「キカイの国」
「ようこそキカイの国へ。オサダ様ですね」
キカイの国の入国ゲートを通るとすぐに、ボウズ頭でひょろりとした体つきの青年に声をかけられた。
「あ、はい。オサダ・シュンです」
「ようこそいらっしゃいました、オサダ様。私はここキカイの国でのオサダ様のパートナーを務めさせていただきます、イッキュウと申します。どうぞよろしく」
キカイの国へ渡ったヤマイ患者には、一人につき一体のアンドロイドがパートナーとしてつく。パンフレットで読んでいた通りだ。
しかし、ぼくは少し驚いた。このイッキュウというアンドロイドは人間にしか見えない。ニンゲンの国のそれとは大きく違って見えた。
それにいくらパートナーアンドロイドとはいえ、十二歳のぼくを相手にこんなに丁寧に話すなんて不思議な感じがする。
ぼくを送ってきた係の人がイッキュウに書類とICチップのようなものを渡す。こんな時代になってもまだ、紙の書類というものは必要なのだそうだ。
イッキュウは書類の一枚目にだけ目を通し(おそらくそこに記載してあったコードを読み取り)、「はい、確かにオサダ様をお預かりしました」と答えた。
係の人はそのまま出国ゲートに向かっていった。
「長旅でお疲れでしょう。今日はもう居住スペースでお休みになりますか?まだ荷物は届いてはいないと思いますが、ベッドなど必要なものはそろっていますよ」
ありがたい提案だけど、ぼくにはやりたいことがあった。
「今日はその前に街に行ってみたいんですけど、いいですか?」
「もちろんです。オサダ様がそうしたいのであれば」
街を歩いてみると、イッキュウのようなアンドロイドは少数派なのだと分かった。つまり、明らかに人間でないと分かるアンドロイドのほうが多いのだ。やけにメカメカしかったりサイズが大きかったり、そもそもすべてのアンドロイドが人間に似せるということを目的として作られているわけではなさそうだ。また、アンドロイドではないロボットも多く見られる。
たまに人間にしか見えない人に出会うが、アンドロイドなのか人間なのかをどうすれば見分けられるのか、ぼくには分からない。
「それで、オサダ様。どこか行ってみたいところはございますか?」
イッキュウに声を掛けられて、慌てて振り向く。
「えっと、実は探したい人がいるんですけど」
「探したい人、でございますか?」
イッキュウが眉をぴくりと動かす。
「それならばいいところがございます」