ぼっち
始めこそ圧を感じる式ではあったが、滞りなくそれも終了し割り当てられた教室の席につく。
1年B組。
それが昴が在籍することになったクラスだった。
席は決まってないらしく、とりあえず窓側の一番後ろに腰掛ける。
式の内容、特に校長の話は入学前に国から渡された書類に書いてあることばかりだった。
第六感のこと、人それぞれの個体値のことやパーティーのことなど。
ただ1つだけ書いてなかったことと言えば、退学=死だということだろうか。
理由は話されず昴自身も検討がつかなかったが、今更それを気にする身でもない。
「はーい!! では皆さんちゅうもーく。はじめましてー! 担任教師の小鳥ちゃんでーす!!! これから皆さんとは死ぬか卒業まで一緒だよ。よろしくねっ」
うざい。
昴は正直にそう思うと同時に鳥肌も立った。
殺伐とした、いわば殺戮兵器に為りうる人間を前にして、こんなにも人は陽気になれるのかと。
いや、おそらく担任自身すでに兵器になってるだろうが。
それからうるさくておまけに小さい担任は、寮がどうとかテストがどうとか喚いていたが、やがて昴にとって聞きなれない単語が出てきた。
「ではではお次はOCについて説明しますよー」
多機能チョーカー。通称OC。
これは人間の首につける電極型のデバイスで、政府公認の対スキル使用者戦争機器だ。
「まず、これをつけた人間は相手を視界に入れただけで名前、所属班、ランクなどの個人情報と、スキルを脳裏に写し出してくれるというハイパー機器なのです!!」
昴が興味を持ち始めていると、すぐさまクラス全体に聞こえる高い声で話始める小鳥。
尚も小鳥の話は続く。
「さらに学校の中だけですが、これから組む班の方々とアイコンタクトで会話が出来ちゃうんです!! 男子諸君は女の子にセクハラしちゃいけないゾー。えっと、詳しい内部構造はですね……」
「へぇ~」
昴は感嘆の声を上げた。決して疚しいことを想像して声が出たわけではなく、単純に科学の進歩に驚いただけだった。
脳に直接指令を行い且つ脳にダメージを与えない方法は絶対に不可能だと言われ続けていたからだ。
戦争などの争いごとが科学の力を躍進させるというものを、昴は身を持って思い知らされたのだ。
「以上で担任の小鳥ちゃんからの学校生活についてのお話しを終わりまーすっ。後はこれから配る資料に、これからの試験を共にする仲間割りとさらに深い学校のルールが載ってるから、詳しくはそれを見てねっ」
担任教師の言葉を聞き、無意識に入っていた肩の力を抜く昴。
「あっ、星谷くんは小鳥ちゃんの所に来てー!!」
「ふぁーあ!?」
欠伸をしていると呼ばれるのは昴本人の名前。まさか直接呼び出しを食らうとは、さっそくなにかしたのだろうかと不安に刈られる。
「えーと、星谷くんだけはさっきパーティーで説明したと思うけど、特別に他学年の先輩と組んでもらいまーす」
「えっ? ちょ、待ってください!! なんでオレなんすか意味わかんないんすけど」
重い腰を上げ、担任の所へ向かうと予想外のことに焦る。それはそうだろう。聞き流してはいたが、昴自身もこのクラスの誰かとパーティーを組むと思っていたのだから。
「そんなの小鳥ちゃんが知りたいよー。上のほうから星谷くんで、って要請が出たからしょうがない」
「上のほうって……。専門学校の上の機関は文部科学省なんですが」
「はいはいわかったから、あまり小鳥ちゃんを困らせんじゃねェよ」
「あがっ!?」
抗議するや否や突如として昴の頭に割れるようにな激痛が走る。これが小鳥の第六感なのだろうか。こんなものが蔓延る学校がここだというのか。
「というわけで、お前もう入らん。これ見てセンパイ方のところ行け」
「ちょっと、待ってください、よ……。オレはこのクラス在籍してるんじゃ……」
「あーもううぜぇ。衝撃革命!!」
「うぐっ!!?」
目に見えない鈍く重い衝撃が、昴の身体を貫く。これがスキルなのだろう。
痛い。苦しい。重い。
「先生の言うことは聞けって小学校で習わなかったのか? まぁいい。ほら、さっさといけ。それとこれはお前用に作った書類だ。目通しておくんだな」
激痛は収まり、低い声と共に渡されたのはなにやら分厚い紙の束。倒れたまま昴はそれを受けとる。
そのまま昴は数秒どうしたらいいのかわからずに呆然と倒れていたが、やがて担任の雲行きがまた怪しくなってきたのがわかり、荷物を持ってもう二度と来ることのない教室を後にした。