初めての給料、そして二日目以降
目を覚ましたら、午後4時を回っていた。いけない! 給料を取りに行かないと! また、魔法少女スーツを着たまま、眠ってしまった……慌てて、派遣会社に電話をかける。事務のお姉さん――充子さんといったっけな――がでた。
「えっと、今から給料受け取りに伺いたいんですけど……時間、まだ大丈夫ですか?」
「午後6時までにいらしていただければと思います。シャチハタ以外の印鑑をお忘れなく、あと、これは社長からの伝言なんですけど……」
充子さんは、何か言いづらそうにしている。一体何だ? 気になるじゃないか。
「守谷さんにとって、魔法少女スーツは正装なので、事務所に来るときは、必ず来てくるようにとのことです。」
え……マジすか? まあ、今現在、スーツを着ていることだし、急ぎだし、ちょっと恥ずかしいのは目をつぶって、急いで行くことにするか。
「はいこれ、今日のお給料」
事務所に行くと、充子さんはもう帰ったらしく、タカナシ社長が、給料袋を用意して待ち構えていた。勤務は9時半までだったが10時までの『定時保証』がついており、5時~10時までの5時間勤務、時給は面接の際に提示されたとおり3000円という破格の値段で、計15000円の給料になっていた。
「ええ? こんなに……ありがとうございます!」
「まあ、魔法少女スーツのテストの目的もあるからね。で、どうだった?」
私は、最初不安だったが、魔法少女スーツのおかげか、安心して仕事できた旨を伝えた。
「おお! やっぱり効果があったか! 実は私の方も、内心不安だったんだよね~ しかし、実際に効果を聞いて、安心したよ! 明日からも、頑張ってくれ! よろしく~」
私は給料袋を手に、ウキウキ気分で帰っていった。今日1日だけで、ネット代が稼げるなんて……残りは、大切にとっておかないと。
二日目、仕事の流れもわかったし、昨日よりは安心して職場に向かえる。タイムカードを打ち、携帯端末で出勤の操作をして、仕事を始める。魔法少女スーツのおかげか、仕事はスイスイすすめる。しかし、やはり単調な仕事であることには変わりないので、飽きが来るような……
7時を回り、センター長が出勤してきた。
「昨日はちょっとバタバタしていたので声をかけなかったけど、今日は、朝礼に出てみるか?」
どうやら、朝礼は毎日やっているわけではないらしい。昨日は忙しかったので省略したが、今日は割合落ち着いているのと、伝達事項があるため朝礼をやるらしい。7時半を回り、従業員の人たちが作業の手を止め、集合してきた。
「企業理念唱和、荷物を運ぶのではなく、心を運ぶ!」
センター長に続き、従業員全員が復唱する。それからいくつかの伝達事項を説明し、朝礼は終わった。みんなは作業の続きにとりかかっていた。
「企業理念の意味、わかったかな?」
センター長が、声をかけてきた。
「いえ、あまりよく……」
「つまりこういうことだ。荷物には、いろんな人の想いが込められている、それを運ぶのが、我々の使命だ、ということだ。分かるかな?」
そうだったのか……さっき、仕分け作業が単調でつまらないと思っていたけど、そう考えると、大事な仕事なんだなと、実感が湧いてきた。
数日後、配達に回っていると、お客さんの何人かが、私のことを覚えてくれているみたいだ。まあ、派手な格好だからというのもあるが、頑張っているのを認められるというのも、気持ちがいいもんだ。
そして、クリスマスの日。やはり、プレゼントが多い。朝礼の時に聞いた、『荷物を運ぶのではなく、心を運ぶ』『荷物には、いろんな人の想いが込められている』というのが、うっすらではあるが実感できる。
今日は、いつもの宅配便の帽子ではなく、サンタ帽をかぶって配達に行くようにと言われる。配達に行った先で、小学校低学年くらいの男の子が出てきた。
「えっと……おうちの方はいるかな?」
奥から、お母さんと思しき方が、いいんです、そのまま荷物あげてくださいというようなジェスチャーを伝える。改めて荷物を見ると、どうやらクリスマスプレゼントのおもちゃらしい。そうか、社会勉強も兼ねて、子供に受け取らせるつもりなんだなと。子供さんが、印鑑を持っていたので、
「じゃあ……ここに、はんこ押してもらえるかな?」
子供さんは、恐る恐る丁寧に印鑑を押す。荷物を渡すと、子供さんは嬉しそうに、荷物を大事に抱きかかえる。この瞬間、私はこの仕事についてよかったなと、しみじみ思う。
12月31日、いよいよ最終日だ。仕分けをしていて、今日はやけに冷蔵庫が多いなと思った。中身を見ると、おせち料理の重箱が多い。同僚の人の声に耳を傾けると、今年は海外旅行が減っていて、自宅で正月を迎える人が多い、だから今年はおせちが、過去最大の量らしい、ということがわかった。そのようなことでも、時節を知ることができるのだなぁと思った。
配達から帰ってくると、いつもはこの時間いないはずのセンター長が待ち構えていた。
「ご苦労さん。1ヶ月、よく頑張ったね。これ、僕からのご祝儀。」
封筒を受け取る。中身は、金一封だった。派遣会社から正式に給料受け取っているのに、追加でもらっちゃっていいのだろうか?
「あ、今の、派遣会社には内緒ね。あと、タカナシさんに聞いたんだけど、今回、生まれて初めてのバイト経験なんだってね。」
あいつ、余計なこと言いやがって。恥ずかしいじゃないか。
「その割には、よくやったと思うよ。その、魔法少女スーツのおかげかな。」
そういえば、魔法少女スーツの件は、既に伝えてあると言ってたかな。
「いや、それだけじゃない、君自身の頑張りも、あると思うよ。」
そう言われて、ちょっとだけ照れた。
「今回は、これで終わりだけど、来年もまた、頼むかもしれない。その時は、よろしく頼むよ。それじゃ」
「ありがとうございました!」
センター長に別れを告げ、帰路についた。
家についてから、派遣会社にも一応報告しておいたほうがいいと思い、電話を入れた。充子さんは既に冬休みに入っているらしく、タカナシ社長が直接出た。企業理念の件、お客さんに顔を覚えられた件、最後に、センター長に褒められた件。さすがに、最後に金一封もらった件は、言わなかったが。
「ご苦労さま。よくやったね。今はゆっくり休んで。今のところ、次の仕事は決まってはいないが、決まり次第、報告するから。よろしく~!」
「はい!ありがとうございます!」
さてと、久しぶりに、ネット生放送でもやってやるかな。ただでさえ、リスナーがさみしがってるから、なんてね。
「さて、私、人生初のバイトを経験して、それが、宅配便の仕分けと配達だったわけですが。これでようやく、ニート卒業ね。」
さすがに、魔法少女スーツの件は伏せておいた。どうせ、馬鹿にされるのがオチだから。すると、ニート姫のくせになまいきだ、とか。大きなお世話だ。また、そんなの誰にでもできる仕事だ、お前にできるくらいだからな、とか。少々むっとして、言い返した。
「荷物には、いろんな人の思いが込められているんだぞ~!それを運ぶという、大事な仕事なんだぞ~!」
次の仕事は?と聞かれて、まだ決まっていない、と言うと、またニートに逆戻りか、とか言われる。確かにそれは、少々不安だな。年を明かして、いい仕事が来るといいなと。そのへんで、生放送を終了し、床につく。