ニセ魔法少女?
新作ゲームを買いに、都心のターミナル駅に出た。街頭では、多くの人が、チラシを配っている。その中に、一際目立った子を見つけた。短いベストにミニスカート、ブーツ姿……どことなく、私がいつも着ている『魔法少女スーツ』に似ている。ただ違うのは、色が私のパステルピンクではなく、全身黒であること。そしてあの顔、見覚えある……派遣会社に行ったとき『産業スパイ』となのった、大柴サラだ――
パクられた~! あいつ、本当に産業スパイだったとは!
慌てて、事務所に電話をかける。
「もしもし、社長! 大変です!」
「どうした一体、そんな慌てて!」
「産業スパイです! 前うちの事務所に来てた、大柴サラって子です! うちにそっくりな、魔法少女スーツまで作って!」
「まあまあ落ち着け。よその会社が、偶然同じようなものを作っていたという可能性があるし」
そんなことはない。あんな、一見バカバカしい――実際のところ、効果はあるのだが――ようなものを、他が同じようなものを作るわけがない。うちの情報を、盗み出されたのだ。
「それに彼女は、あの時は一時的にうちで働いていたが、本来、どこで働いていても、それはその人の勝手だろう?」
まあ、そうかもしれないけど……よくこの状況で、落ち着いていられるな。
「で、彼女、どこで見つけたんだい?」
「駅前で、チラシ配ってて!」
「ああ、業界用語で、サンプリングというがな。その案件、実はうちの会社にもあるんだ。」
「それも、うちのクライアント情報、盗まれたんじゃないですか!? ほらあの子、うちの事務の仕事の手伝いしてたし!」
「まあ、同じ案件、複数の派遣会社が持つのもよくある話だ。もしよかったら、その仕事、やってみるかい? 彼女とまた会えるかもしれない、その時ゆっくり話してみればいいと思うし」
よし、ここはなんとしても、あいつに問いただして、とっちめてやる!
早朝。歓楽街の地下鉄の出口付近に、20人くらい集まっている。これから、ディスカウントショップのキャンペーンチラシの配布だ。黒い魔法少女スーツ……いた、サラだ。
「やっとみつけたわね、この産業スパイ! うちのとっておきの魔法少女スーツ、パクりやがって!」
「あ~ら、パクられるほどドジな派遣会社さんだこと。なんなら、私と勝負してみる?」
「望むところよ!」
「それじゃ、時間内に何枚捌けるかで勝負しない?」
サラの挑発に、思わず乗ってしまった。それにしても、ムカつく娘だ。
ディレクターさんから、仕事の説明を受ける。時間は、8時~10時の2時間、それまで、決められた場所で配布すること、大きな声で元気良く配ること、など……
指定された配布場所に、チラシの束を片手に行く。仕事自体は難しそうではないが、サラに負けるのはシャクなので、サンプリングスキルをインストールしておく。時間まで、あと10分少々。
「チラシください」
通行人の方から、チラシを求めてきたので、一枚差し上げる。そういえば、ここのディスカウントショップのチラシ、『ティッシュに勝つ』と言われているんだっけ。
時間になった。配布を開始しよう。
「おはようございます、ビッグマンで~す!お得なキャンペーン実施しておりま~す! よろしくお願いします~!」
チラシがかなりの勢いで捌けていく。ディレクターさんに電話して、追加のチラシを持ってきてもらう。
時間になった。最初の場所に戻り、枚数報告。
「真希さん、何枚配れた?」
サラに、配った枚数を言う。
「それじゃ、私の勝ちね! うちの魔法少女スーツの方が、優れているってことかしら!」
クソッ!なんか悔しい。うちの魔法少女スーツの、悪口言われているみたいで。これはスーツのせいではなく、私の配り方に問題があったからかもしれない。そう思わずにいられない。