1.
私が後宮に入ることになった理由は、二月前まで遡る。
『桜、華栄は知っているな?』
父のその言葉から始まった。いつも自分に愛情を与えなかった父。教育は受けて来たが、その全てがいじめまがいの難しい物だった。でも、その教育のお陰で華栄という国があるということだけでなく、特産品や後宮の仕組みなど、諸々も暗記している。
『はい、妖術、農業、土地に恵みがある国です。後宮に入内した妃には、鳥に化ける妖術が与えられるとか』
『そうだ。さすがは我が次女だけのことはある』
満足気に頷く父。いつも遠ざけてるくせに、こんな時だけ自分の教育の賜物かのような態度をとる。私のこの知識、父上が教育したみたいに言うけど、実際は父上から書物を渡された母上が私の教育してくれたのに。
『いつもは理茗様やお姉様方やお兄様のご機嫌を取って私を遠ざけていらっしゃるのに?』
私は思わず呟いてしまうが、父は図星だったのか、視線を逸らす。理茗様とは父の皇后、正妃のことだ。お姉様方とは第一、三、四皇女を、お兄様とは第一皇子を指す。そして、第二皇女の私の母は側妃の鈴麗だ。そして、母上は隣国・彗彬。私の兄姉は異国の血を嫌うのだが、母上は少しうねった淡い桃色の髪に緑がかった水色の瞳を持っていた。そして、その長女である私も、異国情緒溢れる容姿なのだ。つまりは異母兄姉には疎まれている。
『とにかく!お前を、華栄の後宮に入内させようと思う』
『はあ!?』
私は嫌だ嫌だと駄々をこねた(?)が、結局はこうして華栄に向かっている。
「桜さま、本当に宜しかったのですか?」
乳母の眞美が私に問う。
「私が抵抗したのはあなたも知ってるでしょ?」
「ですが、桜さまはまだ12であられます」
そうなのだ。眞美の言う通り、第二皇女の私ーー寿桜泉は12、第一皇女の寿楽泄は16。年頃なのは第一皇女だ。華栄の皇帝は25。絶対に疎まれている私を追いやるために違いない。
「いくら桜さまのことが疎ましいからといって、まだ幼い娘を女の伏魔殿に放り込むなど!それに、華栄とより深い関係を結びたいのならば御子ができた方が良いはずなのに、幼い方の娘を!」
「眞美、それ以上言ってしまうと不敬罪で処罰を食らうわよ」
私は単純に眞美の首が心配なので窘める。そこに家族の愚痴を言われて腹が立つという要素は断じてない。
「ですが……!」
眞美が言い募ろうとした時、馬車が大きく揺れる。まるで眞美の首を守ろうとしてくれているような機会。
「眞美、逆に考えるとこれは好機なのよ。だって、父上から離れられて、且つ鳥に化ける妖術を与えられるのよ!?そんなの自由で良いじゃない?」
私が目をキラキラさせながら眞美に詰め寄ると、眞美に肩に手を置かれ、座席に戻される。
「楽しみなのは分かりましたから、危ないことはおやめ下さいましね」
今のように、と付け加えられ、私は頬を膨らませて「はぁい」と返事をする。馬車の窓を眺めていると、国境と思しき豪華な扉が視界に飛び込んできた。
「ねえ、眞美!もしかして、あれが華栄の国境かしら?なんて素敵なの!」
私が眞美の方を向いて尋ねると頷かれた。
「ええ、そうです、桜さま。もうすぐ後宮ですわ」
眞美の言葉が聞こえた私は、期待に胸を膨らませた。ここから私の自由への第一歩が始まる。雁字搦めの生活とはおさらばよ!
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