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第3話 エロまんがにはロマンがある

 ヘリコプターが『エロまんが島』と名付けられた無人島に到着し、十何時間も座りっぱなしの俺たちはようやく地に足をつけた。

 〝ひとりの人間にとっては小さな一歩だが、エロまんが界にとっては大きな一歩だ〟。


 重装備なヘリコプターの操縦士は俺たちに物資を渡したすぐに飛び立ってしまった。

 あの寡黙な自衛隊みたいな人も出版社の編集者なんだよな……。

 本当にどんな組織だよ。


「編集長以外、ほとんどが重装備の兵士で対国家の秘密組織みたいな怪しさがあるんだよな」


「実際、そうなんじゃろ。エロなんてものはいつ規制されるかも分からん。自衛する手段もなければ、すぐさま不健全だの文句を言われて潰されてしまう儚い存在じゃ」


「それねー。誰かが声高に否定したらボクらのエロまんがはぜんぶ燃やされて、家宅捜索されそうで怖いよね」


「セックスも描けないそんな世界、滅んだ方がいいですけどね」


 思想強いなこいつら。

 しかし編集者方のおかげで今日もエロ漫画を描けているのだから、啓礼。

 遠くなっていくヘリコプターに向かって敬意を示す。


「小僧、あいつらのせいで無人島に取り残されたのじゃが」


「あ、そうだった」


「そもそもなんでこの四人なのかな? サバイバル能力もなければ、体力だってない」


「無人島に男女四人だなんて、ヤることは決まってるんじゃないですか。ふふ」


 おさんぽ先生のひと言で俺に視線が集まる。

 緊張感が走り、こくりとのどが鳴った。


「そういった考えは編集長にはないと思うぞ。〝未経験者にしか至上のエロまんがは描けない〟なんて思想を持ってるくらい。それにそこの幼女先生は俺たちの監視役なんだろ?」


 ……うちのエロまんが家、全員未経験者って言ってたよな。

 つまり、このコミュ力オバケ娘も清楚系巨乳お姉さんも。


「ちゃんと〝あ。大先生〟と呼ばんか。───まあ、そうじゃろうな。変な気は起こさず宝探しをするのが無難じゃろう」


「うんうん。秘宝エロまんが探し開始じゃい! おー」


「私はそういう展開でも構いませんけどね。でも最後は『実は無人島には巨根のムキムキ野蛮人がいて俺のメスが全員ソイツに食われちまった件について』でお願いします」


 とりあえずこの中で一番相手にしちゃならないキャラが誰かはよく理解出来たな。

 レオン先生を先頭に無人島の奥へと向かっていく。


 レオン先生、幼女先生、さんぽ先生、俺。


 森というよりはジャングルに近いかもしれない。


「先頭変わるか?」


「ううん。ソロキャンとかよくするし、長野県出身だから小さい時はおじいちゃんが昆虫食とか作ってくれてたよ。蜂の子とか」


「小僧よりも頼りになるんじゃないか?」


「そうかも。なに気、後姿もカッコよく見えてくるな」


「えー、なにそれ。でもそれはボクが───。ん、あれ」


 レオン先生が立ち止まったことで、衝突事故が多発する。

 幼女先生の頭の上にさんぽ先生の巨乳が乗っかり不服そうな表情を浮かべている。

 変わってやろうか。


「どうした、急に」


「……これ、【ティーエス華】じゃない?」


 見る角度によって赤色になったり、青色にもなる彼岸花のような植物。

 驚き具合を見るに相当珍しい華なのだろう。

 ティーエス、海外名の植物か? それとも何らかの神話から名前が来ているとか。


「この花の根をすり潰して体に塗ると1日だけ性別が変わっちゃうっていう幻の華なんだけど、歌川珍宝が出版した『淫植物図鑑』で紹介されていたんだ」


 どうやらエロまんが用語だったらしい。


「『淫植物図鑑』といえば『ヴォイニッチ手稿』と同じようなくくりの奇書じゃろう。エロまんが老人がこんな植物あったらいいなの妄想本じゃ。透明人間になるとか、催眠効果があるとかの」


「その華のモデルになったとかでしょうか?」


「それか実際にそんなふざけた効果があるとかな」


「小僧、夢は捨てよ。そんな展開はあり得ない。……いや、小僧で試してみるのも面白そうじゃな。これに似ている彼岸花は毒性があるんじゃがのぅ」


 にやにやとこちらを茶化す幼女先生。

 ヘリコプター移動中いじりすぎたせいで根に持たれている。


「まあ、実験体が必要なら俺が名乗り出るぞ。実際に試してみたいし」


「だめ。よく解らないを体に塗ったりしたら大変なことになっちゃうよ。病気になっちゃうよ」


「おいおい。エロまんが家がロマンを語れなくなったら終わりだろ」


「エ『ロまん(浪漫)』が家ということですか」


 格好よく決めたつもりだったがさんぽ先生に説明されてしまうと心底しょうもないことのように思えてきて顔が真っ赤に沸騰した。

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