糸
ガタン。
「ただいまー」
父さんが帰ってきた。
「お帰りなさい」
母さんが父さんに僕のことを話している。
僕にはわかる。
みんな僕に呆れてる。
母さんも父さんも弟も。
話し声がやんだ。
足音がきこえる。
近づいてくる。
トタトタトタ・・・。
「悠里。 入るぞ」
父さんだ。
「どーぞ・・・」
僕はベッドに寝転んでいた。
「座りなさい」
そういわれて僕はだるそうにのろのろと起き上がった。
「・・・何?」
どうしても態度悪くなっちゃうんだよなぁ・・・。
父さんたちの顔が少し険しくなった。
僕の態度が少し気にくわなかったらしい。
「お前は何か悪い事したとか何も思ってないのか?」
「・・・学校早退したこと?」
「ああ」
少し父さんの顔が緩んだ。
「それは早退じゃなくてサボったっていうんだよ」
弟の悠太が余計なことをいったので僕はカッとしてしまった。
「うるさいな! お前は黙ってろよ!!」
僕が怒鳴ると悠太が僕をものすごい目で睨んできた。
「最近兄ちゃんいっつもイライラしててこっちも不愉快なんだよ!!! そんなんだと嫌われるよ!」
その時の僕にとってそれは禁句だった。
僕は拳をふりあげて思いっきり悠太の頭に下ろした。
ゴツンッ!
「殴ったーーー!!! でてけ!!! 消えろ! ばーか!」
悠太が真っ赤になって怒り始めた。
僕も真っ赤だ。
取っ組み合いの喧嘩がはじまった。
父さんがあわてて僕らを引き離す。
そして僕のことを思い切りビンタした。
バッチーン!
一瞬何がおっこったかわかんなくて僕はポカンと口を開けていた。
後からジンジンと痛みがくる。
赤くなって熱くなって僕のほっぺはどうなってるんだろう?
「頭を冷やせ」
滅多に怒らない父さんが僕を叱っている。
悠太だって・・悠太が余計なこといったからなのに。
「最近のアンタは本当にどうかしてるってくらいイライラしすぎてる」
母さんも怒ってる。
「お前なんかいなくなれ!」
悠太も。
皆なにもわかってないくせに。
僕の気持ちなんてわかんないくせに。
僕の事情なんて理解する気もないんだ。
目から涙がでてくる。
もうとまんない。
震える声で僕はようやく言葉を発した。
「・・・っでてってやるよ・・っ!! でてけばいいんだろ!?」
僕は顔をぐしゃぐしゃにしながら家を飛び出した。
後ろで僕を呼ぶ父さんと母さんの声がきこえた。
ついでに「放っとけばいいよ」って悠太の声も。
これが最後の家出となった。