皆と皆の気持ちと決意と
「思い出なんて大きなものはないよ。一緒にいた時間は少なかった。でも悠里を知るには十分な時間。悠里は好奇心旺盛で、たとえ心が闇に染まろうともどこかに光がある…そんなかんじだった」
「光…。兄ちゃんが?」
「そ。いつも笑ってたしすごくおしゃべりだったな」
兄ちゃんに光があるかはわかんないけどおしゃべりっていうのはあってる!!
「それは合ってるよ!!兄ちゃんはおしゃべり!」
だんだんと声が大きくなる。
「なんかいつもしゃべってた。僕の名前つけたのも悠里だし」
「へ〜!!…ウミってやっぱ水の海なのかな?」
「うん。僕が海好きだって言ってたからだと思う」
「ふ〜ん…。単純!」
兄ちゃんらしいや。
「でも僕はすごく嬉しかった」
ウミは何か思い出してるように見えた。
「だけど思い出なら弟である悠太のほうがたくさんあるんじゃないのか?」
ウミがこっちを向いた。
「まぁ…。だけど最近の僕と悠里波喧嘩ばかりだったから…」
僕は思い出してしまった。
兄ちゃんに最後に言った言葉。
最近仲良くしてたことあったかな?
最近って言っても兄ちゃんがいなくなる前だから一ヶ月くらい前か…。
「喧嘩…。僕と悠里は喧嘩はしなかった」
ウミがポツリという。
「…僕は喧嘩ばかりだった。あの頃の兄ちゃんはいつもイライラしてて…。正直に言うと僕はそんな兄ちゃんがうっとおしかった」
「おかげで僕はそんな闇の強くなってる悠里に付け入ることができた…というわけか」
ウミがニヤリと笑った。
さっきと違う邪悪な笑顔。
でも次の瞬間にウミは寂しそうな顔をした。
「僕が悠里の世界を奪った」
その言葉は重くて。
ウミは後悔してるみたいだった。
少し沈黙が続いた。
やがてウミが口を開いた。
「悠太は僕を恨んでるだろ?」
その言葉を放った時のウミの顔。
それはそれはゆがんだ笑顔。
でも悲しそうな笑顔。
罪人の笑顔。
「変なの…。ウミ僕に恨まれたいみたい。そんな風にきこえるよ?」
ウミは一瞬僕の言葉に驚いてるみたいだった。
「恨まれたい…?違う。お前から悠里を奪ったのは僕だ。悠里の闇に付け入り悠里を奪った。そして悠里から世界を奪った。どう考えても僕はうらまれるじゃないか」
「…恨まないよ。恨めない」
なんかため息がでてきた。
いろいろ思い出す。
「恨めない?」
ウミが不思議そうな顔する。
「僕はね、悠里にひどいこと言った。悠里がいなくなった直後もね。僕は清々したって言ってたんだよ。悠里の闇にウミが付け入ったっていうなら僕は悠里に闇を与えたんだよ」
少し涙がでてきた。
「そうか…」
ウミの顔は僕を同情してるみたいだった。
「それくらい平気だよ」
その声の主は怜だった。
「怜!」
おきてたんだ!
と僕は驚いた。
それに対してウミはさらりと
「やっぱりおきてたか」
と一言。
気付いてたのか!!
「つい口はさめたくなっちゃって。寝てるふるしてたんだけどさ。とにかく平気だよ。まだ取り返しつくから。悠太とウミはさ…」
多分怜は自分が一番最低なんだと思ってる。
一番罪深いって。
「…それでも一度してしまったことは取り返しつかない」
ウミがつぶやくように言った。
「そうだな…」
怜も共感する。
僕は不思議に思った。
この世に罪悪感のない人なんているのかな?
「ねぇ…この世に罪悪感をもったことない人っているのかな?」
僕の問いかけに二人は反応する。
「…どうだろ」
怜が考え込む。
「いないんじゃないかな?」
ウミが寂しそうに笑う。
「だな…」
怜もそれに共感する。
そうだよ。
この世に罪悪感を感じたことのない人なんかいない。
この世は罪であふれてる。
その大きさは違うかもしれないけど。
あぁ…それを考えると世界はなんて罪深いんだろう。
罪であふれてるだなんて。