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反省会

 就任式が終わると、カイは部屋にいた。

 目の前にはFPSに興じる亀。玄武がいる。

 浩は犯人である二人の貴族を尋問中だ。

 玄武はホラーゲームのゾンビに華麗な指捌きでヘッドショットをキメながら口を動かした。

 この亀、やたらゲームが上手い。


「コンラッド・バロウがお主に敵意を持っているのは確実だ。なぜ、どさくさ紛れに捕まえなかった」


 カイは少し考えると答えた。


「ほいほい権力を振るっていたら信用がなくなる。そういう反則技は大事に取っておきたい」


「お主……本当に子どもか? かわいげがないのう」


 玄武にツッコまれるとカイはふて腐れて頬杖をついた。

 カイの学生生活はサバイバルだった。

 常に考え、最善の手を打ってきた。

 それでも安岡たちのターゲットになってしまった。

 そこでさらにありとあらゆる選択を迫られたのだ。

 その経験からカイは普通の学生の思考からはやや逸脱していた。

 かわいげがないのはしかたがない。


「スねるな。ほれ、友だちが来たぞ。胸に顔でも埋めてろ」


 ずいぶんひどい言い様だ。

 亀が言ったようにカイの部屋のドアが開く。

 ノックもなしだ。

 ゴシゴシとクリティカルな作業をしていたら、どうリアクションしたのだろうか?


「カイ、終わったよー」


 ガッシャンガッシャンと音を立てて、鎧姿の雪菜が入ってくる。


「おつかれーッス」


 ローブ姿の真琴も入ってくる。

 雪菜はカイがいるにもかかわらず、普通に鎧を脱ぎ出す。


「はあ、熱い~」


 真琴もローブを脱ぎ捨てる。

 二人とも恥らいはない。


「はあ、熱い~」


 二人は脱ぎ捨てたものをたたみも片付けもせず、カイの側に座る。


「カイ~。この部屋にこたついれようよ~。もうちょっとすると寒くなるし」


 雪菜が好き勝手なことを言った。


「そうだよ。掘りごたつの工事しようよ。ボクは冷え性でさ~。脂肪が少ないんだよ~」


 真琴も言いたい放題である。


「お前ら熱いのか? 寒いのか?」


「「暑くて寒い~」」


 真琴はカイに抱きつく。


「ぬくいわ~」


 雪菜もカイに抱きつく。


「人肌であたたか~い」


 二人とも汗臭い。

 だがなぜか嫌ではなかった。


「……上級者じゃな」


「玄武うっさい!」


 カイは上級者ではない。

 絶対に違う。断じて違う。とにかく違うのだ!

 とにかく違うのだ!

 すると真琴が玄武の横に座る。


「玄武、格ゲーやろうぜ」


「うむいいぞ」


 カイにくっつくのにあきたのか、真琴が玄武とゲームをし始める。

 玄武も真琴とプレイしたかったようだ。

 なぜこんなにすぐに仲良くなったのだろう。

 コミュニケーション能力が不足しているカイは不思議でしかたがない。


「あ~つ~い~。蛇ちゃん抱っこさせて」


 暑くなった雪菜は玄武の蛇に抱きつく。

 抱き枕扱いである。


「つめた~い」


 蛇も雪菜にぺちょっと身を寄せていた。

 完全にだらけている。

 カイはこれではいかんと質問することにした。


「それでさ、尋問はどうなった?」


 カイの質問に空気が凍った。

 蛇に抱きついていた雪菜も、ゲームをしていた真琴もカイを見ていた。


「カイを殺せば日本への扉が開くっていう噂が流れている。アホかと」


「やっぱりね。少しでも賢いやつは人にやらせる。野口みたいにね。安岡みたいなのは論外だ」


 カイはそこまでは予想していた。


「でもそれにしても騙されすぎだよね」


 真琴も雪菜も首を横に振った。


「この世界には情報リテラシーの概念はまだ浸透してないからねえ。インターネット開通したらネット上のデマを信じて何人死ぬかわからんわ」


「インターネットのある世界での嘘を見抜く力が異常なのよ」


 なるほどなとカイは納得した。

 それならこのカオスな状況もありえるだろう。

 だからあえて踏み込んだ。


「俺を狙った二人……笑ってた方は利益が目的で、目をつぶってた方は家族が病気なんだろ?」


「な、なんでわかったの!?」


 雪菜は驚きすぎて口を開けていた。


「笑ってる方は、なんていうか痛みがなかった。もう一人は俺が死ぬのは苦しいけどそれでもやらなきゃって顔だった。野口に怒鳴られてるときの俺に似てたよ。だから金より大事なもの。たぶん家族だろうなって。魔法がどのくらい万能かわからないけど、技術格差を考えると日本の方が治せる病気は多いだろ?」


「わかってるのか……じゃあさ、カイはどう裁く?」


「笑っていた方には金なりポストを用意してあげて。すぐにベラベラ喋ると思うよ。病気の方には日本に入院する手続きを取ってあげて」


「それでいいの?」


 雪菜がおずおずと聞く。


「頭が悪くて忠誠心のない方を殺すなとは言ってない。病気の方は恩をネタに一生縛りつければいいんじゃね?」


 真琴が「ふふん」と笑う。気に入ったらしい。

 バンバンとカイの背中を叩く。痛い。

 雪菜はちょっと嫌そうな顔をしていた。

 カイは玄武の背中に声をぶつけた。


「玄武。じいちゃんを殺した犯人は別にいるんだろ?」


「うむ、今回の連中とは違うだろうな。真琴、雪菜、騎士はどうした?」


 雪菜はきゅっと蛇を抱きしめ、真琴はあくまで冷静なフリをした。


「目を離しているうちに名誉を選んだ」


 死んだという意味だろう。

 口を割ることもなかっただろう。


「そうか……じゃあさ、その騎士は俺を守って殉職したことにして。家族がいたらお金出してあげて」


「カイ、なにをお前は言って……」


 さすがの真琴も驚いた。


「揺さぶりをかけたい。騎士の名誉を守ったことで、雇い主が口を割ったと思ってボロを出してくれる……といいなあ」


 雪菜はカイの変わりように戸惑っていた。

 あの気が弱くて善良な少年は、いったいどこに行ってしまったのだろうか。

 雪菜は蛇をギュッと抱きしめた。

 蛇も「心配するな」と雪菜の肩にあごを置いた。


「お前らの男は成長しただけだ。悪くなっておらぬよ」


 玄武はそう言うと、ゾンビの頭を撃つ作業に戻った。


「さーて、夜になったら着替えるぞ。それまでまったりしようぜ」


 真琴は伸びをした。


「夜はなにがあるの?」


「夜会。喜べカイ。今度は命をかけない方の戦争だ」


「まだあるのかよ……」


 カイの独裁者就任一日目はまだ続く。

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