凍える唇
寒くて凍えそうな私を早く温めて。
「ねぇ、何か怒ってる?」
「別に…」
ーまただー
あなたの口癖。「べ・つ・に」一音ずつ唇でなぞる。
この一言を耳にする度、私はすっと凍りつく。
どんなに愛されても。
どんなに愛しても。
一瞬にして心が凍てついてしまう。
あなたは何時も、たった一言で私を突き放す。
「何で…」
後の言葉が口をつく前に、熱い唇で口を塞がれる。
あなたの一言で凍りついた私は塞がれた唇から熱を吹き込まれて甦る。
「あぁ…また…」
私はこうしてまたあなたに堕ちてゆく。
繰り返される問いかけ。
終わらない愛撫。
そうして、あなたは何時も私を凍らせる。
さっきまであんなに熱かったのに、私は冷たくなったしとねに横たわり、あなたの居ない部屋にうずくまる。
此処はまるで冷たい海の底みたいだ。
青白い月に照らされて、水底で凍りついた私はまた、あなたに溶かされるのをじっと待っている。
「別に」という一言から生まれた小品です。
たった一言がナイフのように突き刺さることもある。
そんな愛もある。
ご一読ありがとうございました。
作者 石田 幸