表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/21

事務所にて

 6月の、雨の日。

 あす、新作のゲームの発売日であることをすっかり忘れていて、急遽、給料を取りに行くことにした。タカナシ社長は忙しいようだったが、了承してくれた。

 『給料を取りに行くときも、魔法少女スーツで』しつこく言われているこのいい付けを、律儀に守っている。もしかしてこれ、あまり意味ないんじゃ……社長の趣味? だとしたら、趣味悪~。

 事務所に行くと、充子さんはいない、社長は応接室で、若い女性と面接中のようだ。少し待つことにしよう。

「よう、真希ちゃん。給料だな。ちょっと待ってな。」

「面接は、いいんですか?」

「ああ、今終わった」

 社長が、給料袋を取り出す。私は、印鑑を押して、給料を受け取る。

「紹介しよう。今度、短期の事務で入った、大柴サラちゃんだ」

 サラちゃんと呼ばれた女性は、はじめまして、と声をかける。私も、挨拶を返す。

「実は、みっちゃんが、1ヶ月ほど実家に帰らなきゃなんなくなってね、その間、短期で事務を頼むことにしたんだ」

 なるほど。

「じゃ、僕は、営業に行ってくるから、二人で、電話番しておいてくれ。真希ちゃんの方が、ここでは先輩だから、いろいろ教えてやってくれ~よろしく~」

 そう言うと、社長は、表に出ていってしまった。さすが、珍味屋の佐藤社長の元部下ということもあって、ノリが似ているな。

 事務所には、私と、サラ……という女性の、二人きりになってしまった。

「よろしくね。ここでは、私のほうが後輩だから、いろいろ教えてもらうことになるわね」

「はあ……よろしく」

 やたらと、馴れ馴れしい子だ。

 電話番をやれと言われたが、電話は、以前の確定申告コールセンターで慣れている。敢えて、スキルをインストールする必要もないだろう。

 早速、電話が鳴った。先輩として、先に出ることにする。

「はい、ことりキャスティングです。面接希望の方ですね。申し訳ございませんが、担当が今、席を外しておりますので、折り返し、ご連絡差し上げます。お電話番号を頂戴してもよろしいでしょうか……」

 ふう、スラスラ言えた。タカナシ社長が、『とりあえず、要件だけ聞いて、折り返しにしてもらっていい』と言ってたから、こんな感じでいいのかな。

 しばらく電話はならず、沈黙が続く。気まずい。なにか話しかけないと。え~と、話題は……

「真希さん、ですよね」

 沈黙を破ったのは、サラの方だった。

「あなたが今着ているのが、魔法少女スーツってやつですよね」

「なんで知ってるんですか!?」

「派遣業界で、結構話題になってるみたいよ」

 どこで、情報漏れたのかな……

「なんでも、どんな職業のシスキルも身につくということで評判みたい。これまで、どんな仕事してきたの?」

「え~と、宅配便、コールセンター、催事販売……」

「これを着ると、医者や弁護士にもなれるのかしら?」

「ここの派遣会社にあるデータのみだって言ってたから、それは無理みたい」

「職業のデータを『インストール』した時って、どんな感じ?」

「そうねえ……それまで不安だったのが、この仕事が絶対できるという、自信がつくというか」

「なるほどね……」

 そう言うとサラは、いたずらっぽく笑う。

「もし私が、スパイだって言ったら?」

 え? スパイ? 映画やドラマの世界でしか知らないけど、007みたいな?

「産業スパイ。企業に潜入して、情報を盗み出すという」

 はぁ?

「実は私、ほかの派遣会社のバイトなの。確定申告のコールセンターで一緒にいたんだけど、席が遠くてわからなかったかな? でも、あなたのことは、うちのチームでも話題になってて、そのことをうちの派遣会社の人に行ったら、ちょうどいい、情報を探ってこいと。ちょうどアナタのところが事務員募集していたから、ちょうどいいわ。立場上、いろんな情報が手に入るから……ところで」

 サラは、にやりと笑う。

「あなた、私の仲間にならない?」

 はぁ?

「私の会社に入って、『魔法少女スーツ』の情報を提供してくれたら、高額のギャラを約束するわよ」

 いやそれはちょっと、倫理的に考えてもまずくはないか? それに私、ここの会社に恩があるわけだし。お断りします……と言おうとしたところ、入り口のドアがバターンと開いた。

「社長! おかえりなさい!」

「どうだ~二人、仲良くしていたか~?」

 サラの正体がスパイであること、言わなきゃいけないのだろうが、さすがに、本人前では言いにくい。いつか機会を狙って、言うことにしよう。

「それじゃ私、そろそろ帰ります」

 私が荷物をまとめよて、出ようとした時に、サラが一言。

「さっきの話、考えておいてね」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ