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疑惑

 コンラッドはカイに挨拶をする。


「カイ様。雪菜嬢をお借りしても」


 ぴしり。

 場が凍り付き、雪菜と真琴はカイを見る。


「……ちゃんと返してネ」


(キレなかった。褒めてくれ)


 カイは二人の顔を見た。

 雪菜も真琴も肩を叩く。

 鬼のような顔をしていたらしい。

 まだ修行が足りない。

 年上とやり合うには経験が不足している。


「では雪菜嬢お手を」


 コンラッドが差し出した手を取り、雪菜は行ってしまう。

 入れかわりに真琴がジュースを持ってやって来る。


「そういや雪菜って社交ダンスとかできるの?」


「あの不器用メスゴリラができるはずない。いいかカイ、あいつにできるスポーツは格闘技だけだ」


 そう言えば雪菜はパワータイプだ。

 中学時代は剣道部だった。


「真琴は?」


「できるに決まっているだろ。ボクはなんでもできるのだよ」


 そう言えば真琴は男子のときでも球技大会や体育祭で活躍していた。

 たしかに真琴の言ったとおりだった。

 雪菜とコンラッドは傍目から見ると柔道の組み手争いみたいになっている。


「おっとコンラッドのやつ、足技をかわしたぞ」


 まるでコメディだ。

 そんなコンラッドははたして敵なのだろうか?

 カイが敵認定しているだけじゃなかろうか?


「じゃあさカイ、踊るか?」


「俺が踊れるわけがなかろう。あんなもん習ったことないぞ」


「だよねー。うちはさあ、せめて家の中だけでは女の子を保とうっていう教育方針でさ、徹底的にやらされたよ。いやホント。カイが来てないときはスカート強制だし……」


「なんかマジでスマン」


 少し湿っぽくなった。

 だからカイは話題を変える。


「あのさ真琴、俺のハーレムの件なんだけど」


「どうしたヤりたい女でもいたか? いいんだぞ。さっさと童貞捨てておいで。スマホで撮影したら雪菜に送って泣かす遊びするから」


 真琴はやる気なさげに手をひらひらと振る。


「投げやりになるなって。そうじゃなくてさ、俺はそういうのが嫌なんだよ。知りもしない女をはべらすなんてまるで悪夢だ……」


 カイはモテない。

 太っているせいもあるが、いじめのターゲットにされていたため、好き好んで接触を持とうという女子はほとんどいない。

 恨む気持ちはない。みんな自分の身を守るので精一杯なのだ。

 明確にムカついているのは野口だけだ。

 それだって骨が折れて肘をプランプランさせながら泣き叫ぶ姿を見たらどうでもよくなった。

 カイは思う。

 一番憎いのは敵ではなく、敵に勝てなかった自分なのではないかと。

 それも克服した今、カイは誰を恨むというのでもない平穏な気持ちでいた。

 だが……それと女子への苦手意識は別問題である。

 初対面から悪意を持って接してくる存在と超時間過ごすのは難しい。

 そんなのは悪夢そのものである。

 この世界の女子は、カイをいきなりバカにしたりしないかもしれないが、だがそれでも嫌なものは嫌なのだ。


「あのな、カイ。認識が間違ってるぞ。彼女を複数人作るんじゃなくて、セフレを作り放題だと考えるんだ!」


「いきなりハードルが上がった!」


「それに見ろ。ホラ」


 真琴が指をさす。

 そこにはいつのまにかどこかに行ってしまった玄武がいた。


「玄武様。キャベツをお持ちいたしました~♪」


「うむ」


「玄武様、四神様ってみんなこんなにフレンドリーなんですかぁ?」


「うむ。青龍は気難しいが他はフレンドリーじゃぞ」


「まあ! 玄武様甲羅がすべすべ~」


「ふははははは!」


 玄武が高笑いをする。


「な、ああすればいいんだよ」


「つかオスだったのか……」


「いや性別ないだろ? お前が言うように秩序と混沌の混ざった存在って言うなら」


 話が進まない。

 だからカイは思いきって切り出す。


「俺さ、一夫多妻って言われてもさ、わからないんだ。増えるとしてもお前と雪菜だけでいいと思ってる。いや『だけで』ってのは二人もいるのはおかしくて、もちろん真琴がよければだけど……」


「……うん」


 真琴の顔が真っ赤になった。


「あ、ああああああああ、あのな、でもな条件があるぞ! 私は安い女じゃないからな! わかってるな! 一朗様の件を解決するのが条件だぞ!」


 真琴が震える手でカイを指さす。

 カイはクスクスと笑う。


「おう、がんばろうな。雪菜に土下座するのも。それでさ、真琴、誰が爺さんを殺したと思う?」


「そうだな……まずそこの勲章つけまくった親父。ウェイズ卿な。四神の力を国民にも解放せよと主張している」


 金ぴかの勲章をつけた初老の男が見えた。

 カイが見ているのに気づくとわざとらしく礼をした。

 カイもつられてぺこりと頭を下げる。


「もう一人があそこの太ったおっさん。服部卿だ」


 次は固太りの紳士だ。


「日本人?」


「いんやー、黄金の国ジパング事件の頃からの名家だ。服部家は代々日本に併合されるのを望んでいる」


「当たり前の意見だな。俺だってさっさとこの世界のこと報道してもらって、できれば日本に編入してもらって、ネット開通とかして欲しいもん」


「技術的に出来ねえのよ。ネットは接続する方法はねえし、人だって元首のゲートでしか行き来できないから、どうにもならんのよ。すでに武田さんも、豊臣さんも、徳川さんもあきらめたっつーの」


 三者とも埋蔵金伝説がある。

 この世界の金への雑な態度から考えておそらく埋蔵金はあるのだろう。


「そしてもう一人、そこで雪菜と組み手争いをしているコンラッドだ。あいつは恒常的に使える別のゲートを作ろうって主張している」


「そんなのできるの? できるんだったら、さっさとやって欲しいんだけど」


 それだったらカイの負担が減る。

 楽になるのは賛成だ。


「できないよ。コンラッドはなぜかウェイズの親父と組んで、『四神の儀を全国民に施せば、もっと強力な力を持ったものが生まれる』って主張してるけど」


「できるの? 根拠があるならやればいいじゃない。俺は止めないよ」


「できねえっての。カイの一族、鈴木家の魔力は召喚に偏っているんだよ。カイは強力な召喚魔法が使える代わりに、練習しても他の魔法は使えねえんだって。それに国民への四神の儀だって歴史上何度も試してるんよ。それで全部失敗してるの!」


「じゃあ何がしたいのよ!」


「さあね。それがわからんのよ」


 カイは頭をかきむしる。

 わからない。

 なんのメリットもない。

 思想犯なのだろうか?


「俺を強くするための試練とか?」


「ねえよ。ガチで殺しに来てるだろが」


「わけがわからねえ……」


 カイは頭を抱える。

 すると音楽が止んだ。

 雪菜がぷんぷんと怒りながらカイの所にやって来る。


「もう! 二度と踊らない!」


 恥ずかしかったらしい。雪菜は顔を隠す。

 そんな雪菜の後ろからコンラッドも来る。

 コンラッドは馴れ馴れしく雪菜の肩を抱く。


「やあ皆さん! 私は今からこの美しい姫君に求婚をしようと思う!」


 ぶつっとカイの頭から謎の音が聞こえた。

 カイが飛び出さないように真琴が服をつかんで抑える。


「安い挑発に引っかかるなっての」


「だってー、だってー」


「ええい見てろ」


 コンラッドは雪菜の手をつかんで跪く。


「騎士雪菜。私と結婚してくれないか?」


 おおうっとどよめきが起こる。

 カイはヒクつきながら一生懸命笑顔を作った。


「ごめんなさい。私にはカイ様という方がおりますの」


 おおーっと今度は歓声が上がる。

 令嬢たちは『やってられねえ」」という表情になった。


「どうどう、よく見ろカイ。これで雪菜は名実ともにお前の女だ」


 そのとき、カイの脳で何かがカチリとはまった。


「そうか……そういうことか……」


「どうしたカイ?」


「真琴、浩さんを呼んで。今からセーフハウスに行くぞ」


「おい、どうしたってんだよ!」


「俺はバカだ。こんな単純なことに気づかないなんて!」


「おい、なにを言ってるんだ?」


「あのな……真琴。おかしいんだ。この世界は一夫多妻制だ」


「おう、だからどうした?」


「俺の婆ちゃんはどちらの出身だ?」


「こっちの世界だ。日本にも頻繁に来てたけどな。だからなんだよ」


「じゃあさ、じいちゃんの側室は?」


 カイの顔は真っ青だった。

あと少しで完結です。

えーっとちょっと失敗しまして8万字ちょいで終わるかも……

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