地の文練習 お題「綺麗な瞳」
「綺麗な瞳……」
目の前の女性は艶やかな声を漏らしながらこちらの顔に手を伸ばす。まるで宝石を愛でるかのように。僕とこの少女関係は赤の他人。まったく見知らぬ人物。すれ違いざまに呼び止められ、何か落とし物をしたかと振り返ればこの通り。まったく意味が分からない。
「あ、あの…………」
恐る恐る声を出すが、女性はそんな僕を無視し、両手で顔を包む。本当のところを言えば、すごくドキドキしている。意味の分からない状況とは言え、目の前にいるのは綺麗な女性。しなやかな腕に、僕の顔を包む細く綺麗な指先。ほのかに鼻孔をくすぐらせる香水。女性の襟元から覗ける深い谷間。彼女の仕草一つ一つが男としての僕を呼び覚ます。
だが、それ以上に逃げ出したいという気持ちがあるのは、この女性の目が危なく思えたからだ。
「私のものにしたいくらい……」
まるで本気で抉り出そうとするかのように、女性の指が僕の目に近づく。彼女はどこか興奮しており息が荒い。僕の中の緊張がだんだんと別のものに変わっていく。恐怖。僕はこの女性が怖くなってきていた。果たして、彼女が言った言葉はどういう意味なのか。夜のお誘いなのか。それは男としてむしろ大歓迎だが、とてもそうとは思えない。
「僕を、どうするつもりですか……?」
勇気を出して問いかける。その声はものすごく震えていた。目の前の女性はクスクスと笑う。その微笑みさえ美しいものだった。彼女の手は依然、僕の顔を包んだまま。早くここから逃げ出したい。彼女の手を振りほどいてこの場から走り去りたい。やろうと思えば簡単なことだった。だが僕の体は金縛りにでもあったかのように指一本すら動かない。
「あなたの瞳が欲しいの」
女性は当たり前のことのように言う。顔を近づけられ、お互いの鼻が触れ合う距離まで接近する。彼女の目を通じて見えた僕の瞳は確かに美しかった。今まで鏡で見てもそんなことは全然思わなかったのに。そして彼女と唇が触れ合ったと気付いた瞬間、
僕の目は抉り取られた。