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罪の上に咲く花  作者: 杉野みそら


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3/4

幸せが恐怖に変わる時

『どうして』


『どうして見殺しにしたの』


 違う……


『あなたのせいで』


 違う!!俺はあの時、止めたんだ……


『あなたのせいで夫は死んだ』


 違う!!!!


「…………っ!!」


 はぁ、はぁ、はぁ……

 なんだ。夢か。

 妙にリアルな……


「うわっ、アカリいたのか?」


 俺の寝室にはいつのまにかアカリが入って来ていた。

 俺はいつも寝室に鍵をかける。アカリが入って来ないように。

 アカリのぬくもりをなるべく感じないように。

 寝る時ぐらい、冷たさと慣れた寂しさの中で眠りたいからだ。


 アカリの寝室は別に用意している。アカリは特にそれに対して何も言わなかった。


「……」


「鍵はかけてなかったのか、アカリ……どうした?」


 見上げたアカリの瞳はどこまでも暗く、何も映していない。

 ただ目の前の俺を通したはるか先の景色を眺めているようだった。


「ツシマさん、朝ごはんできてます」


「あ、ああ……ありがとう」


 アカリのそのセリフは極めて機械的な、義務的な冷たい言い方だと思った。

 妙だな、いつもはもっと……


 いつもはもっと柔らかい笑みを浮かべて、言い方ももっと優しくて。


 考えてハッとする。

 俺はアカリに何を期待している?

 優しさなど、俺と一番遠い世界の話だ。


 *


 その日一日は、驚くほど何事もなく過ぎていった。


 朝食の味噌汁は少し薄かったが、文句を言うほどではない。

 焼き魚はきちんと骨を取ってあり、米は柔らかすぎず硬すぎず、完璧だった。


「……いただきます」


「はい」


 アカリは向かいに座り、手を膝の上に揃えて俺を見ている。

 以前なら、俺が箸をつけるのを待って、ほっとしたように微笑んでいたはずだ。


 だが今日は違った。

 ただ、そこにいる。


 それだけだ。


「……食べないのか」


「あ、私は後でいただきます」


 淡々とした声。

 感情の起伏がない。

 機械のようで、壊れた人形のようでーー


(昨日の夢のせいか……)


 そう思おうとして、胸の奥がざらついた。


 アカリは食後、いつものように部屋を片付け、洗濯をし、床を拭いた。

 無駄な動きは一切なく、静かで、正確で、完璧だった。


「……何か手伝うことはないか」


 俺は思わず口を抑えた。自分でも驚くほど、優しい声が出たからだ。


 アカリは一瞬だけこちらを見て、すぐに視線を落とす。


「大丈夫です」


 それだけだった。


「……そうか」


 俺は何も言えなくなり、ソファに座って新聞を広げた。

 文字は目に入るが、意味は全く頭に入ってこなかった。


 ふと顔を挙げると、アカリの背中が見える。その背中が何故かひどく華奢で、消えてしまいそうで。


「……っ!」


 俺は思わずアカリを後ろから抱きしめていた。


 ーーアカリ……

幸せは時に残酷なのですね。

ツシマは思わずアカリを抱きしめてしまいましたが、それに対するアカリの反応はどうでしょうか。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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