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2014年/短編まとめ

死ねない少女

作者: 文崎 美生

「電車が参ります。白線の内側までお下がりください」


駅のホームにはいつも通りのアナウンスが流れる。


人混みの中からふらりと飛び出る影。


その人影は糸が切れた人形のようにホームの下へ落ちようとして、その腕を強く引かれた。


あ、と蚊の鳴くような声は誰の耳にも届かない。


制服の裾が大きく翻りながら彼女は尻餅をついた。


「君!大丈夫?!」


若いスーツ姿の男が彼女の顔を覗き込む。


真っ黒な髪と瞳に白い肌、人形のような少女。


彼女の目線は男ではなく、自分が落ちそうになっていたホームの下へ向けられている。


そして「まただ」と呟く。


それからやっと男に視線を向けてゆっくりと立ち上がり、制服を払い鞄を持って頭を下げた。


「有難うございます、失礼します」


まるで業務連絡をするかのように淡々とした喋りに、男は目を丸くした。


何故なら男は、というより恐らくこの駅にいた大半の人間が彼女が誰かに背を押されて、ホームの下へ落ちそうになったと思っているからだ。


それくらいに彼女の動きは自然だった。


人混みの中で彼女は逆流しながら思う。


あぁ、また、死ねなかった、と。


死を望むことができるのは生きている人間の特権だと彼女は語る。


そして生を望むことができるのも生きている人間の特権である。


「だから私は望むのよ、死を」


沢山の自殺方法を試してみた。


死にたいから。


手っ取り早くてなるべく苦しくない方法を考えて、それらを試してみたけれど中々難しい。


先程のように邪魔が入るし。


まぁ、今回は人が多かった時点で問題ありか。


私の死体を大勢に晒すのもやっぱり嫌よね……。


伸ばしっぱなしの髪に指を通しながら考える。


どうしたら死ねるのか。


死にたいのに死ねない私は一体なんなのだろう。


そう、いつもいつも死にたいと思って行動に移すのに邪魔が入る、失敗して生きている。


タイミングが悪いのか良いのか。


少なくとも私からしたらタイミングは悪い。


全ての自殺方法が未遂に終わってしまった今、いっそ確実に死ぬ方法ではなく、自殺未遂を目指せば死ねるのではないかと思い始める。


死にたいと思って死ねないのならば、死なない程度にすれば死ぬのではという、なんとも安直な考えなのだが。


ふむ、と口元に手を当てながら歩いていると胸ポケットに入れた携帯が震えた。


バイブにしてたっけ、と思いながら画面を見ればよく知った名前が映し出されている。


「はぁい」


適当な返事をしながら耳に当てると、馬鹿みたいな大声を張り上げる相手。


音を拾いきれなかった上に処理し切れなかった音域が、マイクを割ってキーンと高い音を出す。


少しだけ耳から離して用件を問いかける。


今どこにいる、何をしている、と早口で問いかける相手はいつものことなので私としてはどうでもいい。


というか君も飽きないね、と言ってやりたいくらいだ。


「何処って……駅前の交差点だよ」


視線を辺りにさ迷わせると見知った人物がいた。


携帯を握り締めた相手は自分の存在に気付いていない。


つまらなそうな顔をしていた彼女がくすり、と笑みを漏らす。


歪なリズムを刻む足取りが車道へと向けられる。


向かってくる軽トラ目掛けて体を投げ込もうとした瞬間、携帯を握り締めた相手がこちらに気付き何かを叫ぶ。


同時に彼女の持つ携帯からも何か聞こえたが、ノイズだらけでよくわからなかった。


人形のような彼女はその顔に笑みを貼り付ける。


クラクションが高く響き渡った。


……ザワザワと人混みができ始める中、彼女はゆっくりと体を起こす。


そして自分の腰に巻き付いている人物を見下ろして、先程と同じ笑顔を見せた。


大量の汗を流した自殺を邪魔した相手は、通話をしていた相手で、携帯を握り締めていた相手である。


「なっ……にしてんのよ!!アンタは!!」


息を整えもしないで怒鳴った相手はやはり、馬鹿みたいな大声だ。


もう少しボリュームを落とせないのか、と思いながらも彼女は素直に自殺と答える。


その顔には悪気らしきものは一切見当たらない。


いつもいつも自分の自殺を止めようとする相手を見ながら、止めても止めなくても中々死ねないのにと思う。


必死に止めようとする友人を見ながら彼女はまた同じ言葉を繰り返す。


「あぁ、また、死ねなかった」

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