第9話 エロまんがには師匠がつきもの
「幼女先生、——いや●リ師匠。俺にエロまんがの真髄をご教示してほしい」
土下座である。
和服幼女の見た目をした大御所エロまんが家に向かって土下座する。
「言い直して伏せ字とはどういう了見じゃ。……〝あ。〟が呼びづらいのならそのまま師匠でよい。なにも付けずに師匠のみじゃぞ!」
「はい、ししょー」
「なんかバカにしておらんか。んー? 呼び方に侮りを感じ取ったんじゃが」
頭を踏まれぐりぐりと攻め立てられる。
俺は違うが、そっちの業界の人ならば随分と上質なご褒美だと思う。
こっちが嫌がっていないことを感じ取ったのかししょーは足を下し、「ふんっ」とため息と一緒にリビングのソファに腰かけた。
「して、なにを悩んでおる。ワシを師として仰ぐのなら相談くらいは乗ってやろうではないか」
背丈、見た目のせいで見降ろされてばかりいるからだろうか。
随分と機嫌がよさそうに見える。
大御所エロまんが家〝あ。〟。
俺のエロまんがを掲載しているエロまんが雑誌の創刊号から掲載している。
出版社も小さい時代、作家の入れ替わりも多く、それこそ創刊号から専属で活動している唯一の作家である。
俺が師匠と仰ぐのならこの偽幼女が適任だろう。
「俺はエロまんがを描きたいんだ。ちゃんとエロいまんがを」
「うむ。わからん」
ただでさえ幼いのにちびキャラのような表情をさせてしまった。
それからししょーは「ぬーん」と俺の表情をまじまじと観察する。
「長くこの業界におるがワシとて、エロがなんたるかが分からん。結局は他人の感性に依存した娯楽と言えんくもないのじゃからな。……だからワシは自分のヘキに最も刺さる物を描いておる」
「〝緊縛〟属性だな」
「そうじゃ。ワシは縛られた肉が好きじゃ。縛られ身動き出来ずいいようにされる女子が好きじゃ。緊縛を解いたときの肌の赤身が好きじゃ」
あ、目がギンギンとしている。
「ワシがエロいと想う物をとことん描いておる。アンチがヌけないとほざこうが知らん。小僧……いや我が弟子よ。お主も答えを言っておったろう。ヘリコプターの中であのNTR狂人に『エロスは〝愛〟』じゃと。それ以外になにがいる。お主の愛はなんじゃ?」
愛、か。
言葉にしてしまえばひどく滑稽で、曖昧さの権化。
「俺は〝純愛〟というものを知らない。俺が幼い時に父は愛人と一緒になって家族を捨てたし、恋愛の結末は基本浮気やしらけで終わると思うから」
自分でも思う、冷めていて、とてもつまらない感性だと。
愛を語りはするけれど、本当の意味での愛を知らないし信じてない。
「だから心から望んでいるんだ。世界には〝純愛〟が溢れているって」
「くはは、リアリストなのか夢見がちなのか分からんの」
俺の道化のような話にししょーは「気に入った!」と豪快に笑った。
心の在り方から他の3人とは大きく異なった歪んだ愛の俺のエロまんが。
目が肥えている人間には見透かされているのだろうか。
だから編集長は『おもしろい』と皮肉めいて微笑んだのではないだろうか。
「あると信じられないから描いている。願いのようなエロまんがか。なはは、我が弟子は随分とエロまんがを過大評価しておる。本来お下劣なものじゃろうに。ひひっ、あー腹痛い」
「ちょっと笑いすぎじゃないか?」
「すまんすまん。嬉しくなってしまってのう。お主のようなエロまんが家がいるとはやはりこの業界は面白い。ワシのヘキの始まりは幼い頃の輪ゴム遊びじゃ。腕に巻き付けた時のじんじんとする熱に興奮を覚えた。その程度の話じゃ」
「幼い頃というと結構最近だな」
「縛ってやろうか」
「……気になったんだが。師匠の緊縛は縛られる派なのか、縛る派なのか」
「断然縛る派じゃ。男は初めてじゃの、デッサン資料のために撮らせてはもらえんか? 我が弟子よ」
どこから取り出したのかわからない縄。
両手で引っ張ってギシギシッと音が鳴った。
満面の笑みが怖い。
弟子入りしたのであれば縄で縛られるくらいの資料提供は必要か?
NTRに堕とそうとしてくるさんぽ先生や尻に危険を感じるレオンに比べたら安全かもしれない。
しかしなんだこの縄の太さ、頑丈さは。
こんなんで縛られたらめちゃくちゃ痛いんじゃないのか。
合法幼女に緊縛してもらえるなんてご褒美でしかないのだろうけど、俺の心は全力で拒否していた。
「さきっぽだけ、さきっぽだけじゃ」
「緊縛のさきっぽってなに!?」
「はあ、なんじゃ。心の準備が出来ておらんのなら仕方あるまい。後の楽しみに取っておこう」
「……ふう」
安堵でふかく息が漏れた。
「それに思ったんじゃが。エロを知りたいのじゃったらワシよりも適任がおるじゃろう。あの小娘に弟子を任せるのは気が引けるのじゃが」
「えっとなんのこと」
「あのNTR狂人じゃ」
そこだけは頼りたくはなかったのだが、たしかに今回の議題では適任がすぎるのだ。




