リィラⅠ
北の国ではね、冬になると雪の神様がやってくるんだよ。雪の神様がふぅって息を吐き出すと、北風の精霊たちが笑いながら国中を駆け回って北風を吹かせるんだ。気温がうんと下がったら、雪の神様はくるくるくるっと踊りだす。すると、空から雪が降り始めるんだ。そりゃ、もう、この世のものじゃないくらいに美しい雪の華がね。雪の神様がいなくても雪は降るけど、その雪は本物じゃない。ただの氷の粉さ。雪の神様の降らせる雪には命が宿ってる。だからどんな宝石よりも、美しいんだよ。
「雪、一度でいいからみてみたいなぁ……」
空から降る、白くて、美しい粉。ありったけの想像力を働かせながら、リィラはベッドの中で目を閉じた。病気になってから、彼女の祖母、ユラはいつも遠く離れた北の国の物語を語ってくれた。彼女には雪というものがどんなものなのかわからなかったが、物語に出てきたものを見たいというという憧れは強かった。
その時、とんとん、と部屋の扉をたたく音がした。
「おばあちゃんかな」
おばあちゃんだといいな、また雪の神様のお話が聞きたいな。そんなことを思いながら、リィラは重い体をゆっくりとベッドから起こした。
「リィラ、具合はどう?」
おかゆと温かいスープ、それから薬をもって入ってきたのはユラではなく母のアリスだった。リィラはユラではなくて少し残念だったが、それを顔に出すとアリスを心配させてしまうことになるだろう。彼女は努めて笑顔を作った。
「大丈夫だよ、おかあさん。ごはんありがとう」
アリスはベッドの横にある小さな木のテーブルに料理を置き、近くの椅子に座った。黒い瞳がわずかに潤んでいる。よく見ると瞼は腫れ、頬には涙の跡が残っていた。
「いいのよ。たくさん食べて、元気にならないとね」
震える声で、アリスは言った。それから彼女はリィラの頭をなでてから部屋を出ていった。
普通は、病気の娘に向けてそのような悲しそうな顔を向けないものだと思う。アリスは嘘をつくのは苦手だった。
「今日も、お医者様が来たんだ……」
薬の瓶が新しくなっているし、何よりアリスが泣いている。それだけで、推測するには十分だった。
リィラは窓を開けて外を見た。吹き込んできたやさしい風が、リィラの長い黒髪をなでていく。ぐぅっと背伸びをした。鳥の歌声、木々のささやきが、彼女にとっての唯一の安らぎだった。リィラの住むトト村は、リンデバーク王国という南にある国に属している。そのため冬も春のように暖かく、もちろん雪など降らないのだ。
読んでくださってありがとうございます。初の作品なのでまだまだ未熟ですが続きもよろしくお願いします。