を切り、鎧を着た。
それから3年。15歳となった私に、周りは魔法学校に行くことを進めた。だが私は貴族学校を選んだ。腐っても貴族のあのデブを引きずり下ろし、ちゃんとした統治をして町のみんなを笑顔にしたかった。
貴族学校を卒業し、18歳となった私は村に戻った。デブが生きていることを残念に思いつつ、行く場所もなかったため、また自警団団長に落ち着いた。
それから一か月、私に運命的な出会いが訪れた。その人は性別を間違えたどころか私を見て年上かと聞いてきたのだ。その上、デブに対する悪口を白昼堂々と言いふらしていくような人だ。そんな人を見るのは初めてで、この上なくおもしろかった。
私はこの人に愚痴を聞いてほしかった。今までそういったことを言える人はおらず、初めての感情だった。私はその人のことをもっと知りたくなり、入村管理のシステムを悪用して入村時点では聞かなくてもいいような情報まで聞いていった。家族構成を聞いて独身だと知り、安心してしまったのはなぜなのだろうか?
私はその人がいる村への調査隊の隊長に志願した。なんでもその村で魔物が出現したのだとか。
私は団長に鍛え上げられたこともあってこの領地でもかなり腕が立つ方だと自負している。その腕を持ってあの人の村を守りたいと思ったのだ。領主という夢よりもあの人を守ることを優先したことを後悔してはいない。
今日はウド村への出発の日だ。
さぁ行こうか。私のことをあんちゃんと呼んでくるあの男の元へ!
これくらいの長さでいいんですかね?