玉座
翌日。
就任式は宮殿で行われる。
カイは例のごとくバカみたいに勲章のついた軍服を着た。
高い服なのに似合わない。
服に着られている状態だ。
マントも宝石だらけだ。
まるでやりすぎたお笑い芸人のようだ。
だがカイは気になどしてなかった。
笑いものになる覚悟はできていた。
カイはぴしゃりと顔を叩いて気合を入れた。
カイたちは宮殿のホールを目指す。
玄武も一緒についてくる。
人が通り過ぎるたびに穴が空くほど見られる。
値踏みをされているのだ。
「お主は人の視線に敏感すぎじゃ。少し感度を下げよ」
つい最近までいじめられっ子をやっていたのに、そんな難しいことができるほどカイは器用じゃない。
「必死に気が付かないフリをしてるんですがダメですかね?」
「いいや。気が付かないフリができたから、もっと難しい要求をした」
玄武はスパルタ教育が好きなようだ。
要求をクリアして行く度にもっと困難な要求をされるのだろう。
でもそれも期待されているのだろう。
カイは嫌な気持ちはしなかった。
「カイ。がんばろうね」
雪菜が声をかけてくれる。
カイは雪菜を見る。
今日の雪菜は儀礼用の顔の見える軽鎧姿だった。
目が合うとほほを赤くする。
「ひゅーひゅー」
「玄武様やめてください」
玄武は威厳があるのにお茶目なようだ。
つねにキャラを壊しにかかる。
「悲恋にならぬよう心しろ。我を使いこなせ」
しかもいきなり真面目なアドバイスに切り替わる。
玄武の態度は悪質である。
「ええ、心します。まずは敵を把握しないと」
そうこうしているうちに広間の扉の前につく。
(たしか、ドアは騎士が開ける)
前日に浩から教わったことだ。
「ふむそうだ。王者然としていろ」
騎士がドアを開け、カイは護衛に先導され中に入る。
ホールにつくと椅子がいくつも置かれている。
どこに座ればいいのだろうか?
(えっと、上座は……)
「阿呆! お主の席は壇上の玉座じゃ。お主が一番偉いの!」
真琴や雪菜にはわからない間違いまで玄武には筒抜けである。
カイは騎士に先導されながら、壇上に上がり嫌がらせのように金ピカの玉座に座る。
やたら冷たい。おなかを壊しそうだ。
日本の実家、自分の部屋にあるパソコンの前のオフィスチェアの方が座り心地がいい。
やはり技術力に勝てるものはないのだ。
「お前な……玉座だぞ。少しは喜べ」
(だって、これ固くて冷たいんですよ。後ろの席で居眠りしたい)
「この阿呆!」
玄武がカイを叱る。
座布団が欲しい。
毛布でもいい。
カイは心の中でぼやきながら、恋人と親友を見る。
雪菜はカイを守るため後ろについていた。
真琴も炎が意匠されたローブを着て後ろに控える。
「あの二人、雪菜と真琴はただ者じゃないのう」
(真琴も雪菜もは天才ですから)
「ただの天才は正しく努力を積んできたものには勝てぬ。ただ漫然と努力したものは天才には勝てぬ。だが正しく努力をした天才が伸びるとは限らぬ……お主に言っておるのだぞ」
またお説教である。
だが意味があるのだろう。
腹も立たないし、反抗心が起こることもなかった。
(俺は天才じゃありませんし、努力家でもありません)
「呆れた……お主は少しは自分を知ろうと努力せよ。……じゃないと死ぬぞ」
言葉がけっこうキツい。
全員が席についてカイを見守っていた。
するとコンラッド・バロウが前に出て腹から声を出した。
「では諸君、人民議会を開催する!」
貴族たちが一斉に起立する。
なんとなくつられてカイも起立しそうになる。
「お前への敬礼だ。立つなよ」
玄武に言われて少しだけ上げた尻を戻す。
危なかった。
「今ここで、カイ・ヴァーミリオン・マクベイン・スズキを元首とすることを宣言する」
(誰?)
知らない名前だ。
『カイ』と聞こえたが気のせいに違いない。
「阿呆。朱色の門番。つまりお主のことだ」
(門番が元首?)
あまり聞いたことのない制度だ。
門番というとあまり高度な職であるイメージはない。
「そうだ。門番は異世界との調停者にして、この世界の指導者だ」
(なんで名前が英語なのよ? この世界、ネーミングがいいかげんすぎるでしょ!)
「何代か前の門番が好きだったんだろ。嫌ならお主も改名すればいい」
カイの中にはいいかげんな人間の血が流れているようだ。
カイが呆れていることも知らずにコンラッドは続ける。
「我々、各地方の領主たちは元首であるカイ様に永遠の忠誠を誓います」
そう言うとコンラッドたちはひざまずいた。
大の男たちがカイに屈服するという心地の良い光景。
普通の高校生だったら舞い上がっていただろう。
だがカイは冷静だった。
彼らは自分に頭を下げているのではない。
元首という地位に、たまたま門番に生まれたことに頭を下げているのだ。
勘違いすべきではない。
「ふむ、なるほど。やつらはこのためにお主に屈辱と地獄を与えたのか。お主は友に感謝せねばな」
(どういう意味?)
「ただ赤ん坊のように甘えさせるのが愛ではないということだ」
二人だと殺してしまうからではないのか?
「物事は多面的なものだ。それもあるが別の理由もある。陰と陽、天と地、嘘と真実……本音と建て前」
カイにはまだ早かった。
よくわからなかったのかフリーズしている。
「あーもう! お主が敵をぶん殴るまでわざと放って置いたのだ!」
(なんでよ!)
ショックだった。
まさかそれは考えてなかった。
「不良程度に魂を縛られる気の弱さなら、敵だらけのこの世界では生きておれん。お主が敵を倒すこと。意識を変えることが必要だったんじゃ。お主の心が傷つくのを見て二人は死にたい気持ちだっただろうな」
(嘘……まさか……いやでも、真琴は野口を脅迫する材料を整えていた!)
「そういうことじゃ。あくまでお主が決断し、動かなければならん。だから二人は待っていた。お主が殻を破るのをな。絶対に恨むなよ。わかるな」
(……うん。そうだね。『なんで助けてくれないんだ!』ってのはダメだね。玄武が教えてくれたことは二人には黙っておく)
「その方がいいだろう。さて……来るぞ」
(『来る』って!?)
次の瞬間、二人の男が立ち上がった。
老人と若者だ。
彼らは懐からモデルガンを出した。
(圧縮空気のBB弾!)
当たれば人体が内部から破裂するものだ。
二人はカイに銃口を向けた。




