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帰還

 二人が部屋に入ってきて、代わりに浩は部屋から出る。

 逃げたに違いない。

 カイは情けない顔をして二人を見た。

 二人とも着替えてきていた。

 雪菜は鎧を脱いで普段着に。

 真琴はいつものパーカ姿、ただし下はスカートだった。

 カイは二人に言った。


「なにして遊ぶ?」


 カイはもうなにも考えたくなくなった。

 だからもう頭を空っぽにして遊ぶことにした。

 真琴は「ふふん」と笑う。


「そう言うと思って、ゲーム機を人数分持ってきたのだよ」


 真琴はゲーム機を出す。

 すると三人は無言でゲームを始めた。

 みんな少しの間だけ真面目な話をしたくなかったのだ。

 床に座ってボードゲームを死んだ目でしていた。

 すると雪菜がぽつりと言った。

 真面目な話を開始である。


「ごめんね。守れなくて」


 いじめのことなのか四神の儀のことなのか。

 まだ気にしていたらしい。

 カイはゲームを置いて真っ直ぐ目を見て言った。


「気にすんなよ。俺はケガしてないしな」


 真琴がぽつりと言った。


「雪菜ごめん。頭に血が上った」


 真琴はゲームの画面をじっと見ていた。

 素直に謝れない子なのだ。


「いいよ。私が悪いんだし」


 雪菜も答えた。

 ケンカをしたときのいつものパターンである。

 三人とも幼なじみなので性格はよくわかっているのだ。

 カイはそろそろ頃合いだと思った。


「じいちゃん殺されたらしい」


 あくまでサラッと言った。

 浩には強く言わないと流されるが、幼なじみ相手に脅すようなことはしたくない。


「お父さんが犯人を探ってる」


 雪菜はバカ正直に答え、真琴はフードを目深に被った。

 やはり知っていた。

 カイは怒る気にもならなかった。

 おかしい事に気づかなかったのが間抜けなのだ。


「俺たちで犯人を捕まえよう」


 カイはそう言うとゲームに戻る。

 三人とも無言になった。

 だが誰一人として反対するものはいなかった。


 翌日、朝早くカイは雪菜に起こされた。

 マンガの幼なじみのようだと思いながら着替えをする。

 普段着に着替えると浩や真琴もやって来た。


「では帰りましょう。四神の儀を行った部屋から帰るしきたりになっています」


 浩が言った。

 二日ほど経過してしまった。

 学校はどうなっているだろうか。

 無断欠席にならないだろうか。

 カイはとても心配だった。

 廊下に出ると人だかりができていた。


「カイ様付きの女官と宮中の警護をする近衛騎士です」


 浩が説明すると、真琴が補足をする。


「カイが自由にしていい女と、自由にしていい男だ」


「その最低の説明やめてくれないか。わりと真面目に」


 カイは焦った。

 なぜなら雪菜がわからないようにむくれているからだ。

 一行はそのまま、女官やら護衛やらを引き連れて四神の儀を行った部屋に入る。

 すると浩が言った。


「懐中時計のリュウズを伸びなくなるまで引いてください。一番短い針が帰る時刻を表してます。そうですね二時に合わせてください。そうすれば入った時間の二時間後へのゲートが現れるはずです。『十二時』は十二時間後ではなく、ここで過ごした時間を加算した時間に戻るのでお気をつけください」


 カイは言われたとおり懐中時計を操作し、一番短い針を二時にセットし、来たときと同じようにゼンマイをまいてからリューズを押し込む。

 紫水晶の近くの空間が歪みゲートが現れる。


「では通りましょう」


 すると雪菜が言う。


「お父さん、そう言えば会社のワゴンは!?」


「後で回収するしかあるまい。お前はなにを言ってやがるんだ?」


「私のお気に入りのブラウスがー! カイと遊ぶときに持ってきたのに!」


 雪菜は頭を抱えた。

 真琴も頭を抱える。


「お気に入りのパーカが! カッコイイやつ! カイを襲うときに持ってきたのに!」


「……バカ娘どもは放って帰りましょう」


 カイは二人を放ってゲートに入る。

 二人もあわててついてくる。

 ゲートくぐる瞬間、光が見えた。


 ゲートから出るとそこは埼玉だった。

 会社の倉庫だ。

 商売っ気のない『鈴木商事』のロゴが見える。

 なぜ商売っ気がないのかはよくわかった。

 お菓子や雑貨の輸入はあくまで仮の姿だった。

 本当は日本政府相手の商売だったのだ。

 カイの姿を見ると、従業員たちが一斉に頭を下げた。

 よく知っている人たちばかりだ。

 昔は雪菜や真琴とイタズラをして拳骨を落とされたりもした。

 それなのに、その丁寧な態度にカイは違和感を感じた。

 敷地の外を見ると警察の車両が集まっている。

 すると従業員のおばさんがカイに向かって言った。


「襲撃の件は暴走族が原因の玉突き事故ということで処理をいたしました。襲撃犯は五名、うち四名を逮捕。現在尋問中です」


 本当に警察はもみ消してくれるらしい。

 カイが感心していると、別のおばさんと話していた雪菜と真琴がカイのところに来た。

 真琴はカイへライフルを差し出す。


「カイ、これが凶器だってさ」


 AKなんとかである。

 カイは銃を触るのがなんだかいけないことにように思われた。

 これも日本の学校で受ける教育のせいかもしれない。

 それでもカイは我慢して銃を持った。

 予想よりもかなり軽い。


「これって本物?」


「エアガンだよ。ただし、風の魔法でBB弾を撃ち出してる。威力は段違いだね」


「へえ。それでもBB弾でしょ? 小さくない?」


 さすがにBB弾で死ぬとはカイには思えない。

 人を殺そうとするにはずいぶんショボい攻撃だ。


「BB弾を風の魔法でコーティングしてるんだ。体に刺さった瞬間に圧縮空気が体内で『バンッ!』って弾ける。当たったら一発で死ぬんじゃないかな? 首とか胴体がもげて」


 思ったよりもエグい。非道な武器だった。

 同時にカイは思った。

 だとしたら雪菜の武器もエアガンではないかと。

 カイは期待のこもった目で雪菜を見た。

 だが雪菜はそっぽを向いている。

 なぜかガタガタと震えている。


「あー……カイ、よく聞いてね。ボクのはエアガン、雪菜のは本物。雪菜はこういう細かい魔性が使えないんだ。肉体を強化するとかサラマンダーで焼き払うとか、ゼロか百しかギアがないんだ。ほら、不器用じゃん雪菜って」


 鎧姿同様に豪快だ。

 雪菜はしゃがみこんでいじけた。


「ちがうもん。メスゴリラじゃないもん。ちまちま細かい魔法を使える真琴がおかしいだけだもん」


 慰めようかと思ったが、カイはなんと声をかけていいかわからなかった。

 でも可笑しかった。自然と笑いがもれた。

 だが日常は戻ってきたと思っていた。

 こんなノリは久しぶりだ。最後に笑ったのはいじめられる前だったのかもしれない。

 カイは安心していた。

 ひとまず捜査は置いて、このまま雪菜と恋人として過ごす日々が待っていると思っていたのだ。

 まだカイは自分の内面の変化に気づいていなかった。

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