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冬に咲く花  作者: しろはね
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リィラⅡ

 こんな身体じゃなければいいのに、と思う。こんな身体じゃなければ、北の国に行って雪の神様が降らせる雪を見ることができるのに。

小さいころにかかった病は徐々にリィラの体を蝕んでいる。前は普通に外を駆け回ることができたのに、最近はベッドから動くことができない。薬のおかげで痛みはほとんどないが、薬を飲み忘れると胸が焼けるように痛みだす。医者もお手上げで、ある時を境に直接リィラに会うことはなくなった。今日のようにアリスに薬を渡すだけで帰っていく。

 ふうっとため息をついた。どうして医者が診察に来なくなったのか。どうして医者が来た日にはアリスが死んでしまいそうなくらいに悲しそうな顔をするのか。その理由は明白だった。

「もうすぐ、わたしは死ぬんだよ……」

 窓の外にいた二羽の小鳥たちはリィラの言葉を理解したのか彼女を慰めるように窓辺に止まった。ぴるるる、となく小鳥たちを見ると少しだけ笑顔になれた。

「原因不明の病気なんだって。いつ死ぬとかはわからないんだけど、でも死んじゃうの」

 手を差し伸べると、小鳥たちはリィラの手のひらに飛び乗って、ぴぃとないた。

「君たちは、北の国に行ったことあるの? 雪の神様に会ったことがある? 」

 二匹の小鳥はリィラの手のひらの上で首をかしげた。その様子がかわいらしくて、リィラはくすっと笑った。

「リィラ、入るよ」

 突然ユラが部屋の中に入ってきた。ドアの開く音に驚いて二匹の小鳥は外へ飛び出していった。

 リィラの目がぱぁっと明るくなった。ユラは静かな笑顔を浮かべてリィラのベッドのそばに歩み寄り、アリスの座っていた椅子に座った。

「おばあちゃん! 今日も雪の神様のお話して!」

 ユラは茶色い瞳をリィラに向けた。その様子はいつも物語をしてくれる時とはかなり違った様子だった。いつもならはいはい、わかったよ、と言って陽気に語ってくれるのに。おばあちゃんもお母さんと同じようにお医者様に言われたことで悲しんでいるのかな。リィラはユラのその見たこともない様子に不安になった。

ユラは、窓の外の、どこか遠いところを見ていった。

「そうだね……。じゃあ今日はわたしが若かったころのお話をしようか」

 窓から入ってきた風がユラの白髪をさらさらと揺らした。リィラはユラをじっと見つめた。

 

 わたしが昔、北の国に住んでいたことはしっているかい? そこでわたしは雪の神様を祀る神殿で巫女をしていたんだよ。神殿はね、神様が住む大きな家みたいなものさ。巫女はわたし以外に三人いてね。一緒に雪の神様にお仕えしていたのさ。雪の神様に祈りをささげて、お供え物をして、お告げを聞いて。雪の神様はたくさん雪が降る前に必ず気を付けろって教えてくれたものだよ。直接会ったことはないんだけどね。どうやってお告げを聞いたかって? 祈ってるとき、声が頭の中に響いてくるんだよ。そうやって、わたしたちは雪の神様に大雪や雪崩から助てもらっていたんだ。でもね、月日が経つにつれてだんだんとみんな神様を信じなくなっていったのさ。神様がいることを忘れてしまったんだ。私が巫女になった時から薄々感じていたんだけどね。わたしはそれからすぐ旅をしていたトト村の青年と恋に落ち、巫女をやめてここに来たからその後の詳しいことは知らない。でもほかの巫女もやめてしまって、神殿は荒れ果ててしまったという話だよ。


「雪の神様、ひとりぼっちになっちゃったの?」

 リィラは古びた大きな建物の中で一人佇む雪の神様を想像して心が痛んだ。ずっと一人でいるのはどんなにつらくて寂しいことだろう。

「そうだね……。でもきっと北風の精霊達やほかの神様が遊びに来ていると信じているよ。それに知ってるかい? 雪の神様はたくさんの兄弟たちがいるんだよ。兄弟たちと集まって笑ったりしているはずさ」

 ユラからはさっきのような愁いた様子は消え、いつもの明るい調子に戻っていた。あれは自分の昔に思いをはせていただけなんだ。リィラもうれしくなってきて、ぱんっと手をたたいた。先ほどの不安はもうどこにもない。

「じゃあわたしも雪の神様のお友達になる! わたしも雪の神様と一緒に遊びたい! 」

「信じているだけでもう神様とは友達なんだよ。だからリィラはもう雪の神様と友達なんだよ」

 ユラはリィラの頭をなでながらそう言った。

リィラはドキドキしていた。わたしはもう雪の神様とお友達。そう考えるだけで興奮する。なんて素敵な響きだろう。一緒に遊ぶ自分と雪の神様を想像してリィラはうっとりとした気分になった。

「さあさ、今日のお話はここまで。早くご飯を食べないと冷めてしまうよ。薬もちゃあんとのまないとね。」

リィラの頭をぽんぽんと叩いてから、ユラは部屋を出ていった。

テーブルに置かれたおかゆとスープはすでに冷めてしまっていた。リィラは少しだけ塩味のするおかゆを口に運んだ。いつもと変わらないおかゆのはずなのに、今までの中で一番おいしいと感じたのが不思議だった。


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