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アラサー魔法少女、派遣します!  作者: ふたぐちぴょん
第3案件『駅構内催事販売』
12/21

私でも理解できないのに……

『工場』の最寄駅であるという、郊外の駅。ここからさらに車に乗るというので、14時に佐藤社長と待ち合わせているのに、社長はまだ来ていない。電話してみる。

「はい、ご苦労さん~今から向かうから」

 今から向かうって、まだ出発もしていなかったのか? いい加減な人であることは分かっていたのだが、ここまでとは……

 ちなみに、私の今の服装は、例によって、魔法少女スーツである。うちのタカナシ社長に連絡したところ、『これも仕事の一環だから、君にとっての正装で』とのこと。どうせ相手はおっさんだから、気にすることもないのだが。

 待つこと30分ほど、佐藤社長が、ワゴン車でやってきた。

「じゃ、後ろに乗ってくれ~」

 広報座席に乗ると、車が発進する。「うちの仕事はどうだ~?」とか、「その衣装、可愛いけど、一体どうしたの?」とか、「君の派遣会社、ほかにどういう仕事があるの~?」とか聞いてくるので、適当に答えておいた。それにしてもこの社長、随分運転が下手だなぁ。上手い人がスピード狂になるというのではなく、ただただ、下手なのだ。いきなり急ブレーキを踏んだり、変な車線変更をしたり……私は免許を持っていないのだが、素人目に見ても、これは下手だというのがわかる。

「ところで」佐藤社長が、急に真面目な口調になった。仕事の話だろうか?

「俺には、信心があるんだよ」

 え? 宗教の話ですか? 販売の時に、『自分との戦い』とか、宗教っぽいことを言ってたのが、本当に『そっち系』の人だったのか……しかし、『信心』などという言葉、お坊さんとかが言うのならわかるが、こんな、いかにも中小企業のおっさんが言うのは、かなり違和感があるぞ。

 それからずっと、昔の偉い? お坊さんの話とか、宗教団体の会長さんの話とか、教義的な話とか……専門用語が多すぎて、「なんとかがなんとかで、それがなんとかで、偉いお坊さんが会長先生で、それがなんとかっていうお経なんだよ~」としか聞こえない。適当に聞き流しておく。

『工場』に到着したようだ。白い家の隣に、小さなプレハブ小屋がある。白い家の表札を見ると『佐藤』とある。こちらが社長の自宅、プレハブ小屋の方が『工場』なのだろう。

「さあ、上がってくれ~」

 私は、『工場』の方に通された。サカナ臭っ!みると、商品の入ったケースが

山積みになり、その脇に、パック詰めしていない、裸の状態の商品が置いてある。おそらくその匂いだろう。中に入ると、パック詰め用と思しき機械がいくつかある。当然のことながら、『商品を作る機械』なんてものは見当たらない。本当に、パック詰めしているだけなんだろう。

「じゃあ早速、書類を見せてもらおうか。作ってきた書類と、あと原本も、出してくれ」

 作ってきた書類と、原本を、両方差し出す。佐藤社長は、その二つを真剣に見比べて、

「よし、大きな間違いはないみたいだな。それじゃこれ、とっといてくれ」

 茶封筒に、何枚か札が入っている。あまり高い金額ではないが、そんなに難しい仕事ではなかったため、そんなもんか。

「このあとなんだけど、宗教の会合があるんだけど、一緒に出ないか? 特に何かしろってわけじゃない。ただ座って話を聞いているだけでいいから」

 ハメられた。

 書類なんて、郵送でいいのに、わざわざ自分のところまで来いといったのは、こういう理由だったのか。断るとしても、社長に車出してもらわなければ帰れない。派遣会社との関係がこじれるのもアレだし、話のタネに、ちょっとだけ聞いてみようかなと。

『工場』の隣にある、社長の自宅の大広間に通された。こっちはこっちで、線香臭っ! 大広間には仏壇があり、信者と思しき人が集まっていた。多くが年配の方だ。若い人もひとりいたが、恐らく親に行けと命ぜられたのであろう、非常に嫌そうな顔をしていた。

「それじゃみんな揃ったし、そろそろ始めましょうか」

 佐藤社長が音頭をとる。ここの地区のリーダーみたいなものだろうか。まずは、お経を唱えだした。もちろん私には、全然わけわからない。続いて、宗教の教義的なものの『お勉強』が始まった。そんなもん、全く興味がない。

「それでは、『信仰体験』と行きましょうか。まず、私から」

 佐藤社長が語りだした。

「うちの会社、ここのところ、売上が落ちていたのですが、熱心にお経を唱えていたところ、すばらしい従業員の子を紹介してもらい、売上が上がったのです」

 いきなり、私のことを紹介される。一同、どよめきが起こる。「功徳よ~」「信心のたまものだ」と言い出す人もいるが、だがちょっと待て! 売上が上がったのも、私と、私を紹介したタカナシ社長、そしてこの、魔法少女スーツのおかげじゃないか! 何が功徳だ、信心だ! 

 むかっ腹を立てた私は、もちろんほかの人の言葉など耳に入らない。ただただ、腹が立つだけである。

 会合が終わり、社長の車で送って言ってもらう。本当は、もうコイツと話したくはないのだが、それ以外帰る手立てがないので仕方なく。帰り道でも、「なんとかがなんとかで……」と、わけのわからない話ばかりだ。

「うちの団体に入ると、こんないいことだらけなんだ。わかるか? 君も試しに、信心してみないか?」

 今までずっと、このおやじどうしてやろうかと思っていたが、ふと、いい案が思いついた。

「いや、社長の話、全然わからないですよ。ましてや私、W第の文学部を出てるんですよ。この私に分からないってことは、ほかの人に分かるわけないじゃないですか!」

 佐藤社長は、ちょっと不機嫌そうな顔をした。よし、もうひと押しだ。

「それに社長は、販売のプロじゃないですか。販売と宗教の勧誘は、同じですよね」

 あともう一丁。

「アナタ、勧誘が下手くそなんですよ!」

 佐藤社長は笑い出して、

「いや~君は竹を割ったような性格だね 正直でいいよ!」

 社長は笑っていたが、よく見ると、顔が引きつっていた。

 その後、あれだけ楽しそうに宗教の話を振っていた佐藤社長が、急に静かになった。凹まされて落ち込んでるのかな?

 私の自宅近くにつき、車を降りる。

「いや~君は販売がうまいだけでなく、面白いねぇ~また何かあったら頼むよ!よよろしく~」

 ちょっと、やりすぎたかな。今回の件があったから、今後、仕事で呼ばれても、気まずくなってしまう。


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