閉ざした心
リハビリのつもりで書いた突発的な物語です。
シリアス味が強いです。
アカリは、部屋の隅に座っていた。
畳の上に落ちた午後の光が、埃を淡く照らしている。人が生きている気配はほとんどなく、ただ彼女の呼吸だけが、かすかに空気を揺らしていた。
玄関が乱暴に開く音がした。
男たちの靴音が、遠慮もなく室内に入り込む。
男達はアカリのことなど目に入っていないかのように金目のものがないか、確かめに来たのだ。
その時部下の一人が、アカリに気付いた。
「……あの女。確か嫁ですよ。どうするんですか、ツシマさん」
低い声で部下が言った。
「金目のもんは無いし、アイツは飛んだ。もう十分でしょう」
「ツシマさん、面倒ごとはごめんですよ」
部下は暗にアカリのことを言っていた。これ以上探すものはないと。
つまりアカリのことは見てみぬふりをしようと提案したのだ。どうせ赤の他人だ。女がどうなろうと知ったことじゃないと。
「…………」
ツシマと呼ばれた男は答えなかった。
短い黒髪に黒い上等のスーツ、頬には過去の古傷、手首からちらりと見える刺青、タバコを咥えながら部屋に立つその姿。
異様な雰囲気を纏うその長身の男はどこからどう見てもカタギではなかった。
氷のようだと評されてきたその表情が、部屋の奥にいる女を視界に捉えた瞬間、わずかに揺らいだ。
女は動かなかった。
こちらを見ても、驚きも怯えもない。ただ、世界と自分との間に透明な壁を置いたまま、ぼんやりとそこに在る。
(……こんだけの男達を前にして、怯えたり叫んだりもしねえのか?それとも自分の旦那が飛んじまって、おかしくなったのか?)
途端に好奇心がムクムクと湧いて来た。
「……顔を見てから決める」
「もう俺ら知らないっすよ!」
ツシマのその言葉に部下が呆れる。
実はツシマは大の女好き。しかもどの女も一癖も二癖もある女ばかりだ。
そのせいで何度もツシマは痛い目に遭い、部下がその尻拭いをさせられてきた。
『ツシマさん、面倒ごとはごめんですよ』
『もう俺ら知らないっすよ!』
部下の言葉からこれまでの苦労が伺える。
ツシマは部下たちを置き去りにし、アカリの前へ歩み寄った。
顎に指をかけ、そっと持ち上げる。
涙は流れていない。
すべてを諦めきったような静けさを纏いながら、それでもなお、瞳の奥には小さな炎が宿っているように見えた。
壊れているのに、死んでいない。
閉ざしているのに、消えていない。
ツシマは一瞬で悟った。
――気に入った。
「連れて行く」
部下が何か言いかけたが、ツシマは聞かなかった。
その日から、アカリはツシマの家で暮らすことになった。
こういう話を一度書いてみたかったんです。
※でもなんか文章が気に入らないのですぐ消すかもしれません。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




