俺とオレオレ詐欺な超展開的終幕
ついに終幕
「グッバイ神様。じゃあな、俺――」
そして、また新たな俺がここにいる。
散っていった「さっきの俺」の言葉に、神野郎からはコミカルな空気が消えている。
前の俺よ。面倒くさいからって
「詳しいことは次の俺に聞け」はなかろうよ。同じ立場なら俺でもそうしたけどさ。
「ワッシを滅する、ねえ。どうやってかな?そして何故かね?単に思い通りの転生ができなかったから、なんてつまらん理由ではなかろうよ」
それは神野郎にも予想外だったらしい
その証拠に、奴は本当にうれしそうだった。。
俺の心を読めばすぐにわかるんだろうが、こいつは楽しむためにあえてしないのだ。
だから、気に食わないことにこいつが楽しそうだということは、俺が言い出したことが予測できておらず、そして楽しみだからだろう。
「何かワッシを殺す手段でも思いついたかね?」
「ああ。思いついたっていえばそうだな。だけどま、どういう方法かはわからん。そりゃ結果次第だ」
「よくわからんな。そろそろ具体的に言ってみれ」
「わかった。……今回の俺は、お前を滅する能力を与えてくれ。そして、お前の『力』もだ」
「後半の意味もよくわからんが・・・・・・そんな能力、ワッシがお前に与えてやるとでも?」
「ああ、与えるとも」
俺の迷いなく答えた態度に、神野郎は一度きょとん、としたあと、再び実に楽しそうに笑い、
「くっくく……ワッシがお前に、なあ。その理由は?なんでワッシはお前にそんな能力をくれてやるんだ?」
「決まっている。それが、お前の望みだからだ」
俺の言葉に、奴は固まった。
そして、禁忌に触れた俺を、射殺すように奴は俺をじっと見ている。
おいおい、こんな言葉でそんなに反応するなよ。
まだ、俺はジョーカを晒しちゃいないんだぞ。
「へぇ……ずいぶんと自信たっぷりじゃないか。仮にそれが正しいとして、なぜその解を真とした?何を根拠にそう確信したか、教えてくれんか?」
わかるさ。わからないわけがない。
たとえお前と近しい人間がどれだけ長い年月を過ごしたとしても気づけないことでも、『俺』ならわかる。
「当たり前だろ。他ならない自分自身のことだからだ。……そうだろ?オレ」
そして、俺の切った札を見て、神野郎――俺は、狂ったように声をあげて笑った。
「あひゃはははは!きゃーきゃっくきゃきゃ!」
「つーかお前、昔俺に対して向けた自愛の目って、慈愛と間違えたんじゃなくて自愛で言ってやがったんだなこのメタ神野郎が!」
「カカカカカ!カーハッハッハヒーヒヒヒ!本当に面白い!面白かったぞ、オレよ!そうだ!そのとおりだ!いつから気づいたんだ?オレよ!」
「なんとなく気づいたのは割と最初から。確信に至ったっていうレベルだと割と最近、ここ数十回ってところだな。「俺」という存在が「お前」っていう存在を脳みそが許容したのは」
何千、何万回と繰り返す中、「俺」は様々な世界で様々な世界の理に触れた。人じゃない存在でなければ理解できないであろう概念や、その世界でなければ認識すらできないことへの認識。
魔力を使う魔法というものを理解しようとすれば、まず魔力というものが世界に存在しなければ理解なんてできやしない。そしてきっと、それは地球で生まれ育った「俺」には絶対に理解ができない。
たとえば、生まれながら色盲の人に、視力を与えぬまま「赤」を理解させることができるだろうか。
たとえば、音の聞こえない人に、聴力を持たせぬまま優しい子守唄の旋律を理解させることができるだろうか。
不可能だ。
これこれこういうものだと説明はできても、それを真に理解させることなどできやしない。
色がわからない人は「赤」を情熱的な音楽のようなものだと理解するかもしれない。
音の聞こえない人は、子守唄を温かい肌色のようなものとイメージするかもしれない。
それだけだ。
決して、それそのものを認知することはできないのだ。
神野郎が当初言っていた、言語理解の話と同じことだ。
もし、視力、聴力を与えられないままに、神野郎のような存在に赤、子守唄を理解させられたとしたら。
その時点で、「俺」は「俺に似た何か」になってしまう。
だから、俺には神野郎を理解するのに、新しい概念のある世界をいくつもわたり歩き、そこで一生を終えるというプロセスが必要だった。
俺が俺として、継続し続けるために。
それを数万回と繰り返してなお、ようやく受け入れるだけの土壌が「俺」に作られた。
俺が「俺」のまま、神野郎の領域にたどり着くだけの土壌が。
「ここは、可能性の世界。あらゆる並行世界にいる『俺でないオレたち』をつなぐ、根源の世界。エルフの俺も、漫画の能力を持った俺も、すべて存在したかもしれない俺自身だ。だからありとあらゆる世界が存在し、そして「全く同じ世界」には二度と絶対に介入できない」
厳密に言えば、すべてがまったく同じ世界だとしても、それはすべてがまったく同じな『だけ』の『別』世界なのだ。
「そうだ。ようやく、ようやくか!まさか本当にたどり着けるオレがいたとは!なら、ワッシ……オレがどんなオレか、わかってるんだよな」
「お前は、そんな無数の世界の中で、『神』とも比喩できるような力をもっちまった、『オレ』だ。この根源の、すべてのつながりの場所にたどり着いて、あらゆるオレを見出すことができる。そんな厄介な存在に成り果てたオレ。滅びたくても滅べない、そして存在することにも飽きはじめたオレ。違うか?」
いろんな世界があった。
神とやらが実在する世界があった。
魔法があった。
仙術があった。
XXXXXXがあった。
あかhねkfかぱふぉかがあった。
その中で得たスキルや概念を蓄積して蓄積して、ようやく理解できた「それ」。
こいつの考えてることをこいつにばれないように読み取って、なお自分が壊れないスベを手に入れてこその「それ」の理解だ。
「ひゃーははっはははっはは!おいおいマジかよ!もしかしたらとは思ったけど本当にいたか!」
「おまえも期待はしてたってことかよ神野郎。だけどま、俺がここにたどり着くってこともお前には予想外だったんじゃないか?」
「だなあ。『お前』以前の「オレ」は全員、普通にチートしたり能力得たりして――無様につまらん人生を送ってたからな」
「なんで駄目だったんだ、その『オレ』は」
話を聞くかぎり、普通に俺と同じような気がするんだが。
すると『神のオレ』――やはりなんか気持ち悪いので神野郎と呼ぼう。
神野郎はそのときのことを思い出したのか、少し口元をまげて、
「いや、お前とたいした違いはねえよ?ただなあ……あいつらそれで思い通りにならないことがあったら、ソレだけを理由にこれはダメな人生だと言って何度もやり直しててなあ。あとは救えなかった恋人を救うんだとか言ってなんどもループっぽい展開を望んだりなあ。別に悪いってんじゃねえよ?そういう感覚も普通の『人間』のことだし。だけど世界を繰り返して恋人救ったとしても、それが並列世界である以上、結局救われなかった恋人は『前』の世界には存在してるってことに気づいたあたりで発狂したりなあ。……なんていうかよ、つまんなかったわな」
「そーかい」
思ったよりも確かに面白く無かった。
それは時間がテーマの作品によくある、主人公の
「たとえ不幸な結末だったとしても、私はそれまでのことをなかったことにできない」
とかいう思いが俺にもあるから……ではない。
俺は別の結末が本気で見たけりゃ容赦なく書き換えるだろう。
書き換えたところで決して「なかったこと」にはならないと思っているからだ。
ああ、あれだ。ゲームのセーブロードみたいなものだ。
バッドエンド迎えて、直前の選択肢にロードしてやり直し、ハッピーエンドを迎えたとしよう。
確かにその世界は書き換えられてめでたしめでたしだとしても。
例えすべてのセーブデータを消して、初期化して、そのうえで全て正解を選んでのハッピーエンドでも。
プレイヤーが一度バッドエンディングを迎えてやり直した、という『歴史』は決して消えないからだ。
ただ、そうしたことを踏まえたうえでも、俺は「やり直し」はつまらんからやらない。必死に生きるチャンスすら無く、生まれた瞬間即死、とか虚無ま!みたいに「生きる」という行為が発生しない世界でもなければ、そんな面白くもないやり直しなんてしたくもない。
良いとか悪いとか、そういうことではなく、単につまらないからやらないのだ。
人生1コインノーコンテニュー。
それが俺のモットーである。
そういう意味じゃ、最初にループやくり返しを嫌って、それでも『俺』を継続させようとした『初代』には、敬意を評しよう。まあ俺だけど。
「しかしよ、オレよ。オレが……わけがわからんな。やっぱりワッシに戻すぞ。ワッシが滅した後、お前がどうなるかもわかってんだろ?」
「ああ、俺がここの座にあり続け、そして世界を管理するんだろ。じゃなきゃ『オレたち』の世界が崩壊する。それは『俺』の望みじゃない。だからお前は自分で自分を滅することができなかった。……だから、俺がそれを変わってやるっていってんだよ。いい加減休みたかったんだろ」
「そうだ。……しかし、それでいいのかお前。お前はワッシと同じように、滅びるに滅びられず、ここで淡々と永遠に世界を見守るだけになるぞ。お前が一番嫌がりそうなことじゃないか」
「安心しろ、俺はちゃんと滅びる予定でそれを受け継ぐ」
ふむ?と神野郎は頭……らしきものを傾けた。
あー、ようなっていうのは、こいつはであったときから今の今までずっと、人間の形なんぞしてないからだ。
口元とか笑顔とか表現したが、理解が追いついた今、こいつの新の姿はxxxxしえなdvl;、mllだ検閲に引っかかりかmkvかdな!だということがはっきり見える。
ちくしょう、これっぽっちもかわいくなんてない。
俺は、そんな神野郎を憎憎しげに見ながら、言葉を続ける。
「簡単なことだ。世界を管理せずとも崩壊の起こらないようにする力を手に入れればいい」
「おい、簡単にいうなオレよ。ワッシの力ですらできなかったんだぞ?そのワッシから力をもらうお前がどうやってだ。それに、おまえ自身、お前がお前という存在である以上、そんな力は手に入れられないと理解しちまってるだろうが」
なにをいってるのだこの神野郎は。
確かに、俺は理解しちまった。
俺にはぜったいにそこにはたどり着けないと。力を持ったがゆえ、どうしようもなく理解しちまった。
だから俺は、それを手に入れることはあきらめている。
「別に、手に入れるのは俺である必要はない」
「あん?じゃ誰よ」
俺は、そんなこと決まってるだろと、鼻でせせら笑ってやりながら、
「この無限の並行世界の中のどこかにきっといる、俺以上に諦めが悪くていろんな経験をしていろんな力を手に入れてこの状況をひっくり返してくれるであろう、非常識なオレが、だ」
「……いるとでも?」
「いるさ。なあに、心配スンナ。テンプレートはできてるんだ。俺がいままでしてきた体験はテンプレ展開をことごとく砕いたものだったけど……もう、俺の物語が完結する以上、それもまた新しい『テンプレート』だ。そしてどこかのだれか、つまり新しい『俺』が、そんなテンプレートをものともしない、全く新しい新しい物語を作ってくれる」
そうだ。
この物語はもうすぐ終わる。
だから、俺はこの神野郎と同じように、暇つぶしをしながら新たな『テンプレート』を作ってくれる俺を待ち続ける。
それが、俺の物語の終着点。
俺の言葉ににやり、と笑う神野郎。
まあ、俺じゃないときっとわからない笑顔だろうけどな。
「んじゃほれ、ワッシを滅する力とその他もろもろの力をほいほいほいー」
「うお、なんかきた。そしてさらに理解した。……というか軽いなお前」
「そりゃやっと得られる滅びだしなあ。うれしさしかねーよ」
滅ぼす俺も軽いから似たようなもんだけどな。
さて、別れる前の、最後のだべりと行こう。
そういうと、神野郎は「そだなー」とやはり軽くいいながら、
「しかしまた、なんでこんな難儀な世界が生まれて、こんなことすることになったんかなあ。長いこといたけど、さすがのワッシも、それだけはわからんかった」
「へえ、じゃあ俺はお前を最後の最後で超えられたんだな」
「お、いいね。最後に滅する前に、それだけは教えてくれんね」
ああ、と俺はにたりと笑って――
「そんなもの、|神様の暇つぶしのためにきまっている」
「うお!?あれ?なんで俺はこんなところに?」
さて、俺の目の前には、ニャルでホテプでいあいあっぽいうじゅるうじゅるな何かが、人間では決して発せられないような声でそんなことを言っている。
これもまた、俺の可能性の一つらしい。
一発目の記念は思いっきりファンキーなのを選びたかったからだが、ファンキーすぎたかもしれん。
最初から『当たり』が引けるとは思えないが、それでも記念すべき一人目だ。
いい感じに頑張って、そして俺を楽しませてくれることを期待したい。
さて、目の前の俺も混乱がピークになり始めているようだ。
では、さっそく行くとしよう
「な、なんなんだあんたは?」
「ああ。そんなに警戒するなよ。俺は……」
ふむ、そこまで言いかけて、考えた。
もう、俺の物語は終わりなのだ。
これからの主人公たちは、「彼ら」である。
ならば、「俺」は目の前の「オレ」と「今後のオレ達」に受け渡すとしよう。
「俺――っち……、そうだな、俺っちは、お前らの言うところの、神様みたいなもんさ」
「はぁぁぁぁ!?」
こうして――新しいテンプレートは作られる
はてさて、この俺は、いったいどんな物語を見せてくれるやら。
ちーと転生うっひょーとか叫んでるふんぐるいふたぐんなオレを見送ったら、向こうの世界での奴の行動を見守ろう
さて、とりあえず、俺の物語はこれにてすべて閉幕だ。
では――最後の占めめくりをするとしよう。
オレは、これを見ている「お前ら」に手を振って――
「じゃあな、神様。グッバイ、俺――」
これにて完結。
また世界のどこかで、新しいテンプレートが生まれることに、祝福あれ




