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朝。私は、小鳥のさえずりで目を覚ました。長椅子の上にはもう嶺鳳さまの姿はない。朝早くに出ていかれたのだろう。気持ちの良い目覚めなのに、どこか違和感がある。何ていうか……目線が低いような。私は体を起こす。そして伸びをして初めて、自分の体に起きたことに気付いた。伸ばした腕は母上譲りの見慣れた薄い褐色肌のものではなく淡い緑色。指先があったはずの場所は羽になっている。
「……え………?」
ま、って。わたし、鳥になってる?そのことに気付いた私は、一拍置いて理由を理解した。私今、妖術で鶯になってる。だとしたら、自分で戻れるはず。そう思った私は体に力を込める。すると、人間の体に戻った。腕も、見慣れた薄い褐色肌。
「はあ、良かったぁ……」
私がホッとしていると、扉が鳴る。
「鶯妃、お入りしても?」
控えめな声でそっとそう言うのは、私の準侍女頭の麗麗。その声に私はビクッとしたが、何もなかったかのように返事をする。
「ええ、大丈夫よ。でも、少し待って。髪が乱れているの」
私はそう言って自分の桃色の髪を手櫛で整える。そして、扉を開きに行った。
「おはようございます、鶯妃。そのお顔を見る限り、何かあったようですね?」
麗麗のその言葉に、私はビクッと大袈裟に肩を跳ねさせる。
「あの、ね、朝起きたら……鶯になっちゃってたのよ」
私が苦し紛れにそう言うと、麗麗は目を丸くし、何かを考え出した。
「気を抜くと鳥の姿になってしまう。それ、前例のないことですね。手が空いている者に調べさせます」
「えっ、待って、気を抜くと鳥になってしまうって、どういうこと?」
私は麗麗の呟きに反応した。別に、気を抜いた覚えは……あった。寝た時。嶺鳳さまがいるのに脱力感がすごくて気を抜いてた。
「確かに、そうね。今、少し緊張を緩めたらどうなるか、やってみるわ」
麗麗が頷いたので、私は眠る時のように気を抜いた。すると、一気に目線が低くなる。
「やっぱり、合っていますね。本当に、初めて見た」
麗麗はそう言ってハッとしたように顔を上げた。
「あ、申し訳ございませんね。お支度をするために参りましたのに。ささ、こちらへ」
麗麗に追い立てられるようにして、私は寝所を出る。そして、着付け室に入った。中にはたくさんの着物や髪飾り、靴。全て華栄の伝統衣装なので、本でしか見たことのないものばかりだ。私は昨日のものには多少劣るが、麗麗に色々と支度をされた。昨日と今日の2日で麗麗の着付けや化粧は一級品だということが分かっている。信頼して任せたら、濃い化粧ではないのに顔の部品がはっきりした顔立ちに見えるものが施された。
「麗麗、あなたってやっぱり化粧が上手ね」
私が感嘆の声を上げると、麗麗は自慢顔になった。
「ええ、そうでしょう義母……姑が教えてくれたんです。もう亡くなってしまいましたが」
さっきの顔とは一転、寂しそうな顔をした麗麗。良い人だったのかな。
「ご愁傷さま」
私が静かに呟くと、麗麗が明るい声を出した。
「鶯妃、朝からしんみりするのは良くないですわ。そうそう、この間うちの長男が結婚したのです!花嫁様はそれはそれはお綺麗な方で!」
「まあ、そうなの?どのようにお綺麗な方なの?」
私が尋ねると、麗麗はにこやかな顔で話に乗ってくれて、安心した。さっきしんみりしちゃってたから、良かった。
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