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行かなきゃ良かったキラー

美人さんは全ての男を虜にしてしまいそうな妖艶な笑みを浮かべ、まるで男をゴミの様に手袋をして外へ放り投げた。(窓から)


このデパートは全部で十八階まであり、今現在いるここは上から三つ目......つまり十五階だ。


そんな高い所から人を落としたら、恐らく即死だろうが、如何せん。僕達は既に死んでいる。

落ちても、もの凄く痛いだけだろう。


それはそれで地獄の様だけど......。


「フハハ、一昨日来やがれ」


......今の地の底を這い回るどころかのたうちまわるような声は聞かなかったことにしよう。


店内にいる男達は悟った。

この(ヒト)に逆らってはいけない。


何処からか食器の落ちるカランと言う音が響いた。


ただ、女性は美人さんを寸分違わず全員が全員憧れの眼差しで見ていた。


......何の宗教ですか?これ。


「おーい、コト〜」


何も変わらぬ口調、でユキさんは美人さん(コトさん?)に話しかけていた。


え、ちょ、待って。

今の見ましたよね、何の躊躇も無く窓から男放り投げてましたよね!?


いくらユキさんが誰にも憎まれない人柄でも流石に危ない気が......!


「ん?あら、ユキじゃない。珍しいわね、このお店に来るなんて」


「新人さんの案内でちょっとねー」


へー、と美人さんは興味深そうな顔をした。

と言うか、普通に話せてる......。


和やかな雰囲気が流れて、さっきの殺気は何処へやら。

笑いながら談笑する二人の姿にだいぶ安心する。


怒らせたら駄目だろうけど、案外良い人なのかも。


「アキちゃーん、ちょっと来てー」


ユキさんが僕の方を向いてちょいちょい、と手招きする。

多分僕を美人さんに紹介する気なんだろう。


慌ててユキさん達の下に向かう。

僕の顔を見たとき、ふわりと美人さんが嬉しそうに顔を綻ばせた。


「は、始めまして。新人のアキと言います」


「Hello Aki.私はコティーミルよ。皆はコトって呼んでるわ、宜しくね」


にこりと微笑み、コトさんが差し出した手を掴む。

所謂握手だ。


「宜しくお願いしま......」


「っうぎゃぁああ!?おとっ、男ぉ!?」


......握手をして、宜しくお願いします。と言おうとしたら、手をもの凄い速さで振り払われ、一気に2mくらい離れられた。


何故(なにゆえ)


いやいやいや、さっきまであんなにニッコニコだったのに!

もしかして男性が苦手?

そもそも僕、男と認識されてなかった......!?


「あれ、アキちゃんって......男の子だったの?」


「正真正銘、男です!今までに一度たりとも女性になった事なんてありません!」


「いやぁああああ!!男ぉおおお!」


ユキさんまでもが僕を女性と思っていたらしく、心底驚かれた様な顔をされた。


その上コトさんは、腕をガリガリと掻き毟りながら綺麗な髪を振り乱して床を転げ回っていた。


そ、そんなに男が苦手なの......!?


「わっ、ちょ、コト!落ち着いて!」


「ぁぁぁああ............、ぅぐっ......」


コトさんがユキさん声に反応する様にピタリと動きが止まった。が、今度は(うずくま)り、口元に手を当ててくぐもった声を出した。


え、ちょ、コトさぁぁぁん!?


大丈夫ですか!?本当に!?


「こ、コト。落ち着いて。はい、深呼吸......吸ってー、吐いてー」


「ーーー.........ふっ、はー、ふー、はー......」


ユキさんがコトさんの背中を摩りながら深呼吸を促すと、コトさんは幾分か落ち着いたのか少しずつ深呼吸をして行った。


だいぶ落ち着いたらしく、むくりと起き上がりユキさんにお礼を言うと、僕に向き直った。


「アキ......ごめんなさいね。私......ちょっと男が苦手で......触られたら蕁麻疹(じんましん)が出ちゃうの......」


まだ感触が残っているのか手を擦りあわせながら僕に謝ってくれたコトさん。


恐らくそれが彼女の身体の異常なのだろう。


「いえ、大丈夫ですよ。僕も男だと知らせずに握手をしてしまって」


本当に悪いことをしてしまったと思う。


知らなかったとはいえ、女性に迂闊に触れるものでは無いだろう。


彼女もそんな体質で苦労しているだろうし、少し気の毒だと思った。


「っぷ、くくく、はははははは!」


お互いしょんぼりしていると、心の底から愉快そうに笑う声が店のドアから聞こえてきた。


そこに立っていたのは、昨日の危険人物。

もとい、スズメさんだ。


昨日はボサボサだった髪が梳かされたらしく、サラサラになっていて。黒いファーがついたロングコートを着ていた。


「あのコトがそんなにしょんぼりしてる所なんか初めて見たよ......!ホント、傑作......!」


笑いながら面白そうに言うスズメさんに少し嫌な感じがする。


誰だってそういう所くらいあるし、笑うのは良く無いと思う。


ムッとなって、反論しようとしたら突如横を通り過ぎた物体。

まさに刹那の如く。


......ん?


え、ちょ、何今の。


ガァンッと耳をつんざく様な音がしたと思うとカラカラと何かが転がる音。

そして、物体(多分イス)の下から見える両足。

どうしよう、振り向きたく無いんですけど。


静寂に包まれる空間。


あれ、イスの下から赤い液体が......。


「っスズメさぁああん!死んじゃ駄目ですからねぇええ!?」


僕は自分最速の速さでスズメさんに飛びつき、イスを退かす。


そこには、口と頭から血を垂れ流して気を失っているスズメさんの顔があった。


あ、これ死んだかも。





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