死人に口無し
「どうして!?」
放課後の廊下、そんな言葉に僕は思わず足を止めた。
声は後ろの3B教室から聞こえたようだ。高校生だし、おおかたカップルの喧嘩だろう。どうせ予定もないし聞くだけならと、僕は自分に言い訳しながらゆっくりとドアに近づいた。
「なんで全然連絡してくれないの?なんか最近冷たいよ!」
なるほど…付き合ったは良いもののなんか違ったといったところだろうか。そっとドアの窓から覗いてみると、彼女であろう女子生徒の後ろ姿が見えた。
細身の体に、流れるような黒髪。背中からでもモテるんだろうということが十分に感じ取れた。
「もしかして浮気!?最ッ低!ずっと一緒だって約束したじゃん!」
彼氏の方は何も答えない。おそらく事実なのだろう。
「何か言ってよ!まさか…さっき私が突き飛ばしたことまだ根に持ってるの?信じられない!」
それでも彼氏は答えない。一体どんな神経してんだ。彼女も彼女で、突き飛ばすなんて結構荒っぽいな。
「もう知らない!もう別れるから!こんなヤツだなんて思わなかった!」
ドアに近づいてくる足音が聞こえて、僕は咄嗟に柱に身を隠した。まさに危機一髪。彼女がドアを勢いよく閉め、そこじゅうに怒りのオーラを撒き散しながら去って行った。
すごいもの見ちゃったな…彼氏も追いかけろよ…
あそこまで沈黙し続けた彼氏がどんなヤツか気になり、僕は忘れ物でもしたふうに装って教室の中に入った。
そこにはあるひとりの男子生徒がいた。いや、あった。
頭から血を流して倒れた男子生徒は、もう既に物言わぬ骸だった。




