じいちゃんはやりたい放題
派手で大きなアメリカ製自動車がガレージに並んでいた。
真琴はそのうちの一つの前にカイを案内する。
その自動車はボンネットからスーパーチャージャーがはみ出していた。
真琴は自動車を指さす。
「隊長が、こっちの世界じゃ魔法使い放題で防弾は意味ないからオープンカーでもいいってさ。これは1974年製の? ファルコンってやつだっけ? とにかくボクたちの足だ」
真琴はあまり四輪には興味がないようだ。
むしろカイもわからない。
なにせカイや真琴よりも古いのだ。
それが映画に出てくることすらも知らなかった。
車体はオープンカーに改造されていた。
ガレージにはド派手なオープンカーにアメリカンバイクと、どこまでもアメリカンだった。
カイは今まで知らなかった祖父の趣味がわかってきたような気がした。ファンキーなジジイである。
日本では本性を隠していたのだ。
「おっし、乗りなよ。浩さんが運転するから」
「お、おう」
そのとき、カイの中である不信感が生まれた。
ある事実を思い出したのだ。
「ちょっと待て……真琴。俺たち金を貯めて休みに二輪の免許を取りに行くはずだったよな。でも……お前、ここに来る前、大型のバイクを乗り回していたよな?」
真琴は目をそらす。
口笛を吹こうとしたのか口をすぼめているが音は鳴らない。
「シ、シラナイヨ? 裏切ッテナンカイナイヨ?」
カイは真琴をじいっと見つめる。
真琴の顔が青くなる。そしてとうとう真琴は観念した。
「や、やめてくれ。その目はやめてくれ。黙ってたのは悪かったからやめてくれ! 謝るから! 体で払うから!」
「体はいらんわ! まあいいけどさ。言えなかったんだろうし」
「心の友よ!」
真琴は劇場版の時だけいいやつになるガキ大将みたいな発言をした。
カイは「いいよ」ともう一度言った。
真琴はカイに抱きつく。するとがっしゃんがっしゃんと金属の音がしてきた。
鎧だ。銀色の鎧が走ってくる。
「ごっめーん二人とも。遅くなっちゃったー」
雪菜である。
雪菜の存在を認識した瞬間、真琴はカイを解放した。
雪菜は猫がプリントされた、大きくて重そうなスポーツバッグのような『なにか』を肘に引っかけ、いわゆる女の子持ちで小走りした。
少女らしい動きだった。鎧なのに。
「荷物積み込まなきゃ」
雪菜がバッグを置く。
がしゃんどすんと重い音がした。
スポーツバッグの放つ音ではない。
よく見ると地面がへこんでいる。
「雪菜……中身はなんだ?」
思い切ってカイは聞いた。
雪菜はフルフェイスの兜を被ったまま首をかしげる。
「M134? ぐるんってまわってドガガガって撃つやつ?」
「ガトリングガンかよ!」
カイはツッコミをするたびに魂が消耗する思いだ。
すると真琴がフォローした。
「雪菜はあれでも騎士で肉体強化魔法の天才なんだ」
雪菜は天才と言われているらしい。
カイの知っている雪菜は元気いっぱいの女の子……そう、実に少女らしい少女なのだ。
全身鎧を着用して腰だめで重機関銃やガトリングガンを撃つはずがない。
だからカイは現実から目をそらした。
「雪菜も一緒に乗るの?」
「ボクはこっちかな」
真琴は大型の二輪車を指さした。
それには大きく『埼玉県警』と書かれていた。
断言こそできないが、おそらく本物だろう。
犯罪のにおいがする。
「うちのジジイはどこからそれを手に入れやがった?」
カイの中から急激に祖父への尊敬が失われていく。
やりたい放題である。
「大丈夫だって。盗品じゃないから。たぶん?」
真琴はヘラヘラと笑う。
断言はできないらしい。
ここで断言できなければ犯罪確定である。
「日本だったら足が速い方が便利だったけど、こちらでなら安定性だよねえ」
「はい真琴」
雪菜が真琴へ棒を投げる。
それはどう見ても散弾銃だった。
カイは手をあげた。
「なあお前ら……素朴な疑問いいか? 埼玉の貿易会社がどうやって銃を手に入れたんだ?」
「警察とか自衛隊に分けてもらってるんだよ。書類上はスクラップにされたものの産業廃棄物処理名目でな。うちの会社、廃棄物処理の免許持ってるし」
雪菜が説明した。
カイはさらに質問する。
「ガトリングガンも?」
さすがに横流しはないだろうと思う。
「そう、ガトリングガンも」
あくまでちょっとした横流しと言い張ることにしたのだろう。
カイはそれ以上の追求をあきらめた。
「この世界が優遇されてるのはよくわかったよ」
「その辺の話も宮殿に着いたらしようね」
雪菜がそう言うと浩がやって来る。
一目でわかる軍服を着ていた。
正義のヒーローに瞬殺されそうな気がする。
きっと正装に違いない。
カイは真琴を見た。
いつものパーカ姿である。
「真琴……そのラフな格好でいいの?」
浩は礼服と思われる軍服だ。
雪菜は正装と言えるかわからないが、鎧である。
それに比べたら真琴はずいぶんとラフな格好だ。
「ああ、これ? ボクは平気。魔道士だから。魔法で熱や衝撃を遮断できる魔道士ならではの服装ってこと。ほら、パーカの下はビキニ」
そう言うと真琴はパーカの前をあける。
本当にビキニの水着だった。ストライプ柄。
ちゃんと谷間がある。カイは固まった。
すると雪菜がやって来て真琴の胸をつついた。
ぽよぽよと胸が不自然に動く。
「ふう……悲しいくらい詰め物してるのね……だめだよ真琴、見栄を張っちゃ……まな板なんだから」
カイはぶちりと音がしたような気がした。
真琴は雪菜につかみかかる。
「ああ? やんのかコラァッ! だ、誰がツルペタだ、えぐれ胸だゴルァッ! そっちだって腹の肉と体重気にしてんじゃん!」
「動いてるから重いだけだもん!」
まな板が鎧につかみかかった。
鎧もまな板をつかむ。
すると浩が二人の前へ行くと拳を振り上げた。
「きゃあ!」
「ぎゃんッ!」
「うるせえ子猫ども。行くぞ」
小競り合いをする二人に軍服姿の浩は拳骨を浴びせた。痛そうである。
どうやらケンカはいつものことらしい。
「もう、お父さん痛い」
「隊長。痛い」
「うるせえガキども。乗れ!」
浩の剣幕を前にしてカイと雪菜は後部座席にあわてて乗り込んだ。
真琴も急いで二輪車にまたがる。
それは軍隊のように統率の取れた動きだった。
三人とも小さな頃から浩に怒られているのだ。浩が怖いのだ。
V8エンジンが音を上げ、びっくりするくらい普通に自動車が動き出した。




