行ったところでハプニング
翌日ーー
「......痛い...」
フローリングの上で寝てしまった為か、体のあちこちが痛くて痛くて......。
うー......、と唸りながら起き上がり、トイレに行こうとしたら玄関の方からバンッと大きな音。あれ、デジャヴ。
またスズメさんか......?と思いながらそろりと玄関の方を見やると、黒くて長い髪をポニーテールにしている綺麗な女の人が立っていた。
その人はツカツカと寄って来て、僕の目の前にやって来てスッと手を出した。
「このマンションの大家を務める者だ」
と、言ってきた。
大家さん......いたんですんね......。
それもなんか凄い美人さんだし......。
「まあ......、宜しくお願いします」
昨日のこともありちょっと警戒して握手する。
「お前は新人だから知らんと思うが、この世界にも店はある。その為、そうだな......ユキ辺りに付き合ってもらってデパートに行け。家具も何もなかったら不便だろう」
早口で捲し立てられて目を白黒させそうになったが何とか、デパートに行くということは理解できた。
大家さんはそれだけを言いに来たのか、『じゃ』と言うや否やさっさと僕の部屋から出て行ってしまった。
ここは大家さんまで不思議さんらしいです......。
♦︎
「こっちには服とかが売ってあってねー」
只今絶賛デパートで買い物中です。
ユキさんはもう既に話を聞いていたのか、驚く様子も無く一緒にデパートに繰り出してくれたのだ。
だが、さっきからなんか視線とヒソヒソ話が痛いです。
僕とユキさんが通るところは何故かどのお客さんもパッと道を空ける。
ユキさんも特に気にした様子も無く、店の紹介をにこやかにしてくれる。
「あ、ここはマンションの住人の一人が働いているところで......」
ユキさんがオシャレなカフェを指差して説明をしようとすると、中から鋭い悲鳴に何かが割れる音、野太い男の怒声が聞こえてきた。
「おい!なんだこの店は!客にサービスの一つも出来ねぇのか!?」
そろりとユキさんと一緒に店内の様子を伺うと、所謂ビール腹の男の人が若い女の人の手首を掴み、怒鳴り散らしていた。
足元には割れたコップが散らばっていて、さっきの何かが割れる音はあのコップだったのだと伺える。
「あの......、何があったんですか?」
「え、ああ。あれですか......。地獄の住人だよ。どうやらあの女性にセクハラをしたらしくて、嫌がったらああやって怒鳴り始めたんだ」
偶々横にいた男性に聞いてみたところ実に馬鹿らしい話だ。
それ位でキレるなら、給料の少なさにキレろよ。
すると、とても綺麗な金髪のお姉さんが男に近づいていた。
「お客様、そういった行動は他のお客様のご迷惑になりますので......」
「っるせぇんだよ!女ごときが!店員はお客様を敬うモンだろうが!」
うっわ。分かり易い男女差別。
うわー。と思いながら見ているとユキさんがポツリと『あーあ......』と言っているのが聞こえた。
どうしたのかと聞こうとしたら、ダンッという鈍い音がした。
「がっ...!?」
男がとても綺麗な金髪のお姉さんに思いっきり足を払われて、ひっくり返ったところが見えた。
「......お客様ぁ?当店では、『あの世マンション リピート』の住人が働いているんです。
つまりは......あなたの様な救い用の無いバカを追い払う為に私は此処で働いてるんですよ?」
クスリ、と笑ったお姉さんの顔は綺麗な筈なのに鬼に見えました。