「駒」
「悠太君…」
俺は少ししゃがれた声で、でもはっきりと悠太君の名前を呼んだ。
「…」
悠太君は泣きじゃくって俺を睨んでる。
「悠太君が俺を恨んだって悠里が抵抗したって俺は絶対悠里を連れ戻す。所詮俺の勝手だけどそれでも連れ戻す。悠里だって苦しんでるはずだ。アイツは…世界を滅すなんてそんな事平気でできる奴じゃない。たとえ心をとられたってきっと苦しんでるはずなんだよ!!」
また涙が溢れてきた。
逆に悠太君は泣くのをやめた。
そして最も嫌なものを見る目で俺を見る。
「世界を滅ぼす?何を馬鹿なことをいってるわけ??よくもそんなわけの分からない冗談言えるね!!今この時に!!!この人でなし!!!」
いきなり悠太君にこんな事をいって気付いてもらえるわけも無く。
もう俺の思考は停止して。
けど能力は動いていた。
自然に発動された「奇跡」はあの悠里がいなくなった日の…俺が最後に見た悠里の映像が映画のように空き地の地面に映し出された。
「なんだこれっ!?」
一瞬叫び声をあげた悠太君も地面にうつる悠里を見た途端静かになった。
「すげー…」
「これが拓斗の能力…」
「すごいじゃな〜い!」
焔達も見入ってる。
そしてアリスも…。
そりゃそうだ。
あの始まりの日を見たのはきっと俺だけ。
これが始まりなんだ。
これが悠里の…昔の心をとられる直前と直後の悠里だ。
悠太君は食い入るようにみている。
悠里の変わっていく様を。
俺は今これをみるまで考えもしなかったけど、悠里はどんな思いでウミについていったんだろう?
楽しいとかそういう気持ちじゃないことは確かだ。
きっと悲しかったと思う。
もっと早く俺が悠里を見つけていればこんな事にならなかったのかな?
でももう遅い。
残された道は悠里を連れ戻すしかない。
そうしないと悠里に会えない。
映像が終わったとき悠太君は信じられないといった顔をしていた。
「な…どーゆー…ことなんだよ?兄ちゃんが…なんなんだこれ…?」
悠太君は今にも狂いそうな顔をしている。
そして思い出したように怜が言った。
「そうか…誰かに似てると思ったら…拓斗…お前もう一人のウミだな?」
怜が真剣な顔で俺を見る。
「そうだよ…」
俺は複雑そうな顔で怜を見た。
「そりゃ…すげぇや…!!!まるで正反対だ!拓斗がむこうの世界のウミ…?」
焔はとても信じられないといった顔で俺を見る。
そしてアリスは悠太君に優しく声をかけた。
「悠太君…これから話すこと聞いてくれる?これから話すことは真実で嘘じゃないって事覚えといて。ね?」
悠太君はただ黙ってコクリと頷いた。