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私が部屋に入ると、帝は酒を飲んで寛いでいた。が、すぐに私の方を向き、ニヤリと笑う。
「ああ、来たか、鶯妃、桜泉よ」
「先程振りですわ、帝」
私が笑みを浮かべると、彼は首を振る。
「皇帝との夜を楽しみにしていたところ申し訳ないが、残念ながら私は帝ではない」
ほんとだ。確かに似てるけどよく見ればさっきの人物とは違うし、一人称が変わってる。えっ、というか帝じゃないなら誰?
「帝でないのなら、どなたなのです?それと私、別に帝との夜を楽しみにしていた訳ではございませんわよ」
「ほう、帝との夜を過ごすことを拒む妃がいるとは。興味を引かれる」
質問に答えない男に、私はもう一度問う。
「あなたはどなたですかと、私は先程から申しております。答えて下さい」
「分かった分かった、少し待て。私はこの国の皇弟・嶺鳳だ。年は十九。名前くらいは聞いたことがあろう?」
彼の言葉に、私は顔に笑みを貼り付けた。
「はい、ありませんね。どちらが有名かというと私の方じゃないかしら」
そして上目線戦法を取る。勝ち誇った顔の私を見て、嶺鳳さまは歯ぎしりした。
「まあ、良いだろう。そなた、なぜ私が兄者と入れ替わったか、分かるか?」
表情から私に不正解のことを言わせようとしているのが分かる。でも、私はそんなに馬鹿じゃない。父上に嫌がらせの階級で勉強をさせられていたんだもの、ここで発揮するわよ。
「本物の帝は政務が忙しすぎて妃の元に通う余裕がない……もしくは、新しい妃が入りすぎて相手をしている時間がなく、弟を影武者として同時進行……ですかね」
私が淀みなく答えると、嶺鳳さまは拗ねた。
「……正解だ。なぜそんなことが分かった。南空から嫁いできた鷹妃もそれなりに聡明だったが、そなたみたいな間者に向いた洞察力は無かったぞ」
この人、照れ隠しに回りくどいこと言ってるけど、要するに私は褒められている。普通に嬉しい。
「お褒めに預かり光栄です。それで、影武者ということは私と夜をお過ごしになるのですね?」
「ああ。いくら影武者とはいえ下手な妃に当たって夜を過ごさなかったと親元に言われれば我らの立場が無くなるからな」
その感じだと私も年相応に夢見がちだと思われてる?不服。
「私、幼いので夜を過ごす精力なんてありませんので、あなた様のお相手にはなりませんわ」
私が暗に幼いが別に情報漏らさないぞと伝えると、嶺鳳さまは少し考える仕草をした。
「そうか、そなた、本当に良き人材だ。男に生まれていればかなり高い地位に着いていただろうに、惜しいことだ。そうだ、そなた、我が国のために働かぬか?」
「は……?」
私は思わずそんな声を出してしまった。だって、他国から嫁いできて一日目の皇女兼妃に、自分の国の情勢を知らせるって言っているようなものなのだ。
「働くも何も、私が働くのは閨でのことだけです。国の政治なんて致しません」
私がきっぱりそう言うと、嶺鳳さまは笑みを深める。
「まあ、良い。また今度訪ねる。その時に答えを聞かせろ。今日はもう寝ても良い」
その言葉に、私は寝台に潜り込む。嶺鳳さまは長椅子に寝そべった。
「それでは、良い夢を」
そこは良い夜をじゃないのか、と思いつつ、私は眠りに落ちた。
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