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虹の向こうにあなたがいる  作者: 広之新
第2部 現実世界編
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第70話 モーツェイカの奇跡

 -異世界ー


 ダイたちは自分の世界に戻った。逮捕したカートたち4人の元監察警官を連れて・・・。そしてダイやナツカたちは監察部に身柄を拘束されて厳しい事情聴取を受けた。向こうの世界で起こったことをすべて正直に話すようにと・・・。


 元監察警官たちを逮捕したナツカたちの行為は称賛されたものの、ダイに続いて向こうの世界に渡ったことはやはり咎められた。その結果、これを主導したナツカはヒラの保安警察官に降格。ロークとラオン、ミオは戒告処分となった。またこれを許可した第1分署のダイタク署長はけん責処分が下った。なお監察警官のリーモスは戒告処分の上、第1分署保安警察官に配置転換となった。


 そしてダイは査問委員会にかけられた。職務を放棄し、勝手に向こうの世界に飛んだことは非難された。だが負傷してまで懸命に戦い、カートを逮捕したことは十分に評価された。そこで審判が下され、ダイの処分は降格だけにとどめられた。それにより彼は保安警察官を続けることになった。彼の出した辞表はまだ受理されていなかったからだ。


 それからすぐにロイ教授の装置により、次元の穴は完全にふさがれた。もう向こうの世界からこの世界に来るものはないだろう・・・。つながりは完全に絶たれたのだ。


 ◇


 三下高原では第1分署第3班によるパトロールが行われていた。ここはもうググトの巣ではなく警戒地を解かれたが、やはり危険があると判断されてまだ保安警察官によるパトロールは継続されていた。


「今日も平和ですね」

「そうね。ググトも見かけないしね」


 ナツカはミオと並んで歩いていた。


「ロークさんの方はどうでしょう?」

「多分、大丈夫よ。何の連絡もないし、もうすぐ合流するしね」


 そう話していると遠くで手を振る2人組が見えた。


「ロークとラオンが来たわ。これでパトロールは終わりね」

「班長は?」

「あっ! 忘れていた。いつもここでは単独行動をとるから・・・」


 するとモーツェイカの笛の音が聞こえてきた。


「班長ね。またここで気持ちよくモーツェイカを吹いている」


 聞こえてくる笛の音はダイが吹いていたのだ。彼は降格処分になって第3班の班長に復帰していた。


「私もモーツェイカを持ってきて吹こうかな?」

「やめてよ。2人もそんなことをしていたら『第3班は笛を吹きに三下高原をパトロールしている』と言われるわよ」

「それもそうですね」


 ミオとナツカは顔を見合わせて大きな声を上げて笑った。


 ◇

 ―現実世界ー


 あれからもずっと沙羅はSARAブランドのために奔走した。休暇も取らず、仕事に熱中していたのだ。その甲斐もあり、1年後にはSARAブランドはトップブランドとして認められ、業績はかなり上向き、会社の再建は軌道に乗っていた。それでも彼女は満足しない。


「市場の動向は?」

「デザイナーの確保は?」

「ファッションショーの準備は?」


 相変わらず会議では矢継ぎ早に社員たちに聞いて回る。以前なら動きが鈍かった社員たちも、彼女に引っ張られてすぐに行動に移せるようになった。いや、彼女が言わなくても先に行動していることが多くなった。社員全員が《《できる》》ようになったのだ。それに幹部も育ち、彼女が一々口を出さなくても会社が回るようになっていた。


 その日、沙羅は久しぶりに家に帰った。そこでは父の宗吾と母の祥子がやさしく迎えてくれた。おいしい食事に楽しい会話、そして家族のだんらん・・・・。


「SARAブランドはトップになったのよ。デザイナーも一流ぞろいだしね。会社は大きくなって、日本のあちこちに支社を出すのよ・・・」


 沙羅は饒舌にしゃべり続けた。それを宗吾と祥子は微笑みながら聞いてくれていた。


 やがて夜になり、沙羅は自室のベッドに座っていた。窓からは星が見える。すると忘れようとしていたダイのことを思い出していた。いっしょに生活したこと、いくつもの苦難を乗り越えてきたことなど・・・。最後にダイと別れた日から明日でちょうど1年経つ。


「私ってダメだわ。もう取り戻せないことを振り返ってしまって・・・」


 すると部屋がノックされた。開けてみると祥子が立っていた。


「どうしたの?」

「ちょっと話をしていい?」


 祥子は部屋に入って沙羅と一緒にベッドに並んで座った。


「今日、あなたはいろんな話をしてくれたわね。大丈夫なの?」

「ええ。心配いらない。会社はもう大丈夫よ」


 沙羅はそう答えた。


「いいえ。あなたのことよ。自分のことは何も話していない」

「そんなことはないわ。がんばったのよ。一生懸命にがんばったのよ」


 それを聞いて祥子はふっとため息をついた。


「ええ、がんばったわ。沙羅はがんばったわ。何もかも忘れて・・・。でも沙羅が無理をしているように思うの」

「えっ!」

「沙羅。あなたに何が起こったのかはわからない。でもあなたが何かを忘れようとしているのはわかる。そのためにあなたは無理に仕事に打ち込んでいる。それは確かに感じるわ。でももういいのよ」

「でも会社が・・・」

「沙羅。私には会社なんてどうでもいい。あなたが幸せになってくれたら・・・。あなたがすべてを引き受ける必要はないわ。何もかも放り出していいのよ。あなたが望むままにいきなさい。もしあなたがいなくなってもお父さんもお母さんも悲しまない。あなたが幸せになっていると信じて・・・」

「お母さん・・・」


 沙羅は祥子の胸に飛び込んだ。祥子には沙羅の辛さがわかっていたのだ。祥子は沙羅の頭をなでながら言った。


「沙羅。必ず幸せになるのよ」

「わかった」


 沙羅は顔を上げた。その穏やかな表情に祥子は安心したようだった。


「じゃあ、おやすみなさい。ゆっくり寝るのよ」


 祥子はそう言って部屋を出て行った。


 ◇


 次の日、沙羅は1年ぶりに三下山に登った。あの約束を果たすために・・・。仕事の予定はすべてキャンセルして長期休暇を取って来たのだ。

 今日は雲一つないほど天気が良く、風がさわやかだ。山から見る風景は1年前と変わらず、美しかった。


「相変わらず空気がおいしい。清々しい気持ちになるわ」


 沙羅はモーツェイカを取り出した。今回の登山はこれが目的だ。だがもう1年以上、吹いていない。


「音が出るかな。確か、心の中の音を笛に乗せるってミオさんから聞いたっけ」


 沙羅は思い出しながら吹いてみた。すると以前のような音が出た。1年間のブランクを感じさせないほど・・・。


「大丈夫みたい。吹く曲ももちろんアレよ」


 沙羅はモーツェイカを吹き始めた。かつて心を慰めてくれたあの曲を・・・。それはダイが失踪した婚約者のユリを求めて吹いた曲だった。物悲しいメロディーながら生きる希望を与え、魂に訴えかける。その笛の音は山の澄んだ空に響き渡った。

 沙羅は吹きながらダイのことを思い出していた。いや、ダイへの思いを笛の音に乗せているというのが正しいのかもしれない。


 やがて空からオーロラのような光が落ちてきた。それはあの時と同じだった。異世界で別れの日、ダイと2人でモーツェイカを吹いた時と・・・。それで沙羅は直感した。異世界でも今、ダイが三下高原でモーツェイカを吹いていることを・・・。だが次元の穴は完全にふさがれているから異世界に通じるワームホールは現れないだろう。


(ダイに会いたい!)


 それでも彼女はそう祈っていた。やがてオーロラの光は沙羅を包んだ。辺りがまぶしくなる・・・。そこで沙羅は見たのだ。ぼんやりと映るダイの姿を・・・。そしてダイも沙羅の姿を見たのだろう。笛を吹きながら沙羅を見つめている。


(ダイ! また会うことができたのね)


 沙羅もダイを見つめた。次元の壁がモーツェイカの笛の音と共鳴して薄くなり、2人にお互いの姿を見せているのだ。


(でも届かない・・・)


 沙羅とダイの間には依然として次元の壁があるのだ。これを越えることができないのか・・・。その時、沙羅の頭に母の祥子の言葉が何度も浮かんでいた。


「・・・あなたが望むままにいきなさい・・・」


 沙羅はその言葉に導かれるようにオーロラに映るダイに飛び込んでいった。すると彼女は一瞬だが虹色の光を見たのだ。後のことは覚えていない。


「沙羅!」


 その声で沙羅は我に返った。それはダイの声だった。気が付くと沙羅はダイに胸に飛び込んでいたのだ。ここは異世界だった。彼女の思いが次元の壁を通り抜けさせたのだ。

 ダイは沙羅の顔をのぞき込んだ。


「沙羅! 本当に沙羅なのか!」

「ええ、そうよ。私、来ちゃった」

「どうやって?」

「それはわからない。でもあなたに会いたかったの。向こうの世界の何もかもを捨ててでも・・・」


 沙羅はダイと見つめ合った。


「これからは一緒にいてくれるのか?」

「そのつもりよ。ここの生活が懐かしくなったから」

「そうか。じゃあ、あの団地に帰ろうか」

「ええ。そこがこの世界での私の家だもの」


 2人は並んで草原を歩いた。そのうちに日は暮れ、空に星が輝くようになった。


「前と同じね。この星の輝きは・・・」

「ああ。でも君と一緒じゃないとこんなに輝かないような気がする」


 夜空の星はまた明るく輝きだした。2人を祝福するように、そして2人の未来を明るく照らすように・・・。三下高原にはまた2人のモーツェイカの笛の音が響き渡ることだろう。これからずっと・・・・。



  完


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