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アラサー魔法少女、派遣します!  作者: ふたぐちぴょん
第5案件『ライブカフェバー』
20/21

大物さん失踪、そして神パフォーマンス

 いよいよ、開場の時間。みんなで協力して告知した結果、開場前から、随分大勢のお客さんが並んでいたようだ。その列の後ろの方に、やや小太りで、ギターを持った中年男性を見かけた。もしかしたら……

「あの~、もしかして、関谷雅人さんですか?」

「ああそうですそうです、遅れてすみません」

 せきやさんは律儀にも一般客の列に並んでいたので、

「すみません! 関係者です! お通しください~!」

 なんとか、関谷さんを、ホール内に入れることができた。

「真希さん、もうすぐ時間よ!」

「わかった、行きましょう!」

 イベント中は、二人で司会進行を務めることになっていたのだ。

 そして開演。サラが、今日のために作ってきたというファンファーレを流す。

「さあ始まりました、カフェバーライブ『トゥエンティタイム』本日の司会を務めさせていただきますのは、私大柴サラと、」

 サラが私の方をちら見する。

「私、守屋真希の二人でお送りしたいと思います」

「それでは、本日の注意事項を申し上げたいところなのですが、私、すぐ次が出番でして……真希さんの方から、説明があります」

 え?そんな打ち合わせ、あったっけ? 仕方ないので、ライブの一般的な周知事項、携帯の電源は切っておく、写真撮影は、フラッシュ・三脚の利用は禁止、などを伝えた。

「それでは、第1の出演者、大柴サラさんです、どうぞ!」

 彼女は、はやりのアニメソングと、洋楽バラードを交互に歌ったが、なんといっても、洋楽バラードの方が、鳥肌ものだった。

 続いての出演者の紹介をしたあと、客席に戻る。肩をとんとんと叩かれたので振り向いたら、関谷雅人さんだった。

「ちょっと、朝から何も食べてなかったんで、表で何か食べてきていい? すぐ戻るから」

 フードメニューなら、この店にもあるのに、と言おうとしたが、恐らく、一人になりたい何かがあるのだろう。出演時間までには必ず戻ってくるように、それだけを再度伝えて、関谷氏は出て行った。

 続いての出演者は、頭にブルーのウィッグをかぶって、自らを『冥王星人』と名乗るお姉さんだ。冥王星が『準惑星』に降格してしまったことを憂い、冥王星の地位を高めるため、地球で歌っているとのことだが、歌ったのが、『演歌』なんとも濃い、冥王星人様である。

 続いては、なんと、リラックマの着ぐるみをかぶったお姉さんだ。色物のような衣装とは裏腹に、歌は正統派、歌のお姉さんである。歌が終わると、

「私、もともと舞台の人間なので、ちょっと怖い小話を。実はこの店、来たことがあるんです。夜のバー営業の時でしたかね~通常だったら、8時には空いているとあったのですが、マスター、何か用事があったのか、その日は空くのが遅かったんですよね。で、十時になって、やっと空いた。悪の十字架」(悪の十時か?)お粗末さまでした」

 正直、反応は、寒いものがあったとしか言い様がない。しゃべりはうまかったんだけどね。

 続いては、『男の娘アイドル』つまり、綺麗に女装してステージに立って歌う人のこと。リハの時にも聞いたのだが、彼(?)は、女性キーでも問題なく発生できてしまう、超音波ボイスの持ち主である。

 続いては、黒人ハーフの女性マルチタレント。黒人らしく、ブルースなどの黒人音楽を歌うと思いきや、歌っていたのは、現代のアイドル曲が中心。なんか、いい意味でギャップを感じるな~

 ここら辺でそろそろ、関谷雅人さんに帰ってきてくれなければ困るのだが、一向にそんな気配はない。サラに、関谷さんの電話番号を教えてもらい、何コールかするのだが、一向に出てくる気配はない。

 せっかく、次の出演者が、例の特大ビジョンで映ってたり、動画サイトで人気のダンスユニットで、楽しみにしていたのに、しかたがない。ここは当然、関谷さんを探しに行くこと優先だ。

「サラ、私は関谷さんを探しに行くから、もしも彼女たちの出番が終わって、それでもせきやさんが戻らなかったら、喋りでもなんでもいいから、つないでおいて」

「OK」

 ステージのことはサラにまかせて,関谷さんを探しに行く。改めてもう一回、電話をかけてみる。

「もしもし! 関谷さんですか!」

「道迷っちゃったよ~」

「おっきいK予備校は、見えますか?」

「そんなの、全然遠くに行っちゃったよ~」

「じゃあ、近くに交番ありますか?」

「あるけど……道路向かい」

「それじゃ、交番に行って、『K予備校はどこですか?』って聞いてもらえます? そしたら、すぐわかると思うんで。」

「……わかった」

「じゃ私は、会場に戻ってますね!」


 会場に戻ると、私も関谷さんもいない間、サラが機転を利かせて、一人独演会の真っ最中だった。こういう時、わたしがサラの立場だったら、どうなっちゃうんだろうな。固まって、一言も喋れなくなっちゃうんじゃないだろうかな。そう考えると、サラってやっぱすごいと思う。

「お~っ! 黒幕登場!」

 黒幕って、私のことか? 衣装的にも性格的にも、サラの方が黒……いやなんでもない。客席にいても仕方がないので、ステージに上がる。

「黒幕! お客様がご不安に思っているので、まずは、状況報告を!」

「黒幕じゃなくて、総監督とおっしゃい!」

「そんなこといいからいいから早く!」

「え~、お待たせしております、CNBの関谷雅人さんは、出先で酒飲んで酔っ払って、道を反対方向に行ってしまわれたようです。ちょうど、道路向かいに交番があったらしいので、そこで、K予備校の場所を聞くように伝えました」

 報告終わり、なのだが、まだ来る気配が全くない。こんな時、サラだったらどのような内容をしゃべるだろうか。彼女に視線を送るが、あんたがしゃべれとのジェスチャーで返す。仕方がないので、私がしゃべることにする。

「え~、関谷雅人さんとか、CNBっていうバンドといっても、若い方たちは聞いたことないかもしれませんね。でも、20年くらい前までは、ものすごい人気バンドで、性別は違うけど、今でたたえると、AKBくらいな? そんな人の演奏を聞けるなんて、皆様本当にラッキーですよ? そして、出演者の皆さん、例えて言うならば、おばさんになったAKBメンバーと共演するようなもんですよ。ミーハー的かもしれないけど……」

 そこで、関谷さんは、やっと帰ってきた。

「ごめんごめん、お待たせしました~」

 関谷さんは、急ぎでギターの準備をし、指慣らしをはじめる。指慣らしをしているはずなのが、それがだんだん曲の形になってきて、ついに歌いだした。歌ったのは、ジャズスタンダードナンバーで、近年アニメでも取り上げられた曲。途中、オリジナルのラップを取り入れたりのして、盛り上げた。観客は湧いているようだが、私としては、背筋が寒くなるような思いと、やっと辿り居てくれた安堵感とで、複雑な心境だった。曲が終わると、MCで、

「主催の守屋さんに電話で、向かいの交番で道聞きなさいって言われたんですよ。だから、道路を横切っていこうとしたら、警官に『ダメですよ!』って怒られて、仕方なく、近くの歩道橋を上り下りしたわけですよ。ご覧のとおり、僕、足腰弱ってるでしょ?正直、苦痛でしたね。国家権力も、ああいった対応をしてはいけない」

 なるほど、そのような事情があったのか……そもそも、さっき一旦退出したのも、ほかの仕事で嫌なことがあって、それで若手にみっともないところを見せたくないと、あえて場所を変えて一人酒やってたのかもしれない。そう考えると、気の毒……まあ、それが引き起こした結果が、これなんだけどね。

 続いて、2曲目が始まった。これは、いわゆる『浪曲』のようなもので、戦争と平和について、深く語ったものである。思わず、歌詞をじっくり聞いてしまった。それに引き続き、曲調は打って変わって、『本日の即興ブルース』になった。その歌詞の内容も、自分が酔っ払って道迷って、みんなに迷惑をかけてしまったことを謝る、一種の自嘲ソングのようだ。そのままの流れで行くと思いきや、途中で『CNB』時代の人気曲を持ってきて(これ、知ってる人いる?とか言っているが)この曲は盛り上がったのだが、そのご、メジャーって大変なんだよ、という、苦労を味わった人じゃなければ言えないメッセージを残した、最後は、今回の仕掛け人である、私とサラ、そしてお店の瀬尾マスターをたたえる節で終わった。思わず、終演後、涙ぐんでしまった。

 すると、肩をとんとんと叩かれる

「サラ?」

「すっかり忘れていたわけ? 次、あなたの番よ?」

 あ~すっかり忘れてた、どうしようどうしようどうしよう……

「関谷雅人さん、素晴らしい演奏、ありがとうございました!続いては、われらが黒幕、守屋真希さんです~ステージへどうぞ~!」

(どうしよう、まだこころのじゅんび、なにもできてないから)

(だいじょうぶ、わたしにまかせて)

「真希さんは、こう見えて、本物の、魔法少女なんですよ~! 年齢的にはそう見えませんけどね」

 いきなり、何を言い出すんですかあんたは! しかも、年齢云々なんて、私の一番気にしていることを――

「魔法といっても、悪と戦うような能力はお持ちではないそうです。彼女の能力は、『どんな職業のスキルでも、たちまち見についてしまうこと』!」 

 観客がどよめいた。このへんで、サラが私にやらせたいことが、大体分かってきた。

「それでは、真希さんに、先程の関谷さんの若い頃を凌ぐ、スーパースターのスキルを身につけてもらいましょう!」

 サラがニヤニヤ笑っている。もうあとはない。

「じゃ、行きます。『スーパースタースキル、インストール!』」

「はいこれで、素晴らしいパフォーマンスが期待できます。それでは改めまして、守屋真希さん、どうぞ!」

「えっと、一応細くしておきますが、この魔法少女のシステム上、いきなりレパートリーが広がったり、歌がめっちゃくちゃうまくなったり、ではないんですね。そう……観客を盛り上げる力が増すというか、そんな感じ。では行きます」

 私は、いつも歌っているアイドル曲を、振り付けで歌ってみた。ダンスの振りも、いつもよりも切れているみたい。声の伸びも、いつも以上だ。それ以上に、客席の盛り上がり方と言ったら……

「ありがとうございました!」

 観客からの大拍手、それがやがて、アンコールを要求するものに変わる……

「ごめんなさい、アンコールは、用意してきてないんで」

「と、おもったでしょ~!」

「サラ!」

「真希さん。あれ歌えるでしょ?何年かはやったロボットアニメのオープニングの、女性デュオで歌うやつ」

 その曲なら、私もその場で歌えるし、有名曲であることもあって、場も盛り上がる。 

「そ、その曲なら……」

「決まり! それじゃ、アンコール、行きます~!」


 終演後、会場は、交流タイムに入る。出演者とお客様・出演者同士が、互いに交流し合う。

 私が気になったのは、関谷雅人さんだ。若い人が大半の中、交流しづらいのではないかと思うからだ。

 一人の中学生くらいの男の子が、関谷さんに近づく。

「はじめまして! 母がファンなんです! サインください!」

 関谷さんは、ニッコリと笑い、サインに応じる。

「ありがとうございました!」 男の子は嬉しそうだ。

 また、関谷さんに、もうひとり合わせたい人がいた。瀬尾マスターだ。

お連れしようとしたところ、関谷さんの方から、

「瀬尾先生!」と。

「お知り合いなんですか?」

「実は、デビュー当時、瀬尾先生に曲を書いていただいて……」

「全然売れなかったけどね」と、瀬尾マスター

「いやあれは、我々が、先生の曲を生かしきれなくて……すみませんでした!」

「瀬尾さん、作曲家だったんですね。現在も、曲をおかきになってるんですか?」

「今日出演した、ダンスユニット、実はあれ、私の作曲なんだよ……」

「そうなんですか! すみません、その頃、まだ街をさまよってました……」

 瀬尾さんがじつは作曲家で、せきやさんたちにも楽曲提供したことがあるなんて、……世界は狭い。二人はこのまま、昔の思い出話に花を咲かせた。


 交流タイムも終わり、客様撤収タイムになる。

 お客様は、三々五々、帰路に就くが、その中のひとりの男性が、

「ニート姫さん?」

 私の、ネット生放送の名前を読んだ。

「いつも、ネット生放送、楽しみにしています。特に現在、いろんな仕事に取り組んでらっしゃっているとのこと、励みになります。僕も、頑張ります!」

 サラとふたりで、瀬尾さんの所へ挨拶。

「今日は本当に、ありがとうございました!」

「いやこちらこそ、楽しかったよ。最初、話を聞いた時、ここまでとは思わなかった。でも、ここまで盛り上げてくれて、本当にありがとう。できれば、定期的に、こういうことをやっていきたいと思う。その時は、またよろしく頼むよ」

 サラとふたりで、無言でうなづく。


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