表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラサー魔法少女、派遣します!  作者: ふたぐちぴょん
第3案件『駅構内催事販売』
10/21

催事販売って、なに?

 前の仕事が終わったっきり、仕事の案件が全然来ない……仕方ない、ネットゲームで時間を潰すか。バイトで稼いだ額が、随分溜まってきたので、課金アイテムも買えるし。おっといかんいかん。ゲームも程々にしておかないと、また前の生活に逆戻りだ。

 そんな生活になって1ヶ月くらい経ったところ、事務所から電話がかかってきた。

「おう!お久しぶり!元気してた? ゲームもいいけど、程ほどにな!」

 あんたが仕事の案件をくれないから、ゲームに逃避してたんじゃないか……

「実は、俺が前働いていた会社で、女性スタッフが欲しいって言ってな。仕事内容は、『駅構内催事販売』なんだけど……」

 催事販売? それって何?

「この場合、鉄道会社と契約して、駅の一角にブースを出させてもらって販売する、それで、売上の中からパーセンテージで『家賃』を払うという、そういうシステムだ。」

「で、どんなものを販売しているんですか?」

「いわゆる『乾き物』魚介乾燥製品、そうだなぁ……焼きアジやさきいか関係、あと豆菓子、ドライフルーツなどだな。ただ、え~っと……」

 タカナシ社長が、なにか答えづらそうにしている。

「何かあるんですか?」

「その……そこの社長がな……」

「何ですか!? 気になるじゃないですか!」

「ちょっと、癖のある人物なので、覚悟しておいてほしいってことだ」

「癖のあるって、どういうふうに?」

「う~ん。現段階では、働いていればわかるとしか言えないなぁ。まあ、変な上司のもとで働くのも、いい経験になる。やってくれるね?」

 今回もいつもと同様、ノリでゴリ押しされてしまった。

「時間は、午後6時から10時半くらいまでの、4時間半程度だ。あとで詳細メール出しておくから。よろしく~」

 そう言って、一方的に電話を切られてしまった。まあ、仕事自体は、魔法少女スーツの効果は実証済みだし、なんとか出来そうだけど、その『社長』とやらがなぁ……果たして、どうなることやら。


 メールに書いてあったとおり、最初の勤務地は、自宅から近いターミナル駅とのことだ。1つの駅に1週間程度滞在し、それから、次の駅に向かう。今回の仕事は、3現場分やってほしいとのこと。社長がどんな人物かしらないけど、まあやってみますか。

 ここ数日、肌寒い天気が続いたが、今日はだいぶ暖かくなって、魔法少女スーツも着心地がいい。相変わらず、露出が多いのが気になるが。

 駅に着いたら、待ち合わせ場所を探せとのことだった。あれかな? 待ち合わせ場所の近くにある、おつまみがいっぱい並んでいて、『5袋で1800円』という看板があるのが。近くまで行ったら、やっぱりそれらしい。店では、ホスト風の青年、おばさん、それと、そうだなぁ、パンダそっくりの、正確に言えば、都心の動物園に近い駅の、待ち合わせ場所にあるぬいぐるみ、そんな感じのおじさんが働いていた。

「初めまして。ことりキャスティングから参りました、守屋と申します!」

「おお、君か~よく来てくれたね~」

 パンダ風のおじさんが言う。この人が、例の社長とやらなのだろうか?

「それじゃ、山田さん、上がっていいよ~」

 社長と思しきおじさんが、おばさん――山田さんというらしい――に言う。山田さんは、

「君が今日から入ってくれるんだね。どうもね。よろしくね」

 そう言うと、帰り支度を始めた。どうやら山田さんは『早番』で、私が来たら帰ることになっているらしい。

「俺が社長の佐藤、で、そこの男の子が、現場担当をやってくれている、山路くん。お~い山ちゃ~ん、教えてやってくれ~!」

 ホスト風青年――私と同世代くらいか――山路さんは、

「あ、はじめましてよろしくお願いします。」

 展示台の裏に行くように促される。目の前には、いまどきどこの会社が使っているのか、というような、古びたレジがある。

「うちは1080円均一なので、数字を入れる必要はないです。ただ、ここを押して頂ければ。じゃあ次、呼び込み行ってみましょうか」

 山路さんが、ささっと呼び込み例を書いてくれる。

「まずは、この通り読んでみてください。なるべく大きな声で、なんですけど、あ+んまり大きすぎると、駅からクレームが来てしまうので、程ほどに調節してください。それじゃ、言ってみましょうか」

 呼び込み令を片手に、早速やってみようと思ったが、ふと思い出した。

「あ、ちょっと済みません。一旦、外に出てきていいですか? すぐ戻ってきます」

 山路さんは「どうぞ」と言って、私は一旦外に出ることにした。スキルをインストールしてなかった。

 表に出ると、特大ビジョンで、女の子3人組が踊っていた。その脇で、

「販売員スキル・インストール!」

 これで大丈夫だ、多分。

  戻ってくると、早速、呼び込み例、先日働いたコールセンター風に言うところの『トークスクリプト』を片手に、呼び込みしてみることにした。

「ただいま、こちらでおつまみの展示会を行っております~!工場直売! 作りたてのおつまみ、120種類展示しております~!お時間のある方、ぜひお立ち寄りください~!」

 ここでいくつかの疑問が沸き起こった。『工場直売』というが、本当にこれだけの種類のものを、いっぺんに作れる工場なんてあるのだろうか? 大企業ならまだしも、こんないかにも中小企業っぽいところで。それに、120種類というが、本当にそれだけの種類あるのだろうか? それなりに品数豊富ではあるが、120というのは、いくらなんでも水増しだろう。

 そう考えているうちに、人だかりができてくる。これも、スーツの力なのだろうか? それとも、若い? 女性が売り子やっているのが珍しいのだろうか? こういった業界では、おじちゃんおばちゃんが中心、というイメージがあるし。そういえば、山路さんのようなタイプも珍しいかな。

「守屋さ~ん、ちょっと来てくれるかな~?」

 パンダ親父……佐藤社長が呼ぶので、呼び込みを山路さんに代わってもらい、社長のところに行く。

「これから、試食の食べさせ方を教えるから、ちょっと見ててな。」

 ちょっと離れたところで、社長の様子を見ることにする。

「これが、うちで焼いた焼あじ。刺身のあじを焼いてますからね、冷凍ものじゃないですよ。そしてこれが、お菓子の品評会でグランプリ賞をもらった豆。これが、昨日テレビでやってたいちごトマト。うちは製造元ですからね。ぜ~んぶうちで作ってるの」

 いろいろ突っ込み隊気持ち満載だったが、あえてそこは目をつぶることにする。

 山路さんの呼び込みもちょっと聞いてみたいと思い、耳を傾けることにする。

「ただいま!7時までのタイムサービス! 7袋で1080円で販売いたします~!」

 お、タイムサービスの時間なのか。ここは、呼び込みは彼に任せて、試食を食べさせてみることにする。断る人も中に入るが、かなりの確率で食べてもらっている。私の食べさせ方がうまいのか? それとも、これもスーツの力か?

 そろそろ7時。タイムサービス終わりか?

「只今より、7時半までのタイムサービス!」

 またタイムサービスかよ!

 結局、ずっとタイムサービスは繰り返され、9時を過ぎてからは、「閉店間際のサービス!」になっていった。

 10時になって、佐藤社長が、

「じゃ、そろそろ終わりにしましょう。俺は、車とってくるから。山ちゃん、彼女の面倒見てやってくれ」

 山路さんが、商品の入ったケースを台車に載せたり、展示台のライトを片付ける作業を始めたので、私も、少々手伝うことにする。

 荷物が一通りまとまったところで、駅の外まで運ぶ。

「守屋さん、1台づつ、ゆっくりでいいですからね。通行人にぶつけないようにしてくださいね」

 先程もちらっと聞いたが、通行人にぶつけてしまい、クレームになると、鉄道会社に始末書を書かなければならない。慎重にゆっくりと、運ぶことにする。 

 駅の外のガードレール沿いに、一旦荷物をまとめる。佐藤社長、まだ来てないようだ。

「あいつ、いっつも来るの遅いんですよね~悪いんですけど、11時ぐらいになっちゃう可能性がありますので、それまでやってもらえますか? もちろん、残業代はお支払いしますので。」

 私は、いいですよ、と答えた。しばらく、山路さんとふたりっきりで荷物番することになりそうなので、ここであえて、販売の時の疑問点を聞いてみることにした。

「工場直売って言ってますけど、本当にここの会社で全部作ってるんですか?」

「そんなわけ、ないじゃないですか! あくまでうちは、商品を仕入れて、パック詰めしているだけですよ! 前なんかも、お客さんに、『どうせ、詰めてるだけでしょ!?』と言われて、『そう、詰めてるだけ』って答えたんですよ。」

 山路さんの佐藤社長のモノマネが、妙にうけた。

「あと、ずっとタイムサービスやってましたが、あれは?」

「もともとは、ずっと『7袋で1080円』でやってたんですよ。いや、消費税改定前なので、『7袋で1050円』かな。でも、売上がだんだん落ちてきたので、看板には5袋って書いて、タイムサービスということにしておいて、お得感を出すようにしたんですよ」

 そっか、商売のコツも、いろいろあるもんだなぁ……

「あ、あいつ来た。おっせ~よ!」

 2トンのロングのトラックだろうか。運転席を見ると、確かに佐藤社長が見える。歩道沿いに、縦列駐車をしようとしているのだが、なかなかうまくいかない。こういう仕事をやっていると、なれているとは思うのだが、ぎこちない。ひょっとして、運転下手?

 やっと駐車ができたところで、佐藤社長が、運転席方出てきた。

「はい、ご苦労さん、ご苦労さん!」

 それから、山路さんが、手際よく荷物をトラックに詰める。初めての私は当分見ているだけで、それは仕方ないのだが、よく見ると、佐藤社長も、ほとんど何もやってない。これでいいのか……

 搬入作業は速やかに終わる。時計を見ると、10時45分だった。

「時間が伸びて、悪かったね。これで、ラーメンでも食べてくれ~」

 そういって、佐藤社長は、1000円札を差し出す。外食のラーメン食べる習慣はないのだが。まあ、安いとはいえ、ほとんど何もせずに残業代をもらえたのはラッキーだったかな。

「じゃ、明日また、よろしく~」

 そう言って佐藤社長は去っていったが、すぐに、スクランブル交差点のど真ん中で立ち往生している。ほんとにあのおっさん、運転が下手なのか……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ