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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

おとぎ話の生まれ変わりたち

人魚姫の生まれ変わり

作者: 那雲 華

私は、男が嫌いだ

それは私が人魚姫の生まれ変わりだから


王子様?


助けた人を間違えた奴なんか、知ったこっちゃないね!





















「あれ、水姫(ミズキ)。泳ぎに行くの?」

「うん。嫌な夢見たから」

「泳ぐの、久しぶりじゃない?え〜私も行こうかなぁ」

「行くんじゃなくて、見にくるだけでしょ。――――大体、あんたは武光君(おうじさま)とデートじゃないの」

「その言い方ヤメテくんない………////」


幼い頃からの幼なじみで、無二の親友である白林(しらばやし) 雪姫(ゆき)は一ヶ月ちょっと前から王子軍団の一人、武光(たけみつ) 利哉(としや)と付き合っている。

雪姫は白雪姫、武光はその相手の王子。

紆余曲折あって(面倒だから割愛)今では全生徒公認のバカップル。

雪姫は大体、凄く綺麗になっちゃったしね。

元々可愛い系だったのに、呪いが解けたかなんだかで、本当に白雪姫っぽいから、勝てないとでも思ってんでしょうね。

ま、今まで障害ありまくりだったみたいだし、いーのかな。

ただ、目の前でイチャつかれると鬱陶しいけど。


「じゃ、楽しんでおいで」


雪姫の頭を一撫でして、通学鞄と水着の入った袋を持って教室を後にした。






「う〜やっぱ可愛いなぁ」


色素の薄い茶色いストレートの髪に、キリッとした姉御的な顔から、はた目には姉が妹を撫でるようなものにしか見えないだろうが、実際は違う。

嫌なことや嫌な夢を見たとき、水姫は人肌が恋しくなる。

でもおおっぴらに抱きつくなんて出来ないらしく、ああして少しだけ触れていくのだ。

これはまだ、私だけの特権かな♪





















雪姫は気づいているだろう。

人肌が恋しくなってもおおっぴらに触れることができないから、消化出来ない分を泳ぐことで昇華させていることを。


パシャン


私が使う民間のスポーツクラブは、市街地のど真ん中にあるせいか、暇をもて余しているか健康の為にきているかの人が多いため、おじさん・おばさんと呼ばれそうな年齢が多い。

勿論、若い人もいるけど。


「ふう」


とりあえず気の済むまで泳いだから一旦上がることにした。

プール場の隅には温水の小さなプールがある。

泳いで冷えた体を温めるだけのものだから、どちらかというと温泉みたいな形をしている。

そこには先客がいた。


「水姫ちゃん、相変わらずすごいわね。今の何メートル?」


このスポーツクラブで何度も顔を会わせる内に仲良くなったおばさんの一人、八重子(やえこ)さん。

ちょっとだけふくよかな、優しいおばさん。

知り合ったおじさんおばさんの中でも一番好きな人。


「500メートルから数えてないなぁ………」

「あらあら。まあ私としても、綺麗なもの見せてもらったからいいけど、あんまり無心で泳ぐと危ないわよ?」

「気を付けます」


どうも、私の泳ぎ方は見る人見る人、綺麗だと言う。

インストラクターの人たちも、私のことを競泳選手かなんかと勘違いする。

違うと言っても誘ったり勧められたりされた。

一度なんかは、どういうツテで来たのか、有名なコーチまで来たこともある。

丁重にお断りして、しばらく行かなかったな。

それからはおじさんおばさん達に言われているけれど。

八重子さんは、一度も言ったことがない。

だから一番好き。

私は泳ぐのが好きなだけであって、争うことは嫌いだ。

自信がないからだとか、言う人もいるだろう。

だったら言った人と本気で勝負しよう。

本気で泳いだら、負けない。

だって私は人魚だもの。


「そうそう、水姫ちゃん」

「はい?」

「私ね、息子がいるんだけれど」

「………はぁ」

「あなたと同じ高校でね、水泳部に入っているのよ」


あ、なんか嫌な予感。


「水姫ちゃんの話をしたら、会ってみたいって言うのよね。勝負してみたいって」

「すいませんが、お断りします」

「そうよね、そう言うと思ってやめなさいって言ったのだけれど、諦めきれてないみたいで………」


本当に申し訳なさそうに言うから、うぅ、困るなぁ。


「あの子、口も上手いもんだから水姫ちゃんの名字も言ってしまったの。だからもしかしたら直接学校で勝負を申し込まれるかもしれないわ。迷惑だったりしつこいようだったら遠慮なく私に言ってね?」

「わかりました。ありがとうございます――――で、息子さんのお名前は………?」

「あら、ごめんなさいね。息子は海原(かいばら) 武弥(たけみ)というの」





















「あれ?泳ぎに行った水姫が元気ない。また勧誘受けたの?」

「ううん。それはもうスポーツクラブさんがそういうの立ち入り禁止にしてくれたから」

「じゃあ、なに?」

「ちょっとね――――ねぇ、海原武弥って知ってる?」

「え?海原君も王子軍団のひとりだよ!」


水姫が言うには――――

高校水泳界で、全国大会の優勝を総なめするほどの実力を持っているらしく、将来的にもオリンピック選手でも期待の星なんだとか。

しかも黒目黒髪で身体もしっかりしている上、ルックスもバッチリときた。


「よく知ってるね?」

「利哉が教えてくれた」

「あぁ………王子同士、仲良いらしいのは聞いたことある」

「――――『同志』だからね」

「え?」

「なんでもない。あ、噂をすれば」


無表情の、見る人が見ればわかる水泳選手の体つきをした男子学生が近づいてきた。

雪姫の言っていた外見と一致するからに、こ奴が海原武弥なんだろう。


「あ、ちなみに私たちの一個上だからね」


………それを早く言ってくれ。

思いっきりタメ口きくところだった。






「君が魚住(うおずみ) 水姫(みずき)ちゃん?」

「そうですが」


その顔で『ちゃん』付けて。

爽やかよりも厳ついから、なんか似合わない。


「母から聞いていると思うが」

「勝負のことですよね。お断りですので、さようなら」

「水姫………;」

「逃げ、と捉えても構いません。勝ち負けは嫌いなんです」


争い事は嫌い。

人魚は元来、そういう性質を持っている。

今は人間だけど。




「また逃げるのか?――――人魚姫」




そう耳元で言われて、カッと頭が熱くなった。

確かに八重子さんの言う通り、奴は口が上手い。


私は恋の勝負から逃げた。

そして人間が持つ競争心まで煽ってきた。


「わかりました」

「じゃあ今日の放課後、待ってっから」





















昔々、とある海の底には人魚の国がありました

国にはお城があり、海の王さまが住んで、王さまには美しい人魚の娘が六人いました

特に一番下の娘は誰よりも美しい歌声も持っていました

ある日、末娘は十六才の誕生日が訪れ海の上を見ることが出来るのです

とても楽しみにしていた人魚姫は、人間に見つからないように、という注意をされながら、早速海の上を目指します

海の上は人魚姫にとって初めて見る光景でした

海と違う青い空、そして人間が乗った船

人魚姫はこっそり見つからないように船に近づいて、人間を観察することにしました

船の上では沢山の男たちが陽気にお酒を飲んで楽しんで、その中でも特に目を引いたのが、誰よりも楽しそうに笑う男の人

しばし見とれていた人魚姫でしたが、突然に大嵐が吹き荒れ、船の上はあっちへいったりこっちへいったり

船も大きく揺れ、津波も沢山襲いかかりました

そして一番大きな津波に、人魚姫が見とれていた男が船から放り出されてしまい人魚姫は慌てて男を助け出しまが、その間に船は波に流されいなくなってしまったので、人魚姫は男を抱えて岸まで運びました

砂浜まで引き上げて、男を確認すると、ちゃんと生きていて安心しました

しかしすぐ、他の人間の声がして人魚姫はまた慌てて海へと戻りました

岩陰からこっそり覗くと、やってきた女は男を見つけ、助かったのだと思いました

しかし人魚姫は悲しくなりました

人魚姫は男に恋をしてしま――――


パタン


この後は嫌でも覚えている。

海の魔女のとこへ言って声の代わりに足をもらって再開する。

けれど王子は本当に助けたのが人魚姫だと知らずに別の女と結婚。

王子を殺せば人魚に戻れ、殺せなかったら泡となって消える。

あの人の笑顔が消えるなら、泡になって消えたほうがマシ………なんて殊勝な私なんだろう。

いや、そもそも殺すという行為が嫌だったからだよ。


それにしてもなんで私が人魚姫ってわかったんだろう?

知っているのは雪姫ただ一人………

あだ名でさえつけられたことがない。

また、とも言っていたし。

まさか、アレが王子?

カナヅチだったくせに?

――――嫌すぎる。





















「海原くぅ〜ん!」

「海原センパ〜イ頑張ってぇ♪」

「うっわ、すっごい野次馬(ギャラリー)だね」

「雪姫………思ってっことと言ってっことが逆だぞ」


水泳帽に腰まである髪を詰める私の後ろにいるのは二人だけ。

デートはどうしたんだか。


「ウォーミングアップしてくる」

「行ってら〜」


パシャン


泳ぎ出してしまえばほら、雑音なんか消えていく。

ついでに雑念も。


泳いでいて、先にアップしていた奴が上がったのを見て、私も上がる。

飛び込み台に上がって、体の最終確認。

充分に体も心もモチベーションばっちりだ。


「………なあ、賭けをしないか?」

「はぁ?」


前を向いたまま、野次馬(ギャラリー)に聞こえない音量で私に言ってきた。

賭け?

なんでそんな闘争心を煽るようなことを言うんだろう?

今回は全く動かされないけど。


「君が勝ったら、君が俺に対する不満とか言いたいこととか聞きたいことを叶えよう」

「海原さんが勝ったら?」

「俺が勝ったら、俺の言うことを一つだけ叶えてほしい」

「それなに?」

「…………」


ただ笑うだけ。

目はすでにゴーグルがかけてあるから、表情が全くわからない。

まあいいか。

どうせ勝つのは私だもの。


「用意!」




ッビー!




バシャアァン!





















結果?

負けるわけないでしょ。

十九秒差。

カナヅチに比べたら、随分と頑張った方よ。


「さっすが水姫!」


一番喜んでくれるのはやっぱり雪姫。

男を負かした私を引かないでくれる。


「流石、人魚姫。完敗だよ」

「魚住水姫」

「悪い。水姫、な」

「なんで下の名前………」

「君の話を聞こうか」


スルーか!


「――――とりあえず、あの目をキラッキラさせてる顧問とコーチと部長に、絶対入らないって伝えて」


入れる気満々だよ。

暫く登校拒否したくなるくらいに。

ポソって言ったら、それは困る、とな。

別にアンタにゃ関係ないでしょ。





















連れて来られたのは旧校舎の校長室。

明らかにダベる為に整頓、改造されてる。

ここが噂の王子たちの溜まり場か。

王子たち、ナニモンだ。


「好きなとこ座って。お茶用意すっから」

「お構い無く」

「…………長い話になるだろうから」


そうかしら。

言いたいこと言ったら帰るつもりなんだけどな。


「ん」

「どうも」


ちょっとブレイク。

意外と緊張していた体が弛緩していく。


「…………会いたかったよ」

「私は会いたくなかったわ」

「まず俺の話を聞いてくれないか?」


会いたかった、なんて言わないで欲しかった………





















自国周辺を縄張りとしていた海賊を撃破し、帰りの船で宴を催していた。

また、そこら近辺は人魚が出る海域と恐れられてもいた。

だが海を荒らさず、なおかつ海に目もくれず楽しく宴をすれば、人魚も楽しくなって歌うことを忘れ、人魚の歌に惑わされず通り抜けることができると言われてもいた。

現に、一人の人魚が楽しげに見ていたことに気づいていた。


「気づいて、たの………?」

「こっちも気取られちゃたまったもんじゃないからな、ただいるな、という認識だけだった」


そして唐突に嵐に変わり海へと放り出されてしまった。

しかし、薄れゆく意識の中、あの人魚が抱えてくれたことがわかった。

海の中で中々目を開けていることは叶わなくて、その上海に叩きつけられた衝撃でとうとう意識を失ってしまった。


「夢だと思ったんだ。人魚が人間を助けるなんて聞いたこともなかったし、人魚は人間にあまり興味がないとも」

「楽しげに見ていたのを知っていたのに?」

「全くだな………で、お前を浜で見つけたとき、まさかと思ったんだ。美しい声をしていると聞いていたのに声はなく、足があった。他人の空似かと」

「そう、ね………魔女なんて知るはずもないものね」

「お前が消えていなくなって、結婚した姫から聞いた。………浜で倒れていた俺を見つけたとき、海にいるお前を見た、と。消える前、枕元で泣きながら悲しそうに笑うお前が立っていたと………!」


そうして気づいたときは何もかも手遅れで。

姫を愛していると思っていたが、そうではなかった。

本当は、頬をそっと染めて笑う、名も無き少女に惹かれていたことを。


「沢山探したよ………五回も生まれ変わってもお前を探していた。けど見つけたとき、お前はいくつも歳上で、すでに別の男と幸せそうに笑っていた………」




「お前がどれだけ苦しんだのかわかったよ。一生をかけて、償いをさせてくれ。お前を愛しているんだ」





















一人掛けののソファーに座っている私を逃がさないように四肢を使って囲んでいる。

私に、触れずに。


「……嫌…よ……」


苦しそうに歪む。

でも、その気持ちが嫌なのだ。


「償いの気持ちで………一緒にいられたくないわ」




「愛してくれるだけでいいのよ――――」




でも、本当にいいの?

笑顔に惹かれただけの私が、どうしていいの?


「俺だってお前の笑顔に惹かれたんだ。むしろ、お前のことを気づかなかった俺でいいのか?」

「名前………名前を読んで?」

「水姫、水姫、水姫………愛してるんだ!」

「あぁ………貴方に本当の名前を呼んで欲しかったの」

「何度だって呼んでやる。だから、水姫も本当の声で俺を呼んで………」

「武弥――――愛してる」


無理矢理低い声を出していた。

聞かせたかった人が居なかったから。




「「千年前から、愛してる――――」」




千年越しのすれ違いが、今

ようやく寄り添う――――






End

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