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第2話 エロの同志は見つけづらい

 ばなな⭐︎ちっぷす。

 最初からこんなペンネームにしたかったわけじゃない。学生の頃はペンネーム決めで何日もかけたことだってあった。


 元々は、〝普通の〟漫画家になりたかったんだ。

 それこそ友情努力勝利みたいな、王道なやつ。

 だけど才能がないのか、原稿を持ち込んだ出版社は『ちょっとね、なにかが足りないんだよ。リアリティ?……ああ、でも女の子は可愛いね。そこ最高。だから次も出来たらうち持ってきて。お疲れ様でした』なんて。


 お酒と一緒にバナナチップスをドカ食いした。

 俺にとってそれは敗北の晩餐だ。


 負け続けたから、俺はここにいる。

 ───ヘリコプターに乗せられ、無人島へ。


 〝()()()()()()()()()()()()()〟。


 エロまんが家以外立ち入り禁止のお宝眠る無人島。

 そこで交流会という名目で、俺たちは宝探しをするのだ。


「それじゃっ自己紹介しとく? ……とりあえずペンネームだけでも良いよね。ボクは烏帽子(エボシ)変色蜥蜴(カメレオン)。愛称〝レオンちゃん〟だよ」


 まず初めに口を開いたのはサブカル的改造した学生制服(もちろん成人済みだろう)を着た緑髪のショートポニーテール娘。

 きゃぴきゃぴとした口調で一言ごとに表情を変える。

 よく表情筋がツらないものだと感心してしまう。


「キミは?」


 エロまんが家あるまじき澄んだ瞳で俺に問う。

 思わず目を逸らした。

 こんな職業だ、変なやつしかいないと思ってずっと作家同士のコミュニケーションは避けてきた。


 そもそも社交的部類ではないのだ。


「ば、ばなな⭐︎ちっぷす」───どもってしまった。


「あ、知ってる。メインで展開してるエロまんが雑誌の方の神童さんだ。キミの描く女の子可愛いよね。それにストーリーが面白かった!」


 メイン?

 自分が掲載してる雑誌しか読んでいないから知らなかったが、サブ、またはマイナーテーマの雑誌があるのだろう。


 ……また『面白い』か。

 それでも褒めてもらったことには違いない。


「ありがとう。キミの描いたものもいつか読ませて欲しい」


「いつかなんて言わずにさ。無人島着いたら新作見せ合いっこしよ?」


 なんだこのコミュ力おばけ。

 不可抗力で顔がだんだんほてっていく。恥ずかしい、女性慣れしていないことが露見していく。


「私はおさんぽぱんぱん丸です。出版社が運営してるサイトでネットダウンロード限定エロまんがを描いています。基本属性は〝NTR(ネトラレ)〟。というよりそれしか描きたくないです」


 エロまんがジャンルのこと『属性』って言った? この人。バトル少年漫画かよ。


 見た目は優等生な生徒会長、黒上ロングでクリーム色の肩出しセーターに黒いロングスカート。

 豊満な胸に視線が行ってしまう図書館にいそうな清純派お姉さんなのだが。


 〝NTR(ネトラレ)〟。───確かに属性で言えば、俺たちの業界じゃ最強格かもしれない。


「〝純愛(らぶえっち)属性〟のばなな⭐︎ちっぷす先生。貴方は青春群像劇の末、男女が好意を確かめ合うように優しい行為に至る作風です。前々から思っていたのですが。───2部構成にしてNTR(ネトラレ)に来ませんか?」


「断るっ!!」


 なに爽やかな微笑みで外道な誘いをしてくるのか。

 真剣そのものなのが余計タチが悪い。


「そもそも君の属性は邪悪だ。胸糞映画にハマるようなもの。エロの語源、ギリシャ神話のエロスは愛の神でもある。愛なくしてエロにあらず」


 熱くなって俺まで『属性』なんて表現を使ってしまった。


「それならばご安心を。私は心からNTR(ネトラレ)を愛しています」


 教会のシスターが神の愛を語るような微笑みで断言する。……いや、しやがった。


「私はエロ以上の芸術表現はないと心底思うのです。ならば芸術の条件とは? それは見た者の感情を揺さぶれたかどうか。ポジティブもネガティブも。だったらNTR(ネトラレ)こそ最上芸術! さあ、堕ちましょう一緒に!」


「なんで最上になるために堕ちなきゃならんのさ」


 しかし一理ある。いや、0.5理くらい。

 身悶えながら熱弁していた彼女がえっちだったとかは関係ない。もとより読む分には嫌いではないのだ。


 ただ自分が愛を持って生み出したヒロインが自分の認めた男以外に好き勝手されるのは我慢ならない。つまりは娘を想う父なのである。


 だから助けを求めるように他のふたりに視線を向けた。


「えーと、実はボクも()()()扱うの少なくないからなぁ。おさんぽぱんぱん丸先生に1票かな」


 な。


()()()()()()


 え。




 そう言えばずっとツッコまないようにしていたんだが。


「なんでJS(小●生)がここにいるんだ」


「し、失敬な!? ワシは創刊号から執筆しておる大御所じゃ。調子に乗るでないぞ小僧」


 いやいや、どう見たって通報案件だろこれは。

 白髪ツインテールで黒い着物赤い帯の見た目1●才の少女。扇子をこちらに向けて激昂する。


「ワシのペンネームは〝あ。〟じゃ。特に語ることはない。小僧どもがハメを外したり、()()()()しないためのお目付け役じゃ」


 その見た目でどキツい下ネタ挟むんじゃねぇ。


「そういえばエロまんが家って[あ行]多くないか?」


 ①烏帽子(エボシ)変色蜥蜴(カメレオン)

 ②おさんぽぱんぱん丸。

 ③あ。


「うーん、どうだろ。あんまり他の人のペンネーム気にしたことないからな。ボクはカメレオンが好きってだけだし」


「そうでしょうか? 桂あ●り先生。ピア●ッシモ先生。……ああ、H●先生はそうですね」


「エロまんがは一般漫画に比べて出版社が少ないじゃろ。五十音の前の方にしてしまえば店に並ぶ際、出版社の最初の棚、つまりは一番見られる場所に置かれるわけじゃ。これだけでも商業的にもかなり有利じゃろ。よく知らんがな」


 なるほど。

 その推測が確かなら俺の〝ばなな⭐︎ちっぷす〟はこの中じゃ不利な立場にあるのだろう。

 やはり縁起が悪い。


「あ。先生は出版社でも一番前で前習えしない娘ってわけか」


「小僧。このヘリからさぞかし身投げしたいようじゃな」


 イジり過ぎたら本当に蹴り落とされそうな殺気。

 死にたくないからお口チャックすることにした。

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