9(凜空)
悔しかった。あの小娘の発する言葉にも、する仕草にも自分が負けていると理解した瞬間、腸が煮えくり返るような激しい嫉妬を感じた。属国の姫である私には、とても真似することのできない、稀有な存在。高みの存在。隣国・北林から嫁いできて鶯妃となったその娘は、寿桜泉といった。ある事件以来、忌み嫌われてきた鶯妃の座についた他国の姫は、桜泉が初めてだった。嫌われ者の立場に娘をやる国の皇女だ、きっと無知で馬鹿なのだろう。そう思った私は、後宮を教えてやろう、と考え、先ほどあった茶会で皮肉や嫌みをぶつけてやろうと思い立った。そして、茶会の時間。桜泉のような幼い娘には刺激が強いであろう露出の多い服を着て席に着き、登場を今か今かと待っていた私の前に現れた桜泉は、まだ十二という年とは思えないほどの非の打ち所のない美貌の持ち主だった。自分だって、後宮で五番目くらいには美しいつもりだった。でも、桜泉の隣に並べばたかだか引き立て役程度。淡い光を発する毛先がうねった桃色の髪。どこまでも澄んだ、翠がかった水色の瞳。薄い褐色肌。とても愛らしく美しい、強かさを感じさせる艶やかで華やかな笑顔。私が後宮で見てきた妃全員を凌ぐような美しさに、私は自分自身を否定されたような気持ちになった。そこで、考えていた通りの皮肉や嫌みを並べ立てたが、その全てが皮肉と嫌みで返された。茶会が終わると、私は顔を歪めて自分の住まい、蘭雀宮へと入っていった。私を見た侍女たちが不思議そうな顔をするが、知ったことではない。自尊心を根まで踏みにじられたかのような、そんな気分。
「雲雀妃?どうなさったのです?」
私が部屋で歯ぎしりしていると、閨でのお気に入りの宦官が部屋に入ってきた。後宮に入ったばかりの妃の場合、最初は皇帝以外と夜を過ごすことを拒否するが、一度経験するとその快感にハマり、何度も繰り返すようになる。そうだ。私はあることを思い付いた。この宦官、やっぱり良い仕事するわ。
「あのね、今日、新入りの妃と茶会をしてきたのよ。ほら、まだ空いていた春鶯宮の鶯妃に、北林の第二皇女がなったでしょう?その彼女よ」
私が服を脱ぎ、寝台に誘いながらそう言うと、彼も服を脱ぎ、こちらに歩きながら頷く。でも、ここからが本題。
「それでね、彼女、小娘のくせに私が嫌みとか皮肉を言ったら嫌みとか皮肉で返してくるの。それで、嫌がらせをしようと思って」
二人で寝台の上、肌を合わせて私がそう言い、二人で深い口付けを交わす。相手が宦官だから、妊娠の心配もない。私がもう一度言葉を発しようとすると、彼は興味津々といった感じの目で私を見る。私は彼の顎を人差し指でそっと擽るように撫でながら話す。
「私ね、思い付いたの。鶯妃にも、この快楽を味わわせて差し上げようと思って。どう?手頃な子、いないかしら」
私がそう頼むと、宦官は考え込むような仕草をし、私に訊いてきた。
「鶯妃のお年は?雲雀妃」
「ええ、まだ幼くて、十二やそこらなの」
私がニヤニヤしながら彼の胸に顔を埋めると、彼ーー阿去が私の体を抱く。
「分かりました。何人か見繕いましょう。しっかりと、宦官注文の履歴も残しておきます」
「あなたも悪になったわね。最初はもっと初心で純粋だったのに、ふふっ」
布団の中、二人で悪い笑みを溢し、肌を合わせ、口付けを繰り返したため、翌朝、体の奥に鈍い痛みがしたことを、その夜訪れた帝には絶対に話さない。
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