第4話 エロまんが家にヒロインは難しい①
〝おさんぽぱんぱん丸〟先生。
出版社が運営してるサイトで活動しているネットダウンロード限定のNTRエロまんが家。
図書館の秘書のような巨乳の清楚系黒上ロングお姉さん。
おっとりとした声色、落ち着いた話口調、出る内容はその雰囲気に全く合わないNTR愛なる信仰じみた狂人のそれ。
見るからに経験豊富そうだが、出版社の独断と偏見で所属作家は皆未経験者であるらしい。本当か? 申告していないだけでは……。
「おさんぽ先生はなんでNTRを描くようになったんだ?」
「それを聞いてしまいますか。とても、ええ、とても長くなりますがよろしいですか」
「じゃあ、いいや」
「お話する口なのですが」
「なら手短に頼む」
「はじまりはそうですね。……やはり〝魔法少女〟でしょうか。日曜朝にですね、可愛らしいアニメがやっていたんです。奇抜な髪色で、笑顔の可愛い女の子が主人公で、ひとつ上の先輩に片思い。世界平和と恋に翻弄されるわけです」
あれ、思ってた話し出しじゃない。
なんなら親の浮気を見てしまい精神崩壊したとかだと思ったが……魔法少女。おさんぽ先生もちゃんと普通の女の子だったんだ。
「同人誌ってあるじゃないですか。あれがですね、古本屋のアニメ資料棚で紛れ込んだのか、悪い大人が故意に置いたのか、とりあえずご想像通り読んじゃったわけですね」
「それは、教育に悪いな」
「そのまんがでは私のよく知っている魔法少女が肥満体系の教師に、ムキムキの褐色ヤンキーに、サラリーマンに好き勝手されていた。先輩の名前を何度も呼んでいて。───心が震えた。その姿が、理性と快楽のせめぎ合いが、とても美しいと思ったんですよ」
「目をきらきらさせて、すごいいい話風に語らないでくれる?」
古本屋の店員が中身を確認せずに店出ししてしまったか、それこそ悪意によるものだろう。
その行為が良くも悪くも、おおむね悪く、ひとりの思考を歪めてしまったわけだ。
本来トラウマで終わるであろうその一幕が、この人にだけは化学反応が起こた。
良い子アニメのヒロインがNTR製造のバケモノを産み落としてしまった。
話のオチとしては皮肉が効いている。
「ばなな☆ちっぷす先生はどうして純愛属性を描くようになったんですか?」
「元々は漫画家になりたかったんだよ。熱血バトルものをさ、実際格闘技をめちゃくちゃ研究した。───俺もはじまりは日曜朝のヒーロー番組だ。誰かを救える話を描きたかったんだ」
「話の作りこみはそういうことですか」
「だけど才能がなかったみたいで、ここにいる。純愛属性になったのは、単純に特殊性癖がなかっただけだな。しかし君と話していると、エロまんがへの熱意が低いことを実感する」
「……エロまんがはお嫌いですか?」
探るような、または俺の過去に気を遣うような声色。
夢を諦めた俺が現状に満足しているのか。
心配はご無用だ。
俺が気に食わないのは〝ばなな☆ちっぷす〟というペンネームだけ。
長居しないと思って決めてしまった自分を殴ってやりたい。
「はっ、キライでエロまんがが描けてたまるか。言った通りエロスは性欲と愛の神だ。愛なくしてエロにあらず。俺は自分の作品に関係する情報はとことん勉強するタチの人間でな。エロがあれば摂取する。作品のためならば俺はスケベ大魔王にだってなってやる」
俺はこの世界で骨を埋める、それが俺の王道だ。
「ふふ、それを聞けて安心しました。私たち、真逆の属性ですがうまくやっていけそうですね」
確かにファンタジーなら闇属性と光属性の関係かもしれない。
「ほどほどにしてくれよ」
「正義のヒーローを描きたかった少年が大人になってエロの伝道師に。しかもスケベ大魔王を目指していると。ふふふふふふっ、よき〝堕ち〟ですね」
「うまくまとめようとするな」
「ばなな☆ちっぷす先生。やっぱり私と一緒にNTRを描きませんか?」
「断る。俺がNTRを描くことは───」
さんぽ先生が俺の手に触れる。
冷えた両手を温めるように、それから上目使いに。
「絶対に好きにさせてみせますから」
「……っ」
ここだけを切り抜けば、主人公がヒロインへの恋心に気付く瞬間。
実際、この瞬間だけで言えば彼女は超絶可愛い清楚系メインヒロインだった。
主人公を脳破壊の沼に引き込もうとする系ヒロイン。




