2話 「エリカ=エルブライト」
修正版です。
父が放った火の玉が魔法だと認識できたのは2歳になってからだった。
というのも2歳になるまで喋ることができなかったのだ。
喋れるようになってからは父にこの世界のことを教えてもらった。
この国、世界の成り立ち、そして魔法...
様々なことを教えてもらい、父というよりは教師に近い尊敬の念を抱いていた。
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私は父に連れられて森の中にいた。
森の中のことを教えてくれていたのだ。
そんな折、一匹の動物が森の奥からやってきた。
牛のような形をした斧を持った動物だった。
父は顔面蒼白になったかと思うと「魔物だ!逃げるぞ!」と叫び、私を抱えて走った。
ミノタウロスについてはすでに聞いていた。しかしこの森で現れることはまずないと聞いていたのだ。
父は荒れた道を全速力で駆け抜けた。
しかしただの農民が不安定な森の中を10キロを優に超える荷物を抱えて長く走れるわけもない。
次第に足をもつれさせ、やがて転んでしまった。
「お前は逃げろ!俺は食い止める!」
「嫌だ!父さんも逃げて!」
しかし現実は非情である。ミノタウロスが私たちに追い付いてしまった。
「セントレル」
「父さん!嫌だ!一緒に行こう!」
私は本当に彼の子供だと、そう感じていたのかもしれない。駄々をこねる子供のように、父を呼び止める。
「母さんと強く生きるんだぞ。大好きだ」
そう言い残し、落ちていた木の棒を片手に呪文を唱え始めた。
父を死なせたくないのは山々だった。しかし今自分がどうこう出来るわけでもなく、ただ「この人が命を懸けて守ってくれたんだ。この人の分も生きなくては」という思考に至った。
私は逃げた。後ろを振り返ることもなく、ただまっすぐに。
父と別れてから数分後、災難はまだ続くと言わんばかりに魔物に遭遇した。狼だった。
数分間全力で走っていたせいもあり、私は満身創痍の状態だった。
「これは逃げられないな...」
そんなつぶやきが虚空にこだまする。
狼が私のところへ駆けてくる。
その時だった。
「諦めたら終わりよ!シャキッとしなさい!」
そんな声と同時に目の前の狼が火に包まれる。
振り返るとそこには自分と同じくらいの少女が立っていた。
エリカ=エルブライトと出会ったのであった。