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少し短めです。
食事が終わると、私たちは湯浴みをした。ただ、別の風呂でだ。私が使った後の湯は天上人が入るには汚れているし、かといって帝が入った湯に浸かると下賜に当たるからだ。
「ねえ、麗麗。せっかくこんなに化粧をしたのに、湯浴みをしてしまっても良いの?流れてしまうのに」
「はい。寝所で着飾っていてもかえって惨めになるだけですから。寝所では清楚な夜着が一番です」
楽しそうな麗麗は、経験者のように見える。
「ねえ、麗麗。あなた、もしかして既婚者だったりする?」
私がもしかして、と思ってそう訊くと、麗麗はニヤリと笑う。
「ええ、そうです。夫とは官女時代に出会いまして。今は後宮女官になりましたけど、頻繁に家に帰る予定です。わたしこれでも三十八の子持ちですから。ちなみに、夫とはものすごく仲が良いです」
衝撃だった。この若々しい美貌で三十八ですか、あなた。それに既婚者子持ちって、いろんな男性が悲しむと思う。
「そ、そうだったのね。通りで慣れてるように言うわけだわ」
私がそう言うと、麗麗が驚いたような顔になった。
「鶯妃は、嫉妬というものをお持ちではないのですね」
「え?嫉妬?今の話に嫉妬する要素あった?」
「ええ、ありますね。わたしが知っているお妃様は、自分からわたしに既婚者か、と訊いておいて是と答えると自分は帝の子どころかお通いすらないのに、って嫉妬して怒り狂って、わたしを自分の宮から追い出すんです。それで、後宮の中で一番多くの妃に仕えた女になってしまいました」
お気の毒に。何も悪くないのに、職を転々として。やっぱり後宮って女の伏魔殿だ。
「自分で聞いておいてあれなのだけれど、かなり重い話ね」
私が濡れた髪の水分を布で吸い取りながら言うと、麗麗は苦く笑った。
「そうですね。これはやっぱり、初夜を迎えるお妃様には合わないお話でしたか?」
「いいえ、そんなことないわ。後宮に対する警戒心が上がって、むしろ嬉しいくらいだわ。警戒しておけば、油断しているよりかは安全でしょう?」
そう言った私が微笑むと、脱衣所の外から眞美の声が聞こえた。
「鶯妃。帝のご準備が整いました」
「着替えを終わらせたらすぐ行くわ」
私はそう短く返事をし、麗麗が差し出した夜着を着る。清楚でいながらも少し薄いそれは、夜着と言うのに相応しい。薄いので女性らしい体つきが見えるが、私なんて十二なんだから、そんなに豊満な果実は持ち合わせていない。せいぜい薄っぺらい煎餅があるだけだ。そう思った私は、個人の見解では国内では賢帝の男との夜を過ごすため、脱衣所を出て寝所に向かう。まだ入ったことどころか見たことさえない部屋にこの宮の主人である私より先に別の人間が入っているのは少し複雑だが、その辺は気にしないようにしよう。何せ相手はこの国の帝であり私の夫の男性なのだから。何も気にすることはない。そう考えた私は、豪華な扉を両手で開いた。
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