「和解」
「母さんに聞いた。そしたら母さんは俺に言った。あの子は悪魔の子。恐ろしい力をもってる。あの子はいずれ私達を破滅においこむって。意味はなんとなくわかった。それを母は毎日それから俺に聞かせていた。マインドコントロールっていうのかな?その時俺が3歳。狂った魔術師は5歳だった。一ヶ月に一度くらいは狂った魔術師と会ってた。母さんと一緒に。いつも俺らが来ると嬉しそうな顔してた。だけど俺はそんな狂った魔術師をみて油断させてここから出してもらう気だとかそんなことしか思えなかった。その時の俺の世界は母と狂った魔術師だけで…。特に母親がほとんどを占めていた。俺にすごく優しい母さん。そんな母さんの言うことは絶対に正しいって思ってた。あの頃は」
「…」
俺(焔)はなんとなくわかってきた。
この話の結末を。
「それからさらに一年たって…狂った魔術師が6歳、俺は4歳のときだった。ある日突然唐突に狂った魔術師は母さんに言ったらしいんだ。いつここからだしてもらえるの?って。それを聞いた母さんはひどくおびえていた。あの子をこのまま監禁しておけない。いずれあの子はここを抜け出す。その時あの子はきっと私達を殺しにくるって。なんでかわかんなかった。なんで?ってきいたらあの子は私達を恨んでるからって母さんは言っていた。その時俺にはもう魔術が使えた。狂った魔術師に比べればひどくちっぽけだったけど。俺には強大な力なんてなかったし。そんな俺に母さんは泣きながら頼んだ」
「…なにを?」
「狂った魔術師を殺せって。普段から」ずっときかされてた母さんの言葉が頭に響いた。あの子は悪魔の子。私達を破滅においこむ。…俺は狂った魔術師が怖かった。そしてとうとう取り返しの付かないことをしてしまった」
「…」
ああ…もうわかってしまった。
怜…お前はとんでもないことをしたな。
俺が黙っていると怜は少し笑んだ。
そして続けた。
「狂った魔術師を殺そうとした」
やっぱり!
ん?
殺そうとした?
「殺さなかったってこと?」
俺は聞いた。
少しの希望をこめて。
「殺さなかったんじゃない。殺せなかった。俺は猛獣を動けない狂った魔術師の前に召喚した。狂った魔術師はすごく悲しそうな顔…絶望した顔をした。俺はその時気付いた。俺はとてつもなく取り返しの付かないことを…悪い悪い事をしたんじゃないかって。俺を抱いて母さんはすぐに洞窟からでた。そして扉をしめたんだ。猛獣がほえた。そして静かになった…。母さんは洞窟の扉をあけた。自分と俺にシールドをはって。そこにいたのは自由になった狂った魔術師と倒れてる猛獣。母さんは絶叫した。ぎゃああああああ!って叫びながら俺をおいて洞窟から逃げて走っていった。俺は怖くて逃げれなくてへたりこんだ。狂った魔術師は母さんが逃げたほうをみていた。それをみて気付いたんだ。あっちは崖だって。俺は慌ててなんとか崖のほうへ行った。下には母さんが倒れていた。俺は母さんのとこへ行こうとした。そしたらすぐ後ろで狂った魔術師が言ったんだ。もう死んでるよって」
怜はそれから黙ってしまった。
続きを言いそうになかったから俺が聞いた。
「それで?」
「それで…俺…殺されるって思って腰をぬかしてしまった。『あ』とか『う』とかしか口からはでてこなかった。でも心の中では叫んでいた。助けてって。狂った魔術師は泣いていたと思う。俺は気を失ってしまって…。気付いたら狂った魔術師はいなかった。それから風のうわさで『狂った魔術師』っていう強い子どもがいるってうわさを聞いた。すぐに分かった。兄さんだって。だって魔術師なんて少なかったしそれに強くて子どもなんて兄さんしか当てはまらなかった。目の色と髪の色も一致してたし。目の色が違うっていうのもすごく珍しいし。兄さんは特別な存在だったんだ」
俺は怜の話を聞いた後何もいえなかった。
いろんな感情が渦巻いてる。
怒りとか憐れみとか複雑にからまりあってる。
感情があふれて体中があつい。
「どう?軽蔑した?嫌いになったろ?」
怜が笑う。
ゆがんだ笑み。
泣きそう。
いや、壊れそう。
どうしたらいいかわかんなくて。