或いはいつの日かの氷原の様な
局地的異常汚染災害、local abnormal pollution disaster
頭をとってLAPD通称ラップ現象。起こる現象は多岐にわたり、突然真空状態になったり、何もないところから滋養強壮にきく青い泥が沸いたりと様々だ。あの『世界的大事件』によって変質した環境の現代日本では良く有ることである。恐らくは俺の自宅に起こった異常事態は巷で流行りのラップ現象だろう。代わり映えのない日常に飽きた精神的中学二年生にはたまらないスパイスだろう。俺は真っ平ごめんだが。
さて、手は……まだ動く。リンクデバイス(スマホのようなものである)の緊急用通報キーを選択し、対応用のAIに状況を告げる。
色々気になることも有るには有るが、この冗談のような殺人冷凍庫からの脱出が先決だ。自宅で凍死なんて笑えない。なんとしてでも活路を見出ださねば。
先ず気になるのは、範囲だ。ラップ現象がこの部屋『だけ』ならば話は早い。迅速にドアからの脱出を試み、然るべき機関の対応にてこの非日常的現象は幕を下ろすだろう。
だが、先程のアイスよりも甘い思いは直ぐ様砕かれる。
廊下もリビングと同様の気温、有り様だった。
ラップ現象について分かっていることは現代科学でも数少ない。しかし、分かっていることとしてラップ現象は発現する時は必ず中心の発生源から同心円状に汚染を広げていくこと。ラップ現象には其々限界規模というものがあること。
一般的にはその二点だけ。このラップ現象の限界規模がどのくらいかわからない以上、恐らくは自室で寒さに震えているだろう姉貴を放っておく訳にはいかない。通報に応じた機関が救助に向かうよりも氷のオブジェになる方が早いだろう。姉貴が助けを呼ばないのではなく『呼べない』可能性が高くなってきた今となっては尚更だ。
足に力をいれる。まだ動ける。いけるはずだ。
姉貴がリビングにいないときは大体自分の部屋だ、それがまあトイレだろう。
急激な温度の変化により凍ってしまった階段を危なげなく上り長くもない廊下を駆ける。
一歩踏み出すのに1キロ走るのと同じくらいの体力を使ってしまうのはラップ現象の性だろうか?だとしたらダイエットに良いかもしれないな、俺は御免蒙るが。
等と糞みたいな事を考えるほどには余裕があった割には息も絶え絶え足の指は最早感覚がない状態で姉貴の部屋に飛び込む。
目に映ったのは、布団に包まり、音もなく迫る極寒の絶望に耐えながら何かを庇うように抱き締めていた姉だった。




