「駒」
「魔術師…いるか?」
少し明かりのともった洞窟の中に悠里を抱え、ウミは入っていった。
「いるよ。向こうの世界の人間も一緒だねぇ?」
狂った魔術師はすべて知ってるといった顔で奥のほうから出てきた。
狂った魔術師は男か女かよくわからない外見をしていた。
大きなシルクハットのようなものを被り、髪は肩より少し短め。
オレンジ色の髪に右目は紫、左目は碧の目をしている。
「悠里を…悠里を助けて!あなたならできるだろ??」
ウミの顔は本当に真剣だった。
そんなウミともうほとんど意識のない悠里をみて狂った魔術師はニヤリと笑った。
そして手招きしてウミを呼ぶ。
「こっち」
入った先にはベッドのようなものがおいてあり、周りの棚には様々な色をした薬品みたいなものが置いてあった。
「力を使い切ったねぇ…。この子…。無茶するねぇ…。ふふふっ」
狂った魔術師は不気味な笑いをもらしながら周りの棚からいくつか薬品を取っている。
「あ、その子…悠里はそこにねかせなさい」
そして気付いたように目配せで悠里をベッドに寝かせるように言った。
「うん…」
ウミはそーっと悠里をベッドに寝かした。
悠里は唸っていた。
ウミはそっと悠里の手を握る。
「悠里…もうだいじょぷぶだから…ね?悠里…」
そしてつぶやいていた。
ずっと。
ウミは気付いてしまった。
他人をこんなに愛おしいと思っていることに。
悠里なんてただ世界を滅ぼすための駒だって初めは思っていた。
でも今は違う。
悠里は大事な人なんだ。
僕の友だち。
だから僕を一人にしないで。
ずっと僕のそばにいて。
一緒に新世界に行くだろ?
ね?
狂った魔術師が薬品を調合してる間もウミはずっとそんなことを呟いていた。
それを聞いていた狂った魔術師は思った。
(これだから感情って厄介だねぇ…。つぶしやすくて私は嬉しいけれど…)
そう思うと笑いがこみあげてきたけれど狂った魔術師は我慢した。
ウミに気付かれないために。
「さてさて…これを飲ませれば悠里は回復するよぉ」
そう狂った魔術師が言った途端ウミはすばやく狂った魔術師の手から薬を受け取った…。
(というより盗った)
「悠里!!」
悠里の口に無理やり薬を流し込む。
「うっ…ごほっ!!」
途中むせながらもなんとか悠里は薬を飲んだ。
少し悠里の体が光った。
すると悠里の額からどんどん汗が収まっていった
。
悠里はぐっすり眠っているようだった。
「悠里…よかった…もう大丈夫だ…」
ウミはやっぱり悠里の手を握ったままひたすら呟いていた。
その時悠里は夢を見ていた。