敗北の蒼魔道士
いつもより短い、すみません。
何処か噛み合わない師弟の馬鹿げたやり取りの後、居間は発言を許さない空気に包まれていた。
(何か悪い事をしてしまっただろうか………)
クリスは命の恩人に己の裸を見られる事を恥とも思っていない。
それは男ばかりの中で武人として生きて来た事も多分に影響していた。
女々しさよりも雄々しさが磨かれた結果であった。
アゼルが女性恐怖症である事も当然知らない。
アゼルもそんな事は口が裂けても言えない。
だから黙るしか無かったのだった。
沈黙の中、アゼルはテーブルに『これが食事だ』と言わんばかりに硝子容器を置いた。 混じりっけ無い自然の恵みと言えば聞こえは良いが………
濃緑色をした液体を満たした硝子容器は食料品ではない、医薬品の類だ
見れば、アゼルは平然と濃緑色の液体を一息で飲み干している。
クリスも覚悟を決めた、少なくとも命に別状は無い筈だ。
世話になる身分で食事にケチを付けるなんて真似は出来なかった。
僅かな躊躇いを振り払い、勇気を振り絞って、液体を口に付ける。
「青臭ぁあ!!」
想像を絶する、味がした。
「余り、これは使いたく無かったが。疲労は回復しただろう?」
「エエ……… ヨクキキマシタ」
テーブルに突っ伏したままのクリスに、アゼルはさもありなんと首肯する。
「砂糖や蜂蜜を入れても味をごまかす処か、寧ろ悪化するんだ………」
味についてはアゼルも思う物があったらしい。
「味はどうにもならなかったがその分、効果は高い。
肉体疲労に加え眠気まで完全に吹き飛ぶ。研究に打ち込んでいると、これを日に三度と言う事もな………」
ささやかな抵抗と、努力の結果の体験談は涙無しには語れないだろう。
顔を背け、視線はどこか遠くへ向けられていた。
「し、師匠っ………」
「よしてくれ……… 私は負けたのさ。それだけだ」
そうまで言われては、クリスとしては黙るしかなく。
ただ、その苦闘の日々を思って熱い涙を流した。
「君のような冒険者ならば、一度は『疲労回復薬』や『体力回復薬』の世話になった事はあるだろう。しかし、その開発の裏側では、恐らく多くの者が似たような経験をしている事を、知っておいて欲しい」
「っ………! 肝に銘じておきます」
何故か師弟の絆が深まった、昼下がり。
彼にも出来ない事はある。それも結構な数………